1-1. 何年一緒にいると思ってるんですか
1-1. 誰よりも輝くパシリ君 (✳︎綺夏視点)
思輝くんとの出会いから2年。
わたしは大学一年になっていた。今日は、大学の仲良しメンバーでキャンプに来ている。
ちなつは
「強力な助っ人を一人連れていくから、楽しみにしてて」
と意味深なことを言っていた。その意味が今わかった。少しダルそうな顔でせっせと荷物運びをしている人がいた。それは、思輝くんだった。
「思輝〜、これ、すっごく重たいから運んでくれる?」
仲良しメンバーの中には男子もいるが、姉の権限を振りかざし、ちなつは弟をパシっている。文句も言わず、せっせと動く姿が健気に見えてくる。
「そこのお姉さん、権力行使しすぎでは?」
わたしが冗談っぽく、ちなつに言った。
「いや、だって、思輝は有能だもの。キャンプには絶対に必要だから。」
ウインクをしながらそう言うと、スタスタと荷物を運んでちなつは先に行ってしまった。
わたしはクーラーボックスを両手で抱えながら、一歩一歩進んでいた。どう考えても、担当する荷物を間違えた…でも、こんな中途半端なところに置いて、誰かに任せるのもな…先を歩くみんなとの距離がどんどん開いていく。
すると一瞬手が触れて、その瞬間重みがすっと消えた。
「なんでこんな重いもの、一人で持ってるんですか」
こんな紳士な人誰よ?!と横を見たら、思輝くんだった。あんなに重たかったクーラーボックスを片手で軽々と運んでいる。
「うん、完全に間違えたと思ってたところだった。あ、もう一つの荷物持つよ。」
反対側に回ろうとしたら
「いや、この荷物も重いんで俺が持ちます。じゃあ、代わりにこれ持ってくれます?」
少し屈んでお礼をしてくる。多分、首にかかってるカバンを持って欲しいんだな。
カバンを首から取ろうとしたら、手が一瞬首に触れた。その瞬間、香水が鼻を掠めた。これまで思輝くんから香水の匂いを感じたことはなかったのに、なぜか懐かしい香りがしたと同時に、すごくドキっとした。
触れることあるよね。
こんなこともあるよね。
動揺しそうになる自分をなだめる。
何気なく手が当たっただけなのに、その指先に一気に意識が集まった。触れちゃった…そういえば、思輝くんに触れたの、初めてかも…
これまで何度も会っているけれど、思輝くんは何となく、パーソナルスペースが広い人だと感じてたから…
カバンを持つと、あまりにも軽くて拍子抜けしてしまった。これ、助けになってるのかな…
「このカバン、中身は財布とケータイだけ?」
「そうですよ。首が痒かったので助かりました」
荷物を持ってないわたしに、気を遣ってカバンを持たせてくれたのかな…本当は首がかゆかったって嘘だよね?
でも、あえて言及せずに彼の優しさに甘えさせてもらった。
高校1年生になった思輝くんは、いつの間にか私よりずっと背が高くなっていて、相変わらず周りが見えていて、気遣いもできる。
出会った頃は中学2年生の可愛い弟分だったのに、今の思輝くんは、大学生のわたしよりもよっぽど大人だと感じた。
…
「あ、車に忘れ物しちゃった!取ってくるね!」
わたしが歩き出すと、後ろから声がした。
「俺も行きます!」
いつも冷たいのに、どうして優しいんだろう…?
「剣さん、何で俺がついて来たのか不思議がってます?」
「う…なぜわたしの考えてることがわかるの…」
「顔見てたらわかりますよ。何年一緒にいると思ってるんですか」
くくっと笑う横顔を盗み見る。こうやって笑ってると、本当にイケメンなんだよね。
‘何年一緒にいると思ってるんですか’って、多分本人は何気なく言っている。でも、わたしは彼氏発言のように感じて、不覚にもキュンとしてしまった。確かに、出会ってからかれこれ2年経ってるんだよね。いつも泣いてるところばっかり見せてしまってるけど…
「そんなに顔に出てた?」
「もろ出てましたよ。あと、ついて来たのは、帰り、道に迷うだろうなって思って。剣さんの方向音痴は信用できないので」
「うっ…」
さっきから図星すぎて何も言えない…でも、こういうところ、実は優しいんだよね。
パッと目線がある一点に集中した。
その瞬間、体が飛び上がって両手で思輝くんの右腕を思いっきり掴んだ。思輝くんは左手でわたしの肩に触れ、抱きつくように守りの姿勢になった。ガシっと掴む手の大きさと、触れる体の硬さに男らしさを感じて心臓が大きく跳ねた。でも、目線を外すことはできなくて…
「あ、あれ見て…」
小声でつぶやき、恐る恐る指を刺した。
「え…っ」
思輝くんも言葉を失っていた。
「蛇の日光浴だ…」
「え?!日光浴?!」
「あの蛇は寝てるから大丈夫。襲ってこないですよ。それにしても、叫ばずに小声で言えたのは偉かったですね」
あまりにも自然な流れで触れていた手が、すっと左肩から離れた。わたしは思輝くんを思わず見上げた。わたし、抱きついちゃったし、思輝くんも肩を寄せてたよね…?
今になってその状況を思い返し、顔が急激に赤くなっていく。思輝くんがわたしの目線に気づいてこっちを向きかけた瞬間、わたしは目を逸らした。思輝くんがわたしの方を見てるのを感じたけど、視線には気づかないフリをする。そして、さっと離れて二人でゆっくりと歩き出す。
「森で蛇と目があったら、絶対に背中を向けたらダメですよ。目を合わせたまま、後ろに下がって距離をとってくださいね」
思輝くんは何事もなかったかのように、蛇に遭遇した時の豆知識を教えてくれる。わたしの脳中ではさっきの場面がリピート再生されてて、彼の言っていることが全然頭に入ってこなくて申し訳ない。
「いろんなこと知ってるよね、思輝くんって」
「話題を増やすために、日々精進してますから」
その言い方が面白くて、わたしは笑ってしまった。
「日々精進って、必死すぎない?そんなことしなくても、思輝くんは頭がいいから話のネタいっぱいもってて困らないんじゃないの?」
「俺と一緒に話してて、楽しいなって少しでも思ってもらえたら、俺は嬉しいから」
サラッと、でも凄いことを言っている。多分、本人は自覚なし。こんなことを考えてる高校生っているんだ…話し相手との会話を膨らませることを意識して生活している人が…驚きでしかないよ。
蛇でのハプニングから、何を考えているかわからない思輝くんが、普段意識していることまでわかっちゃった!忘れ物してよかったかも…って、わたしは密かにニヤけていた。
【潜在意識の視点から紐解く『第1-1話の答え合わせ』】
「忘れ物をしてラッキー」と思っている綺夏ですが、実はこれ、彼女の潜在意識が【思輝くんと二人きりになりたい】と強く望んだから引き寄せた現実なんです!潜在意識では【目の前の現率は100%自分が作ったもの】として目の前の出来事をとらえます。
そして、重い荷物をサッと持ったり「楽しんでほしいから」と会話を工夫する思輝くん。これは彼の中に「俺は彼女を大切にする男だ」という前提(思考)が強烈にあるからこそ、自然と取れるスパダリな行動なんです。
綺夏は「自分なんて…」と受け取り拒否をしがちですが、差し出された愛を素直に受け取り始めたとき、二人の関係は一気に動き出しますよ!ご期待ください!




