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親友の弟で姉の親友のわたしたち  作者: りなる あい
第一章:ベルガモットの香りと、大切にされる許可

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1-2. 同じ香りに包まれて

(*綺夏きな視点)


 車に戻り、忘れものが入ったポーチをとった。さっき、鞄を広げた時にこのポーチが邪魔だったから一瞬出したんだけど、そのまま座席の隙間に落ちてしまっていたのに気づかなかった。このポーチの中にはコンタクトレンズ用品一式が入っている。夜に車に取りに来ることにならなくてよかった。

 一安心していると、思輝(しき)くんもなにやら忘れていたみたい。ダッシュボードから茶色の瓶を取り出していた。


「あれ?思輝くんも忘れ物してたの?」


「はい。俺のこと、パシリ要員として呼んでおきながら、『汗臭くなったら退場だから』ってちなつに言われてて」


「ちなつ、相変わらず厳しいね」


 わたしは苦笑いした。手元を見ると、オシャレな香水のボトルが握られていた。


「てっきり制汗剤とかかと思ったら、香水だったんだね」


 さっき、思輝くんの首に触れた時にふわっと香ったのは、この香水だったんだ。一瞬にしてその情景がよみがえり、顔が赤くなるのを感じる。手元を見るふりをして、顔を上げないようにしながら聞いた。


「匂い、嗅いでみてもいい?」


「どうぞ」


 掌にポンと渡された香水を鼻の近くへもっていく。


 この匂い、いい…普段、香水はあまり好きじゃないのに、この匂いは好きって思えた。


「すっごくいい香りだね。好きかも」


「付けてみます?」


「いいの?」


「うん。じゃあ、手首出して」


 最近気づいたのは、時たま出る思輝くんのタメ口にドキっとしてしまうこと。今も、こんな一言に、わたしの心臓が反応しているのを感じる。


 シュッと振りかけられた香水をもう一度嗅ぐ。すると横から


「こすり合わせると香りが飛ぶから、そのままトントンって馴染ませてください」


 この人、本当に高校生?香水の付け方もマスターしてるなんて…


 それにしても…今、わたしと思輝くん、同じ匂いに包まれてるんだ…まるで、彼氏と彼女みたい…?そんなことを考えてしまう自分が恥ずかしい。思輝くんはきっと、姉の親友としか思ってないんだろうな~…3歳差って感じさせない高校生。本当、大人っぽい人だな。





「あ!思輝と綺夏がやっと戻ってきた!」


 ちなつが嬉しそうにぴょんぴょんしている。


「ねぇ、ちなつ、さっきすごい物みたよ!」


「すごいものって?」


「蛇が日向ぼっこしてるところ見たの!」


「は?日向ぼっこ?」


「蛇が物置の屋根の上で日光浴してた」


 そうだった、思輝くんは日光浴って言ってた。わたしってば、日向ぼっこって言っちゃってた。

 ちらっと横を見ると、


「剣さんはめっちゃ蛇にビビってたけどね」


 ニヤっとした顔でわたしを見下ろしてきた。


「いやいや、蛇を見たら、そりゃビビるでしょ!わたし、野生の蛇なんて見たことないよ」


 ちなつは思輝くんをバシっと叩いていた。わたしが蛇に驚いて、思輝くんに飛びついたことはちなつにわざわざ言わなくてもいいよね?頭の中でその時の映像がまたもやリピート再生されそうになって、気を紛らわせようと思ったわたしは食事の準備にとりかかろうと移動した。


 お昼ご飯はカレーライス。11人分のカレーってこんなに材料いるんだ…包丁が3本しかないから、3人で手分けして食材を切っていく。


「綺夏、切ってくれてるんだ、ありがとうね」


 ちなつが後ろからやってきて声をかけてきた。


「こんなにたくさん、カレー作ったことないよ」


トントン


 私が切っている手元を見ながら、なぜか横で固まっているちなつが視界に入る。


「ちなつ、どうしたの?」


「いや、なんか、綺夏から思輝と同じ匂いがする気がして…」


「そう。よく気付いたね。思輝くんも香水を車に忘れてたみたいで。いい匂いって言ったら、つけてくれた」


 包丁を離し、すっと手首をちなつの鼻もとにもっていった。


「なにあいつ、わたしには1プッシュすら試させてくれなかったのに!」


「そうなの?」


「いい匂いだから貸してって言ったら、高いから絶対にダメって言われたのに」


「ははは。思輝くんって意外とケチだね」


 わたしはくすくすと笑った。


「俺の近くで、そんなに堂々と悪口ですか」


 後ろから声がして振り返ると、思輝くんがわざと睨みをきかせていた。


「これは悪口ではなく、れっきとした事実を述べているだけなんだけど」


「はいはい。そうですか。」


 この姉弟はいつもこんな感じだな。二人のやりとりに和んでいたら、思輝くんがわたしの横にきた。


「手、疲れてないですか?人参、そんな切り方してたら、大変じゃないですか?代わりますよ」


「え…ありがとう。」


 実は、硬い人参を切るのに疲れてきたところだった。よく気が付くよな~。いつものことだけど、思輝くんのそんなところに関心する。周りを見て、サラッとフォローしちゃうとこ。


 わたしとちなつが薪をくべるところに移動する時、ちなつはまだ香水のことを言っていた。


「わたしがこの香水のこと聞いたとき、めっちゃ詳しく教えてくれたんだよね。これ、ベルガモットの香りで、別名:アールグレイっていうんだって。しかも、香水は手首をこすり合わせたらダメだとかさ。」


「これ、アールグレイの香りなんだ!だから好きって思ったのかも!」


そういえば…一番最近の失恋でちなつの家に行ったとき、アールグレイの紅茶を出してくれたな…アールグレイ…わたしもこの香りの香水、探してみようかな?


 頭の中でいろいろ考えていたら、ちなつがぼそって横でつぶやいていた。


「てかさ、同じ香水つけるって…完全にほかの男子をけん制してるじゃん…」


 あまりにも小さい声だったから、緑あふれるさわやかな風に流されて、わたしの耳先をかすっていっただけだった。


【潜在意識の視点から紐解く『第1-2話の答え合わせ』】

① 周りの人の言葉=本音(潜在意識)の鏡

ちなつの「他の男子を牽制してる」という呟きは、まさに思輝くんの潜在意識(本音)そのもの!周りの人の言葉は、相手や自分の本音を映し出すメッセージです。


② 五感の「好き」は潜在意識のYESサイン

プロローグのアールグレイから繋がる「この香り、好き」という体感。「年下だから」とエゴでブレーキをかけてしまいがちですが、五感はとても素直です。


③ 同じ香りを纏う=エネルギーの一致

「同じ香水を纏う」という現象は、二人の潜在意識が深く引き寄せ合っている証拠。綺夏も無意識に彼の愛を受け取り始めていることが見て取れます。

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