最強
ナツメグです!
先日新作を投稿致しましたので、もしかしたら更新に変化があるかもしれませんが…なるべく遅くしないようにしますね
さて今回も挿絵あり!
ついにアイツが出てくるぞ!
それでは、どうぞ!
変化が起きたのは、四日目の昼だった。
「っ、…はぁ…はぁ…ぁ…」
「…アルシエル殿…ッ!」
流行り病のように、前触れもなく起きた異変は、確実にシエルの身体を蝕む。
単純に隔絶障壁の修復をするにも負担はかかる、それは事実だ。
しかし、今彼女に身に降り掛かっているものは、ただの疲労でも、魔力の不足から来る衰弱でもない。
「…賢しいことを思いついたものですね…!」
「むぅ…っ」
数十分前。
「ガルザード様!即席ですが、破城槌が完成しました!」
「でかしたぞ!準備を急げ!」
自生していた樹木を切り倒し、物資運搬用の荷車と併せ、即席破城槌が出来上がる。
破城槌に利用できるだけの巨木を切り倒すことも、それを加工することも、戦場という場でこなすにはあまりにも困難。
しかし、ガルザードが班を二つでなく三つに分けた真意はここにあった。
兵器の制作。
壁を殴るのには剣や槍、斧は不向きだし、そもそも近付くことが危険だ。
実質的な戦力は魔術師のみ。
そこで、手の空く班のうち一班に、手製の破城槌を用意させた。
「これならば罅割れの一つも付けられよう…!魔術班、“身を焦がす毒”詠唱を開始!破城槌の直撃に発動を合わせろ!」
素早く指示が飛ぶ。
構えを取る魔術師たち、巨大な破城槌の動力となるべく呼気を合わせる歩兵たち。
鍛えられた彼等には既に、ガルザードの意図するものが見えていた。
「破城槌、構えろ!5!4!3!2!1!」
戦いとは、意地だけでなく無茶だけでなく、戦略がぶつかるものだ。
「行けッ!!」
轟音と共に、圧倒的質量の塊が、その衝撃を一点に叩き込む。
見ている分には重さを感じさせないほどの速度。
100以上の人間の筋肉が軋み、全身全霊の力で地を踏みしめる。
破壊の使徒と化した森の巨木は、魔術師たちの一斉攻撃を優に越え、或いはガルザードの連鎖魔術にも劣らない程の破壊力を持っていた。
「よし…!続け!間髪を入れるな!!」
そして、霧のような魔術が、直撃痕に集中する。
壁に吸い込まれるようにして消えていく霧…身を焦がす毒。
「いいぞ…!!やはり睨んだ通りか!」
「魔力循環を利用されました…!」
「魔力…循環?」
「はい」
語る彼女の目は未だ死んではいない。
しかし、見るからに疲弊し、何かしらのダメージを負っている。
「魔法陣を利用した障壁に魔力を供給し続けた場合…キャパを越えた魔力は術者に還元されます…」
「…術と術者が繋がっているということか…」
「はい…奴ら…壁の傷から…汚染した“魔力”を直接流し込んできた…!!」
ガルザード以外にはまともな傷を付けられていないために油断していたが、奴らは壁にまともなダメージを与える手段を得たらしい。
そしてそこに、魔力を術式として変換するのではなく、質だけを変えて直接流し込む。
飽和した魔力は、魔法陣による術者との連結効果によって、本人に流れ込む。
「ぐっ…ぅううう!!」
加えて、人間と異なり魔力を血液のように体内で流す性質を持つ獣人は、汚染された魔力の影響を強く受けやすい。
シエルが受けている苦痛は、想像を絶するものになる。
「こっ…の…!!」
能動的に血流を操作できないように、汚れた魔力を放出したくとも、彼女自身の魔力と混合してしまったそれだけを抜き出すのは難しい。
「それ…でも…!!」
神経を直接攻撃されるような激しい痛みの中、ギリギリまで意識を高める。
少しずつ、少しずつ、排気口のように、抜き出していく。
「…やってくれますね…伊達に二位を張ってはいませんね…」
