2-4. 俺と…付き合ってください
(✳︎綺夏視点)
何度か一緒に出かけた後のある日の休日、まささんとカフェに来ていた。
「俺と…付き合ってください」
たわいもない話をしている時、ふと見つめられた後に発した言葉だった。あまりにも突然の告白に、戸惑いながらも心は一瞬で嬉しさで溢れた。
「まささん、本気ですか?」
「うん。綺夏ちゃんと恋人の関係になりたい」
お茶をしたり、ご飯に行くたびに、こんな素敵な人が彼氏になったらいいなって正直思ってた。この台詞を、まささんから聞ける日が来るなんて…
「わたしでよければ、彼女にしてください」
……
お付き合いが始まってからの1ヶ月は一瞬で過ぎていった。神社やお寺に出かけた時は、説明書きを一緒に読んで知見を深めた。特別展示があるときに美術館デートをして、本物に触れる大切さを知った。教養を身に付けたいと思って、テーブルマナーの本を買って、食べる練習を一人でしたりもした。
意識高く過ごすって、気持ちいい。新しい自分に出会えた気がして、調子が上がっているような気がしていた。
この調子で、バイトにも精を出していた。恋愛がうまく行くと、世界が明るく見えるみたいだ。多分、相当浮かれてると思う。でも、この久しぶりに素敵な恋愛ができている感覚に、きっと酔いしれてたんだと思う。
新刊コーナーのポップを書き、紙を本のそばに添えた。この横のお客さん、背が高い人だな〜って思いながら、レジへ戻ろうとしたら
「剣さんっ」
聞き慣れた声がして振り返ると、そこに立ってるのは思輝くんだった。
「あ、思輝くん!背の高いお客さんだなと思ってたら、思輝くんだった」
わたしはご機嫌な笑顔を向けた。
「今日、ご機嫌ですね」
「うん。最近、やる気に満ちてて。」
「剣さんって、ほんとわかりやすい人ですね」
くすっと笑って、マフラーに顔を埋めている。
「そうかな?というか、そのマフラーあったかそうだね。外、寒かった?」
「いや、多分、俺の髪の毛が半乾きだから寒いのかも?」
「そっか、部活で泳いできたんだね。半乾き、風邪ひかない?」
髪の毛を触って確かめようと手を伸ばしたら、
「ん」
と気の抜けた声がした。まるで、気を許してる猫みたいって思った。すっと地肌あたりに触れると、プールの匂いがした。そして、確かに半乾きだった。
「ねぇ、やっぱりこれ、風邪引くよ。いつもこんなことしてるの?」
「いや、いつもはちゃんと乾かしてますよ」
「そっか、じゃあ、今日は早く帰って乾かしてね?」
「はい、わかりました。剣さん、今日、バイト何時までなんですか?」
「今日は19:00までだよ。」
「そっか、じゃあ、あと少しですね。だからご機嫌だったんですか?」
「今日、バイトが終わったらレイトショーを観に行くの。気になってる映画があって。」
「いいですね!なんの映画ですか?」
「綺夏っ、仕事お疲れ様」
「あっ!まささん」
彼はいつもの優しい笑みを浮かべていた。
「あと少しだよね?本読んで待ってるね」
「思輝くん、こちらまささん。彼氏なの」
「こんにちは。初めまして。剣さんの友人の弟の日向です。」
「あ、君が日向思輝くんだね。綺夏からよく話を聞いてるよ。高校1年なのに、すごくしっかりしてるって」
「いえいえ、ただの高校生です。じゃあ、俺、帰りますね。では」
「またね、思輝くん。髪、すぐに乾かすんだよ」
勉強に部活に頑張っている思輝くんの背中を見つめた。風邪、引かないか心配だな。
「綺夏って、友達の弟さんとすっごく仲良いんだね。」
「うん。付き合いが長いからかな?友達のちなつと会う時、思輝くんとも会うことがあったから。」
「あの子、すっごくイケメンだよね。よくこれまで恋しなかったね。」
「3つ下だし、友達の弟だから、さすがにね…」
「まあ、その気持ちもわかるよ。さ、あと少しだね。仕事終わらせておいで」
「うん。終わったらすぐ来るね」
わたしは急いで仕事を片付けに行った。その時の私は、このご機嫌な日々がずっと続くと思ってた。
【潜在意識の視点から紐解く『第2-4話の答え合わせ』】
①「条件」で自分を磨く恋はエゴの満足
教養を身につけ「意識高く過ごす私」に酔いしれる綺夏。潜在意識からみると、頭の条件(ステータスや向上心)で選ぶ恋はエゴの満足に過ぎず、本当の自分を偽る隠れ隠れ蓑になると考えます。調子が良いと感じる反面、どこか「演じる恋」になっています。
②素の自分を全許容してくれる存在への無意識の惹かれ
知識や高尚さを求めるまささんに対し、思輝くんには髪の乾きを心配し「素の自分」で触れ合えています。潜在意識は、条件付きの承認ではなく、ありのままの自分を優しく受け止めてくれる安心感こそが真の愛だと知っているので、意識せずスキンシップをとれています。




