2-9. やりたいことやってるだけなんで
(✳︎思輝視点)
日曜日の夜、俺はランニングに出かけた。昨日、元気のなかった綺夏は、その後ちなつと楽しそうにチョコレートを作っていた。明るい表情になった綺夏をみて安心したと同時に、今日、その彼氏にチョコレートを渡してんだよな…そう考えると無性にむしゃくしゃした。
俺だったら、頑張りたいって時は俺にできることで応援して、休みたい時は包み込んでやるのに。
でも、今の俺は彼女の隣に立てていない。いや、彼女が俺の隣に立っていない。俺がずっとその場所を空けていても…
こんな時は寝るのが一番。でも、その前に体力を発散させたかった。目的もなく、ただ走っていた。来たことのない新しい道でも、かまわずにどんどん走っていく。いつもは決まったルートを走るけれど、寒くなっておかしくなっていたのかもしれない。
今、どこらへんなんだろう…立ち止まってケータイを開くと、ちなつからメッセージが来ていた。
「大変!綺夏、たった今、彼氏と別れたんだって」
文字が目に飛び込んできたと同時に、俺は電話をかけていた。
「もしもし、ちなつ?今、綺夏がどこにいるか知ってる?」
「いや、わからない。でも、彼氏の家に届けるって昨日言ってた」
「それって、最寄駅どこ?」
「最寄駅?!そんなの知るわけないじゃん。」
「はぁ、そうだよな。知ってたら逆に怖い。まあ、いいや。教えてくれてありがとう」
電話を切って前を見ると、見覚えのある女の子がとぼとぼ歩いていた。
もしかして…綺夏…?
俺はそのまま歩いた。
ここで会うとか運命でしかない!
近くで見ると、コートとマフラーの色が似ているけれど、綺夏とは違う人だった。そう簡単に会わせてくれないのか…でも、これも何かのメッセージなのか?
今、会わなくてよかったかもしれない。俺も今、気持ちが昂ってたし、綺夏もきっと動揺してるはずだ。
俺も落ち着こう…
無心で走って、今日は寝るんだ。
綺夏とどうやったらまた会えるか…ベットの中で考えるのは、このことばかりだった。高校生と大学生…会う理由がなさすぎるよな。今に始まった話じゃないけど。
いや、待てよ。あと少しでテスト週間だ。部活が休みになったら、あのカフェで毎日勉強するか…
それまで我慢だ。
早く綺夏に会いたい。
いつの間にか俺は眠りについていた。
……
やっとテスト期間に入った。別に、いつこのカフェに来てもよかったけれど、俺は多分、理由が欲しかったんだ。テスト期間だから、毎日来てもいいだろって。
カフェの中ではなく、本屋寄りの席に陣取る。綺夏が今日、シフトに入っているのかは知らないが…
イヤホンをして集中していたら、トントンと誰かが肩に触れた。顔を上げると同じクラスの道関さんだった。
「日向くん、ここでテスト勉強してるんだね」
「道関さんもテスト勉強?」
「うん。一緒に勉強してもいい?」
やっぱり来たか…それにしても、気づかれるの早すぎるだろ。前のテスト勉強の時もこのカフェに来てたからか…?頭の中で一瞬で考える。
「いいけど…俺、教えたりとかできないよ?下手だし」
「うん!それでも全然OK。ありがとっ!」
嬉しそうにちょこんと前の席に座った。まあ、他の女子が来ないからいいか。でも、思わせぶりはしたくないから、境界線はしっかり示しておかないとな。
……
今日、綺夏のシフトは入ってなかったのかな…そろそろ帰るか…
「道関さん、俺、そろそろ帰るね」
「あ、じゃあ、私も帰ろうかな…!」
俺に追いつこうと、必死に道具を片付けている。明日も来るとか言わないよな…?一瞬、そんな予感がよぎった。
……
次の日、学校が終わってすぐ、俺はあるパン屋へ向かった。これ、ちなつが美味しいって騒いでたお店なんだよな。自分とちなつと綺夏の分を買う。もし会えたら渡そう。バイト、お疲れ様って。