初めて、恐怖を感じた。
未だ身体を食い荒らし続ける痛みに抗いながら、それでもなお、アルシエルは止まらない。
「第3波!構え!!」
一方で、確実な打開策を見つけほくそ笑むガルザードにも、内心で余裕はない。
破城槌は一回一回の攻撃にも時間を要する上に、物資の不足から来る兵たちの疲労も尋常ではない。
「(持っても明日まで…これ以上は脱落者も有り得る…)」
既に顔色の明るくない人間も多い。
全力で戦えるのは今日までか。
「行け!!!」
一回でも多く、一回でも多く攻撃を。
そう焦る度に、兵の士気と体力が奪われていく。
「ガ…、ガルザード様…すみません…」
「…休憩だ!一時間だ!」
限界はすぐそこだ。
彼らに無理を強いたとて、万が一ここを突破できなければ、何れにしても帰りの食料が尽きる。
それを考慮すると。
「…今日でダメならば、明日の朝、お前達はガルバンディアに帰れ」
「し、しかし!」
「ガルバンディアまでは長い、このままでは途中で倒れる者が出る」
兵は物ではない、生きた人間であり、仲間だ。
日増しに消費の増える物資が、彼らの疲れを物語っている。
「…よし、続けるぞ!」
アルシエルと対峙する一人の魔術師である以前に、彼は一つの兵団を率いる人間だった。
「まだ…まだだ…」
「まだ終わりません…」
「「まだ負けない!!」」
互いを敵と認め合い、死力を尽くすからこそ見える景色があるとするならば、それはここにある。
一時間、また一時間と時間が過ぎていく。
それぞれがそれぞれの苦しみにもがきながら、叩き、耐え忍び、繰り返す。
やがて体の限界から倒れる者が現れ、やがて魔力が尽き倒れる者が現れる。
空を見れば燃えるような真紅、焦りは雨雲のように重く押し寄せる。
終わりの見えない苦しみの中、体を蝕む毒が眼球の色を濁らせる。
幾度も流れ来る不純な魔力に、それでも耐え、それでも逃げない。
いつの間にか周りに集まる村の人々の心は、恐怖を越え、あるのは理不尽な現実に対する諦めでも、都合のいい神への祈りでもなく、彼女にすべてを託すという信頼、意志。
両者にもはや語る口はなく、僅かな体力さえも振り絞って全霊を傾ける。
目に見えないはずの敵、一枚の壁を越えた先にいる敵へ、心の内で賞賛すらも送りたくなる。
彼はまだ戦えるのか、彼女はそれでも耐えるのか。
状況は極限そのもの、一瞬でも気を抜けば何もかも失う、限界の綱引き。
身体を駆ける激痛に抗う者、放出し続けた魔力から直立が限界の者。
二者は何を思うのか、何を感じるのか。
或いは、何も、無いのか。
そこからの記憶は、意識は、
彼女には
もはや
ナ
…
「勝ったのは私のようだな、アルシエル」
「…………」
「村人達なら尻尾を巻いて逃げたぞ」
あれからどうなった?
ガルザード一人?兵団は?
私は、
「…………」
「…兵がいなくとも…今の貴様など…」
兵は引き上げた。
そうか。
彼も限界のはず。
今すぐの虐殺は免れるだろう。
「…どう、です…か」
「…………」
「…“最強”を迎えた…瞬間…」
この時、ガルザードは何を思ったろう。
目指してきた場所が目の前にある。
最強という頂点に手が届く。
けれどそれは、
「…そうだな」
こんな戦いの末に、彼一人だけが漁夫の利のように戴くべき称号だろうか。
「最悪だよ」
砲撃のような音が響く。
肌を焼くような熱の中に飲み込まれる。
簡易結界を貼る余裕もない。
私はここで死ぬんだ。
なんて無責任な女だろう、守りたいものすら守れず、大切な人は裏切る。
酷い女だ。
ここで死んでも仕方ない。
仕方ないのに、
そんなこと、
考える暇さえ無いはずなのに。
「…誰だ」
「盾に名前なんかあるかよ」
「オッサンは仲間を守りに来ただけだ、文句あるか小僧」




