3-3. これ、落としましたよ
(*綺夏視点)
大学を歩いていたら、ふいに後ろから声をかけられた。駆け寄ってきたその人は長身で、少し汗をかいていた。
「これ、落としましたよ」
ハンカチを手渡され、落としていたことにその時気づいた。
「あれ?わたしの…ありがとうございます」
「あ、いえ…では!」
目線をそらしながら、ぼそっとつぶやいた。その人はジャージを着て体育館の方へ走って行ってしまった。
運動部の人かな…それにしても、ハンカチを落としたの、全然気づかなかった。拾ってくれて、親切な人だな。
……
大学1年生も終盤にさしかかり、グループでの成果物を出すために何人かで集まっていた。男子3人、女子3人でそれぞれ手分けして課題をこなしていく。
大きい机を占領して6人で取り組んでいると、高身長の男性陣がこちらにやってきた。グループメンバーの一人、うっしーこと潮くんが喜んでそこに飛び込んでいった。どうやらバレー部らしい。
うっしーがニヤニヤしながらバレー部員を引き連れてこちらのテーブルにやってきた。
「なあ、きなこ~この人覚えてる?」
うっしーの隣にいたのは、あのハンカチを拾ってくれた人だった。
「ちょっ、やめろって。今、課題してるんだろ?」
「はい、覚えてます。この前は、ハンカチを拾っていただいてありがとうございます。」
見上げると、少し顔を赤らめているのが見えた。あの時も思ったけど、この人きっと恥ずかしがり屋なんだろうな。なんだか、微笑ましい。
「由良先輩、そんなことしてたらタイミングずっと逃し続けますよ。」
うっしーは肘で先輩をつついてる。こんなことができちゃうくらい、バレー部って先輩と関係が近いんだな。
「きなこ、この先輩、めっちゃ奥手なんだけど、きなこと知り合いになりたいんだって」
「おいっ!」
先輩が盛大に焦っている。
それをみてうっしーはかなり楽しんでいる。
「きなこ、こちら由良先輩。以後、お見知りおきを」
「ごめんね、潮が暴走して。」
控えめな声でわたしに言う由良先輩は、とても優しそうだった。
「いえいえ。」
「由良、連絡先もらっとけよ」
他のバレー部の先輩方も猛烈にプッシュしていた。そんなこと言われたら連絡先、交換するしかないよね。
「きなこ、由良先輩と連絡先交換してもいい?」
「わたしはいいよ」
「だって、由良先輩。ほら、早くケータイ出してくださいよ」
うっしー、こんなに馴れ馴れしくて、大丈夫なのか…と心配になる。でも、バレー部のみんなは悪ノリな感じじゃないから、好感はもてた。
「あの…、もしよかったらいいですか」
由良先輩がケータイを持ち、控えめに聞いてきた。
「はい、もちろんです」
わたしは立ち上がってケータイをかざした。日の光が強いからか、QRをなかなか読み取ってくれない。
「ここ、明るすぎますかね?」
真横に立つと、由良先輩の身長の高さを実感した。
「そうだね、もう少しこっちにこれる?」
一瞬近くなった距離に、自然とドキッとする。その瞬間、制汗剤なのか、香水なのか、さわやかな香りがした。
「あ、やっと読み込めましたね。」
わたしが見上げると、由良先輩は顔を腕で隠し、違う方向を見ていた。この人、恥ずかしがり屋なんだな。なんだか、微笑ましかった。
……
このあと、由良先輩と何度かメッセージのやりとりをした。バレー部の定期戦が近々あるらしく、うっしーから観戦にきてほしいと必死に頼まれた。多分、由良先輩が試合に出るからだと思う。
そういえば、思輝くんも中学時代、バレー部って言ってたな。バレーボールがどういうものなのか、観てみたい気もした。
ちなつを誘って、試合、観にいってみようかな?だんだん春の香りが混じる風に、わたしの心も少しだけウキウキしていた。
……
それは運命的な出会いだとみんなは言った。
わたしはバイト先でいつものようにポップを書いて、新刊のところに本と一緒に飾った。今回の新刊は自分自身で読んで、その感動をポップに表現した。文字が多すぎてもよくない。でも、文字が少なすぎても伝わらない。ポップがうまくかけるときも書けない時もある。でも、今日のポップは自分の中で結構自信作だった。
まささんと別れてから、わたしは一人の時間を大切にしていた。もともと本の虫だったけれど、最近はよりその時間をとっていた。今は一人で人生を楽しめる人になりたいなと感じていたから。
これまでいろんな人とお付き合いしてきた。思い返すと、これまであまり途切れずに誰かと一緒にいたのかもしれない。
今は、誰かと付き合いたいという気持ちが薄れていた。それに反して、フリーになった分、いろんな人からのアプローチは増えていた。
でも、やんわりとお断りをして、当分は一人でいいかなと思っていた。
そんな時、ひょんな出会いが訪れた…
「このポップを書いているのって、もしかして、あなたですか?」
好青年のスーツ姿の男性がわたしに話しかけた。
「は、はい…」
よく見ると、その方は最近よく見かける常連さんだった。物腰柔らかく、リラックスしていて、若いのに読書家で印象に残っている方だった。
「いつも、ポップを楽しく読ませてもらってるんだ。君だったんだね。」
優しく微笑む姿に、わたしも心が自然と広がる。
「ありがとうございます。そのように言っていただけて、嬉しいです。」
「もしかして、今置いたこれは新しいポップだったりするのかな?」
「はい、実際にこの本を読んで書いてみました。」
「そうなんだね」
手を顎あたりに持っていって、わたしのポップを真剣に読んでいる。なんだか恥ずかしい気持ちになる。
「すっごく面白そうだ。この本、買ってよんでみようかな。」
「ぜひ!おすすめです。読み終わったら、感想もお待ちしてます。なんて」
最後は笑って伝えた。冗談のつもりだった。
「わかった。じゃあ、また感想を伝えに話しかけてもいい?」
「は、はい、いつでもお待ちしてますね」
この方は、本当に感想を教えてくれるみたい。軽やかに自然に弾む会話と、素敵な人となり。このお客様に出会えて、ポップの感想ももらえたことが嬉しかった。
でも、この前のまささんのようなことは繰り返したくない。まささんも最初は素敵な人だと思っていたから。
社会人の方だし、お客様だから、距離はとっておかないと。って、ここまで考えなくてもいいよね。
でも、このお客様と出会って、会話をしたことで、春の風に乗ってのびやかにわたしの心は広がっていくみたいだった。
【潜在意識の視点から紐解く『第3-3話の答え合わせ』】
①「一人でも幸せ」という満たされた前提が引き寄せるモテ期
依存を脱し「自分一人の時間を楽しむ」と決めた綺夏。誰かに埋めてもらおうとせず心が自立した(満たされた)ため、潜在意識がその魅力的な波動をキャッチし、周囲からアプローチが殺到する現実を創り出しています。
②「心地よさ」の許可が素敵なご縁を運んでくる
「無理な背伸び」を手放したことで、自然体で接してくれる優しい由良先輩や常連さんという、自分をそのまま尊重してくれるご縁が現実化しました。自分の本音に従って楽しく動く軽やかさが、さらに幸運な引き寄せの波を起こしています!