昼過ぎだから、人気のパンはすでに売り切れている。ちなつには話題性バッチリのビジュアルのいいものを選んだ。
綺夏のはどれにしよう…迷うな…
うわ!これ美味そう!目を引いたのは塩クリームパンだった。こういう素朴なのが、一番パン屋の旨さがわかるよな。自分用にはこれにしよう!と即決で決めた。迷いに迷って、綺夏にも同じものを買った。
公園で一人座ってパンを食べたら、かなり美味かった。これを買って正解だった。自分が食べたパンだから、美味しかったよって伝えられるし、そのあと共有もできるから同じのを選んでよかったかも。
お腹が満たされて、いつもの本屋へ向かう。たまに女子に尾行されることがあるけれど、今日はその気配を感じなかった。少し安心してカフェへ行き、本屋側の違う席に座った。
すると、綺夏が働いている姿が見えた。よっしゃ!今日はいる!なんとか話して、パンを渡したい。パンを渡すという目的があるから、絶対に会わないと!という気持ちになった。
『俺、テスト期間で横のカフェで勉強してるんです。剣さん、バイト何時に終わりますか?渡したいものがあって』
渡したいものがあるとメッセージで伝えるかどうか迷った。わざわざ言う必要もないけど、これを伝えることで綺夏も会わないと!と思ってくれるかな?と。
「あのっ、日向くんだよね?わたし、2年の佐野です。もしよかったら、一緒に座って勉強してもいい?」
「えっ?2年生ですか?…えっと…佐野さん…でしたっけ?」
照れながらも、かなりぐいぐい来る人だな。
「はい、佐野雅っていいます。前から日向くんのこと、カッコいいなって思ってて…もしよかったら仲良くなりたくて」
「そうだったんですか。すみません、急なことで、俺、びっくりしちゃって…」
「そうだよね、ビックリだよね。日向くん、いつも部活で忙しそうで、なかなか接点を作れなくて…テスト期間しかないって思って…」
「とりあえず、席、座りますか?」
俺は前の席にうながした。このまま立って話し続けるのも微妙だし、結構会話が続く感じだったから…
「ありがとう!日向くん、頭もいいんだよね。邪魔しないように、わたしも静かに勉強していい?」
笑顔を向けられた。
ブー
ブー
ケータイがなって画面を見る。
剣 綺夏
の名前が出て、俺の意識が全て持っていかれる。
メッセージを開くと
『思輝くん、テスト勉強に来てるんだね。渡したいものがあるの?私、今日、あと3時間あって、今休憩中なの。3時間はさすがに長すぎるから申し訳ないな…』
3時間くらい余裕で待てるけど…何かいい方法はないか…?頭をフル回転して考える。
『休憩の今って会えますか?』
ダメ元だったけど、俺はすぐに返信した。
『会える!じゃあ、今行くね』
この文字を見て、俺は胸が高鳴った。パンだけ渡すから、荷物は置いていくか…
貴重品とお土産のパンを持って俺は立ち上がった。
少し屈んで
「えっと…佐野さんでしたっけ?俺、ちょっと人と会ってきますね。荷物、見ててくれますか?」
と伝えた。
「あ、うん。わかった」
佐野さんの顔が一瞬で赤く染まっていた。顔を上げて本屋の方に目を向けると、綺夏が手を振っていた。互いに目が合ってニコっと微笑み、歩み寄った。
「剣さん、すみません、休憩中に呼び出しちゃって。これ、よかったら食べてください。」
パンの包みを渡す。俺はあえて包みの全体を持っていた。渡す時に手が触れるように。
「え?いいの?これもらっちゃって。嬉しい」
片手で受け取るかと思ったら、綺夏は両手で受け取った。もちろん俺と手が触れた。両手で受け取るとか、可愛すぎるだろ…
