おまけ19 『咲ちゃんと梅ちゃん』
ちゅんちゅんと、朝から元気な鳥さんと。ワンワンと、朝から元気な胡麻たん。彼らの不思議なハーモニーが窓の外から聞こえてくるとか来ないとか、そんな爽やかな朝のことです。
「……そんなわけで、今度はダンスがあるのよ」
「ふむふむ」
「ほら、前にさっちゃんと長縄の練習したじゃない。……また今回も練習したいの」
珍しく咲ちゃんの隣ではなく、正面——お客さんの席に座っている梅ちゃん。
どうやら今日のお客さんは、おでこの出たベージュ色の長髪の女の子かつ、ツンデレツッコミガールかつ、お寿司占いの使い手かつ、相談所店員と様々な肩書きを持つ紗倉梅ちゃんのようです。
「ちなみにさくめちゃん、そのダンスって発表はすぐなの?」
「曲は決まってるけど、まだ先の話よ。でも——」
「早めに覚えておかないと、だね……!」
梅ちゃんが言うより早く、即断即決さあ行こうな姿勢の咲ちゃん。
彼女はとても燃え上がっていました。
「…………いや、さっちゃん。これ運動なのよ?」
「うん。苦手だけど頑張ろうね!」
「そ、そうね……」
そんな咲ちゃんに対してやや歯切れの悪い梅ちゃんですが、一体どうしたのでしょう。
不思議に思った咲ちゃんが首を傾げますが、
「まあいいわ。そうと決まったらやるわよ、ダンスの練習!」
「おー!」
何事もなかったかのように、梅ちゃんも気合十分に立ち上がるのでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
そんなこんなで二週間ほどが経過して。
「ひゃわぁ……疲れたねぇ」
「そうね…………。結構体力使うし」
毎日のように学校や相談所の合間に外へ出て、練習を続けていた二人は、相談所へ着くとすぐにぐったりとしていました。
そんな二人ですが、お客さんが来るとシャッキリするため、何日か前に響子さんがあらあらうふふしていたとか、そうでないとか。
「ココア飲もうかな……さくめちゃんはミルクティーでいいよね?」
「そうね。お願いするわ」
しかし、その割に二人はあまり暗い顔をしていませんでした。
二週間とはいっても、運動が苦手なのに進行は大丈夫なのでしょうか。
お茶を入れた咲ちゃんが戻って来ると、
「でも——めぐさんと姫ちゃんがダンス得意で良かったね」
「まあ姫ちゃんはめぐさんに付き合ってたらいつの間にか、でしょうけどね。……何にしても、頼んで正解だったわ」
そう、咲ちゃんたちは今回ダンスの練習をめぐさんたちに付き合ってもらっていたのでした。
頼りになる王子様とお姫様なのです。
「グループの練習も上手くいってるし、このペースなら大丈夫そうね。あの二人もだけど……ありがと、さっちゃん」
「ううん。だってこれも相談だし、さくめちゃんの頼みだもん。あ、終わった後のココアも美味しいし!」
「…………助手、ね」
「へ?」
ココア片手にえへへと笑う咲ちゃんですが、そんな彼女に意味深な呟きをする梅ちゃん。
やっぱり咲ちゃんは何のことやら、といった様子なので、梅ちゃんはミルクティーを飲みつつゆっくりと言葉を選びます。
「ほら、さっちゃんってこの——維澄響子のお悩み相談所の助手なわけじゃない?」
「うん。それでさくめちゃんが従業員さん。それがどうかしたの?」
「……助手らしくなってきたわね、って言いたいのよ。あたしが来た頃に比べてね」
梅ちゃんは嬉しそうに笑みを浮かべながら、続けます。
「料理はスパゲティしか作れなくて、運動は苦手で失敗が多い。最初は大丈夫なのかしらって思ったけど……」
「少しは成長したのかな?」
「そうね。助手らしくなったわ」
梅ちゃんが語るのは、最近の咲ちゃんの働きっぷり。
一人で相談を引き受けたり、時にはツッコミをしたり、苦手な運動でも迷いなく取り組んだり。
「でもさくめちゃんもじゃない? 梅ちゃん、って呼ばれても怒らなくなったし、ツッコミにも強弱がついたし……」
「いや、確かにそうだけど、他に言うことがあるでしょ。どうしてよりにもよってツッコミなのよ」
「じゃあ……お茶を入れるのが上手になった、とか?」
「笑顔が自然になったとか、相談を受ける流れがスムーズになったとかあるでしょ! あたしは個人経営の喫茶店の店員じゃないんだから!」
咲ちゃんも梅ちゃんに対して成長を語……れているかはともかく、お互いにいくつもの変わったところを言葉にして。
「まったくもう…………」
咲ちゃんは呆れてため息を吐く梅ちゃんにごめんごめんと謝りつつ、ぼんやりと天井を見つめて、
「それにしても、相談所に来てから色んな人に出会ったねぇ」
「まあ、そうね。変わってる人が多いから飽きないし、今回の相談はそのおかげですんなりと進んでるし」
「……私、さくめちゃんや姫ちゃん、響子さんに出会えて良かった」
「…………さっちゃん?」
珍しく真面目に、どこか湿った雰囲気の咲ちゃん。
彼女がどこか遠い目をしていることに梅ちゃんが疑問します。
「まだまだこれからじゃないの?」
「……へ?」
「さっき言ったでしょ。助手らしくなった、って。これからもっとたくさん相談を受けるんだから、こんなところで満足しちゃダメじゃないの。……あたしたちとの仲だって、もっとね」
ぽかんと口を開いて言葉を飲み込めない咲ちゃんでしたが、きっちり十秒の経過とともに笑みをこぼして。
「え、えへへ。確かにそうだったね、さくめちゃん」
「そうよ。あたしだってこれからなんだしね」
顔を合わせて、笑って。
あれやこれやと、未来の自分たちがどうなっているかを語っていきます。
すっかり太陽が落ちて、空が暗くなるまで。
「……ね、さっちゃん?」
そんな時でした。
ふいに、梅ちゃんが思い出したかのように一言。
「さっちゃんが相談所に初めて来た時って、どんな感じだったの?」
「————」
わずかな迷いが一瞬。
ですが、答えはすぐにありました。
「響子さんとの出会いの話になるんだけどね」
どこか懐かしいといった感じで、あるいは楽しそうに。
咲ちゃんはココアを片手に、梅ちゃんはミルクティーを。
「私はあの日————」
助手の始まりを語り始めるのでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「あうぅ、どうしよう…………」
あるところに、一人の女の子がいました。
茶色の長髪をポニーテールにしていて、今にも泣き出してしまいそうな女の子。
困っているけれど、自分の力じゃ難しい。けれど誰かに頼れない。そんな様子で、かれこれ公園のベンチで悩むこと一時間。
「誰か、相談に乗って欲しいけどぉ……」
けれどもそれは、やっぱり難しく。
都合良く誰かが通りかかることなんてない、女の子がそう思っていた時でした。
「あらあら?」
カールのかかったアッシュグレー色の髪と、モデルのように整った容姿の女性。彼女はポニーテールの女の子に近づいていき、
「どうしたのでしょうか? 私でよろしければ、相談に乗るのだけれど……」
女の子——咲ちゃんの頭を撫でて、響子さんはそう言うのでした。




