エピソード5:酒飲みおじさんの闇鍋パーティ/ 8
本間の部屋は、やはり和茶の部屋や嶺想寺の部屋と間取りが違っていた。しかし、そんなことは気にしない。闇鍋を越えたらそこは肉の桃源郷。何としてでも生き残る。本間の部屋には、デッド・ハイツの住人が揃っていた。隣室の美嘉子、公平カップル。反対隣りの高木一家。今日はまだ挨拶もしていない、八重の姉と父親もいる。
中心になっているのが嶺想寺で、咲田と並んでいる。初対面は高木・父と高木・長女。和茶はまず、2人に挨拶をした。笑顔が引き攣っていないことを願う。八重から聞いている。父親は幽霊だ、と。生首の咲田に慣れたくらいなので、そのうち慣れるのだろうが、どうにも恐怖心が先立つ。八重が父親と姉に和茶を紹介してくれた。
「パパ、この人が飯山さん。普段、煩くしてるんだから謝って」
「あはは、すみません……。八重と帆乃の父親の、高木 陸です」
「お姉ちゃん、飯山さんだよ。今日は取り憑かれてないよ」
……どういう紹介の仕方だ。どうにも、高木家も一般的ではないらしい。和茶は、隣室の飯山です、と名乗った。そして、さりげなく嶺想寺の傍に座る。一香もその隣りに。嶺想寺は和茶に囁いた。──鍋に解毒剤を入れておきましたよ。……有り難いような、そもそも、毒素が入った鍋なんて食べたくないような。和茶は後者である。
どうやら、闇鍋はスープだけ用意したらしい。本間が鍋に牛乳を足していく。一応、入れてくれたことに感動さえ覚える。和茶の中の本間の評価はめちゃくちゃに低かった。そして、本間の掛け声で部屋は真っ暗になる。真夏の太陽も遮光カーテンには勝てない。嶺想寺の声掛けで、各々が持ち寄った物を鍋に入れていく。
「飯山さん……は、牛乳ですもんね。じゃあ、飯山さんの彼女さん、どうぞ」
「駄目、絶対駄目、嶺想寺さん、あの肉は渡せねぇ!!」
本間が真っ暗闇の中で叫ぶ。そもそも、本間はルール違反じゃないのだろうか。和茶と一香の「具」を知っている。成り行きでそうなったわけだが。……暫くして、異臭がし始めた。異臭と言っても、悪臭ではない。甘ったるいのだ、チョコレート・フォンデュをしているかのように。誰か、何か入れたに違いない。誰だ。問い詰めたくなる。
そして、本間が鍋をかき混ぜると、かちゃかちゃと音がする。食べ物でかちゃかちゃいう物なんてあるか?和茶は鍋の完成を待たずに帰りたくなった。アルコールしか摂取出来ないはずの咲田が参加しているということは、アルコールが多量に入っている可能性すらある。底なしの闇が、鍋の中に広がっている。和茶は泣きたくなった。




