2-3. 綺夏には敵わない
(✳︎思輝視点)
「思輝、もう帰っていいよ。明日、早いんでしょ?」
自分から呼び出しておいて、用事が終わったら帰っていいよかよ。
「うん、じゃあ、俺行くわ」
体の向きを変えて歩き出そうとした瞬間、後ろからぐいっと首を捕まえられた。
「っ!痛いんだけど…!何?」
「言い忘れてたけど、プレゼントもらえて良かったね?」
ニヤニヤした顔でちなつが聞いてくる。
「大学に呼び出したのは、綺夏に会わせるという魂胆もあった?」
「うん、大有りだった」
「それは、どうも。」
「でも、それにしては元気なくない?あ、もしかして、綺夏の脈アリの人の話、聞いちゃったの?」
「綺夏ってさ、なんでこんなに男子が寄ってくるんだよ」
「あんたもその一人じゃん」
「いや、まあ、そうだけど…次の人、意識高い系って聞いて、嫌な予感しかしないんだけど」
「そう?でも、話を聞くところによると、いい感じの人っぽいけど」
「意識高い人ってさ、相手にも押し付ける人いるじゃん、たまに。そのパターンじゃないといいなって」
「あれ?綺夏のこと、応援しちゃっていいの?思輝はどうなの?」
「俺は、選んでもらうのを待つのには変わらない。それにしても、綺夏と会えなすぎる…早く大学生になりたい」
「好きな人にもっと会いたいって、そういう高校生っぽいところはちゃんとあるんだね〜」
キャンプで、俺が綺夏のことを想ってるとちなつが知ってから、こんな感じで話すようになった。俺のことを応援したいのか、イジリたいのかはわからないが…俺はちなつを睨みつけた。
「悪いかよ。」
「まぁ、そんな余裕こいたことしてたら、本当に誰かに取られちゃうよ〜。ま、わたしは思輝のこと、応援してるから。また機会があれば誘うね。」
「おう、わかった。でも、いつも言うけど、余計なことは言うなよ。」
「はいはい、もっと姉を信用して〜。じゃあ、合宿頑張ってね。今日はありがとう」
大学の校舎を歩きながら、俺の心は沸々と燃えていた。俺の誕生日を覚えていて、プレゼントも用意してくれてて、本当に嬉しかった。しかもプレゼントは綺夏も使ってるものと同じブランドのタオル。こんなことされたら、男子はみんな意識するだろ…
今日の綺夏は、なんだかいつもよりテンションが高い気がした。俺にプレゼントを渡せて嬉しいのかと、一瞬勘違いした自分が一気に突き落とされる。もう他にそういう人がいるのかよ。
この前カフェで見た、バイト仲間の人かと思ったのに、また違う人だったし…
いつか、俺と会うことで嬉しくなる姿が見たい。
他の男で喜ぶんじゃなくて、俺と一緒にいられることに喜んで欲しい。
綺夏のことを考えると、いろんな感情が渦巻く。
こんな気持ちにさせる人は、綺夏だけだ。
やっぱり、綺夏には敵わない。この俺の気持ちに気づいて、受け止めてもらえる日が早く来てほしい。早る気持ちに応えるように、秋風の中、俺の歩調も自然と足早になっていた。
【潜在意識の視点から紐解く『第2-3話の答え合わせ』】
思輝の「待つ」姿勢は、自分は恋人に選ばれないかもしれないという不安な受け身ではなく「自分を大切にできた彼女なら僕を選ぶ」という能動的な信頼です。彼が救世主になろうとしないのは、彼女を自力で幸せになれる強い存在と信じ切っているから。
ですが、完璧に見える思輝も一人の男。時にそのスタンスが揺らぎ、焦りや葛藤が生まれます。
潜在意識の「前提」が現実をつくると考えるので、「信じ切りたい自分」と「奪い去りたい感情」の狭間で揺れるからこそ、すれ違いのもどかしい時間が生まれます。その葛藤を乗り越えて築く関係だからこそ、真の信頼へと育っていきます。




