1-7. 俺と付き合ってくれませんか?
(*綺夏視点)
「少し、時間をください。俺と付き合ってくれませんか?」
思輝くんからこのメッセージを受け取った時、一瞬呼吸を忘れた。最初の一文の存在なんか忘れて、『俺と付き合ってくれませんか?』という文だけが脳内に一気に飛び込んできたからだった。前後の文脈のことは考えずに、ただその一文だけが脳裏に焼き付いて離れなかった。
多分、10回くらい読んだと思う…ようやく、前の文とつなげて読むことができた。男女の付き合うってことではなくて、なにかに付き合ってほしいってことか…
驚きから安心へと感情が変化すると同時に、少し落ち込んだような気持ちもして…いやいや、それはおかしい。なんでちょっとショックなのよ。親友の弟と、男女の仲になりたいとか思ってないのに…まあ、あれだけのイケメンに言われたら、誰でも嬉しいか。私の心の中は、一人であれこれ考えるのに忙しかった。
10月に入って、ちなつの誕生日のプレゼントを考えていたら、思輝くんもそうだったみたい。どんなプレゼントがいいか、アドバイスがほしい、一緒に買い物に行きたいというものだった。高校生の思春期の男の子が、姉のために誕生日プレゼントを買いに行くって、本当にいい子すぎる…
そんな素敵な思輝くんの力になりたいと思ったから、すぐに予定を決めた。たまたま日曜日が思輝くんの部活もわたしのバイトもないから、お出かけすることに決まった。
……
これ、デートじゃない?
いや、デートなのか?
親友の弟とのお出かけに、やたら緊張している自分に気づく。どんな服を着たらいいかな…どんなメイクをしよう…髪形は…?あのイケメンの隣を歩くために、わたしもフル装備しなくては…
まるで、好きな人とのお出かけ並みにいろんなことを考えていた。相手は高校生だし、姉の親友としか思ってないだろうに、わたし意識しすぎちゃってるかも…わたし、客観的に見ると、ヤバい人なのかな…
露出を少な目にして、大人っぽい服装で行くことにした。
……
待ち合わせ場所に着くと、先に待っていた。10月の柔らかな黄金色の光に照らされて、思輝くんの髪の輪郭が、ふわっと淡い茶色に透けていた。 中学生のときはもっと真っ黒で艶やかな髪だったのに。高校で水泳部に入って半年、夏の激しい練習を乗り越えた彼の髪は、塩素のせいで少しだけ色素が抜けている。 その、光を吸い込むような色素の薄い髪の毛が、なんだか彼を少し大人びて見せていて、私は小さく息を呑んだ。
どこからどう見ても、高校一年生に見えない。少し傷んだ髪の毛を無造作にセットし、引き締まった体がシンプルな服を着こなしている。
「お待たせ~」
近くに来て気づいたアールグレイの香り。あ、今日は香水をつけてるんだ。
「おはようございます。今日は、ありがとうございます。」
「いえいえ。わたしもちなつのプレゼント買おうと思ってたから、ちょうどよかった。誘ってくれてありがとう。さ、行こっか」
「なんとなく、目星ついてます?」
「うん!気になってるお店がいくつかあるから、まずはそこに行きたい」
オシャレなお店が集まる店内に入り、お目当ての場所に二人で向かう。エスカレーターに乗ると、思輝くんはさっと後ろに回る。一段後ろに乗る思輝くんが手すりに摑まる。その腕がわたしの横まで来ていて、まるで後ろから抱きしめられているみたいに感じる。いつも感じる身長差も、段差のおかげてなくなって、なんだか顔の距離が近くなったようで…
やたらドキドキする心を落ち着けたくて、たわいもない会話をする。
「思輝くん、また身長伸びた?一段上なのに、目線が同じくらいだよね?」
振り向くと、すぐそばにある顔に一瞬怯みそうになった。
「最近身長計ってないからわからないですけど、高1の春の時点で184㎝でした。」
わたしはこんなに緊張してるのに思輝くんは普通に答えている。わたしが間に受けやすいのか…
「え?思輝くんってそんなに身長高いの?!」
「まだ伸びてる感じはしますけど、正確にはわからないです。」
「こんなイケメンで身長も高いって…『天は二物を与えず』だね」
「まあ、否定はしません。ありがとうございます。」
「素直でよろしい」
エレベーターから降りて歩いていると、オリジナルの香水が作れるお店を見つけた。