「俺も同じの食べたんですけど、美味しかったですよ。ところで、ちなつから聞いちゃったんですけど、彼氏さんと別れたんですね。剣さんのいないところで勝手に知ってしまって、すみません。」
「思輝くんも知ってたんだね。日向家は家族みんなに筒抜けだもんね。いいよ。いつものことだし。またこんな報告になっちゃったね…」
「俺、今度話聞いてもいいですか?俺でよければ…というか、気になるんですよね。剣さんのことが」
恋愛傾向とかパターンが知りたいって言うと、俺のために話して欲しいって感じに聞こえるかもと思い、その部分は伝えなかった。もちろん、綺夏の力になりたいっていうのが一番だし、話すことで楽になって欲しいからだけど。
「え…でも確かに、あまり詳しく話したことなかったかもね?こんな大学生の話、聞いてくれるの…?」
首を傾げて上目遣い。現行犯逮捕だ…可愛すぎる。
「ぜひ話してください。俺でよければ力になるんで」
「ありがとう。でも、思輝くん、部活も勉強も忙しいだろうから…」
「俺はいつだって、やりたいことやってるだけなんで。気にしないでください。」
そう、やりたいことの中に、綺夏の話を聞きたいが入ってるんだよ。気づいてるか…?
「そ…そっか。ありがとう。思輝くんって、本当に優しいね」
瞳が潤んでいる気がした。いつもより、目がキラキラしている感じがした。
「そろそろ休憩が終わるから、もういくね。あと、パン、ありがとう。食べるの楽しみっ」
「では、また」
「うん、またね〜」
予定、決められなかったな…でも、無理に押し切って予定を決めるのもなと思っていたし、今日はこれでいいか。いつでも話を聞くよと、何度も伝え続けよう。
カフェに戻り席に着く。
「荷物、見ててくれてありがとうございます。俺、あと30分くらいしたら帰りますね」
「そっか、もう帰っちゃうんだね。もっと長く勉強するかと思ってた。」
「今日の目的は達成できたので、キリのいいところまで勉強したら帰ります。」
「もしかして、今日の目標って…さっきの女性と会うこと?」
「はい、そうです。お土産を渡したくて」
「そうなんだ。彼女さんなの?」
「いえ、彼女ではないです。姉の親友の方で」
ここで好きな人とか言うとめんどくさくなるから、いつもの姉の親友という説明をする。
「仲良さげだったから、特別な関係なのかと思っちゃった」
(女性の方、絶対日向くんのこと好きじゃん。照れてたの、モロ見えだったよ…)
「仲良さげでした?まあ、知り合って長いからかもしれないですね」
「お姉さんってちなみにいくつ上なの?」
「今、大学1年で3つ上です。あの…そろそろ勉強してもいいですか?」
「あ、ごめん…そうだよね。邪魔してごめん」
(思輝くん、ただ仲のいい人ってほんとかな…今日、日向くんと初めて話したから、まだよくわからないけれど。はぁ、もっと仲良くなりたいなぁ…)
言い方キツかったかな…でも、俺は勉強の続きがしたかったから、ちゃんと言えたしいいか。
綺夏が見てるかもしれない。そう思うと、より一層勉強に気合が入った。最後の30分はいつもより集中できた気がした。
【潜在意識の視点から紐解く『第2-9話の答え合わせ』】
①「意図」を放ち、軽やかに行動する力
「パンを渡して会う」とゴール(意図)を明確に決め、一瞬のチャンスを逃さず即行動した思輝。頭の計算ではなく「こうする!」という純粋な意図と素早い行動が、短時間でも手が触れ合うような最高の実りを引き寄せましたね!
②ブレない自分軸が周りに流されない現実をつくる
他者からのアプローチにも思わせぶりな態度をとらず、「自分にとって一番大切な存在(綺夏)」に集中する思考の軸。ブレない心のあり方が、エネルギーの浪費を防ぎ、本命との関係性をまっすぐに育む現実を創り出しています!