「あ…香水、見たいから、ちょっと入ってもいい?」
「いいですよ」
「思輝くんのアールグレイの香りって、別名なんて言うんだったっけ?」
「ベルガモット。ここにありますよ」
香りをかぐと、私の好きな落ち着く香りだった。
「すっごくいい匂い。これだけでもいいけど、これだけだとオリジナルの香水感がないよね」
「他に好きな香り、探したらどうです?時間はたくさんあるので」
「いいの?ありがとう。じゃあ、いろいろみてみるね」
わたしはウキウキした気持ちで気になった香りを嗅いでいく。思輝くんもいくつか選んで香りを嗅いでいた。
「気になるのありました?」
「いろんな香りをかぎすぎて、わからなくなってきた。これとか?」
わたしの中で、かすかに印象に残っていたのは石鹸っぽい香りだった。
「俺、これが好きでした。」
差し出されたのはキンモクセイ。わたしも嗅いでみると、これいい!と微笑んだ。さっき、道端で金木犀の香りがしてテンションが上がってたから。
「あと、剣さんは瑞々しくてフレッシュなのも合うと思うんですよね。このシトラス系のどれかとか?」
オレンジ、レモンなどのシトラス系の香りも二人で嗅いでいく。
店員さんに相談したら、
「トップノートにベルガモットとシトラスを入れて、ミドルにキンモクセイを入れると素敵ですよ」
と勧められた。
石鹸っぽい香りがいいと思ってたけど、断然こっちの方が好きな香り。これにしようかな。まだ、香水をつけることに慣れてないから、小さいボトルで買おうかな。
「じゃあ、その組み合わせで小瓶の方をひとつください。」
「わかりました。ボトルはどれがいいですか?」
いろんなかわいい形の瓶が照明の下にずらっと並んでいて、どれにするか迷った。そういえば、キャンプの時に思輝くんがもってた香水のボトル、こんな感じの丸いフォルムだった気がする。これにしようかな。別に、真似してるわけじゃないけど、これが一番かわいいから。
「これでお願いします。」
「では、調合しますのでできたらお呼びしますね。」
待っている間、小瓶がついたネックレスを見つけた。この小瓶の中に好きな香りを入れることができるみたい。デザインもすっごく可愛い…ちなつのプレゼント、これもいいかも。候補の一つとして考えておこう。
いろいろじっくり見ていたら、
「はい、どうぞ」
思輝くんから紙袋を渡された。
「ありがとう。でも、あれ…お会計しなくちゃだよね?」
「俺からのプレゼントです。今日付き合ってくれたお礼で」
「え…そんな悪いよ。高校生の貴重なおこずかいを使わせちゃって…」
「俺からの感謝の気持ちなんで、もらってくれると俺も嬉しいです。剣さんは、まず受け取る練習しましょう」
「…わかった。本当にありがとう。すっごく嬉しい。大切にするね」
わたしが喜んで受け取ると、優しく包み込むような笑顔が目の前にあった。なぜかふいに涙があふれそうになった。なんでだろう…温かい気持ちで心が満たされる。
急に心に浮かんだ言葉があった。
(大切にされるってこういうことなのかな…?)
これまでもプレゼントをもらうことはあった。もっと高いプレゼントも、たくさんプレゼントをもらうことも。でも、想いがすごく伝わってくるから、特別嬉しいのかもしれない。
今日、涙腺緩くなってて、危険かも…
そんな気持ちをかかえながら、わたしたちは本来の目的であるお店に向かったのだった。
【潜在意識の視点から紐解く『第1-7話の答え合わせ』】
① エネルギー(波動)の体感=潜在意識の書き換わり
頭で「これはただのお礼」と納得させようとしても、魂やエネルギー(潜在意識)は嘘をつけません。理由も分からず溢れる涙は、思輝くんの純粋な愛のエネルギーに触れ、長年固まっていた心のブロックが溶けた感動の涙です。
②「受け取る練習」で愛される世界へシフト
思輝くんの「まず受け取る練習をしましょう」は、核心部分!「私なんて…」と遠慮せず素直に受け取った瞬間、綺夏の潜在意識は「私は大切にされていい存在だ」という前提(思考)に上書きされました。
「大切にされるってこういうことなんだ」と体感したことで、引き寄せる現実はこれから一気に変わっていきます!




