29人目 『灰村幸子さんは後輩さん』
「ああっ、あの節はどうもすみませぬすみませぬ……」
「あの節は確かにあの節だけど、今は現代よ。時代を考えなさいよ。どんだけ戻ってるのよ」
今日も梅ちゃんのツッコミが光るお昼下がり。
まるで武士のようにすみませぬしているのは、以前不審者として捕まえられたあの人です。
そんな彼女に咲ちゃんがお茶を運んでくると、
「えっと……幸子さん、アップルティーで良かったよね」
「ひぁっ! はい、そうですぬ!」
「ぬってなによ、ぬって」
びっくりして武士のような反応になってしまいましたが、見た目は紺色のワンピースを身につけた、黒髪の短髪に綺麗なお顔。
真鍋由美さんの後輩さんこと灰村幸子さんです。
彼女は以前の咲ちゃんのごとく刺激にとっても弱いようで、
「あつ——っ!? ……あぅ」
「…………さくめちゃん」
「…………何よ、さっちゃん」
「……忙しそうだね、幸子さん」
咲ちゃんさえもが冷や汗をたらし、そう呟くのでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「……恋愛相談?」
以前、由美さんと仲良くなりたいとのことでぷち影でこそこそをしていた、おどおど後輩さんこと灰村幸子さん。
彼女が相談所を訪れたのには理由がありました。
そう、恋愛相談です。
「なんか最近恋愛相談多い気がするような?」
「いや、あたしが記憶する限りでは二人しかいないわよ。しかし恋愛相談ね…………」
デジャヴ感が頭をピコーンとよぎる咲ちゃんに対し、梅ちゃんが冷静にツッコミ。
真姫ちゃんの時には逃げたり漫画を参考にしたりと大忙しな梅ちゃんでしたが、今回はどうなるのでしょうか。
「はぅぅ、変でしょうか? でもでも、先輩を見てると、そのぉ……」
「由美さん人気なんだね」
「まあ過去と酔っ払いなところに目を瞑れば……そうね。そうかもしれないわね。過去と酔っ払いに目を瞑れば」
酔っ払いお姉さんを頭に思い浮かべつつ、苦笑いで幸子さんの気持ちに頷く梅ちゃん。
前に由美さんの全力睨みを見たことのある梅ちゃんですが、かっこいい面もちゃんと見ているのです。
「じゃあじゃあ、さくめちゃんもかっこいい女の人に憧れるの?」
「あ、そうなんですか? じゃあ私と同じですね……!」
「いや、そんなことないわよ」
もちろん、それが憧れとは限らず、ぱあっと顔を明るくした幸子さんが一瞬で心を折られましたが。
「まあかっこいいよりかは落ち着きのある人の方がいいわね……って、あたしの話はいいわよ」
「落ち着きのある人、かぁ。響子さんみたいな?」
「…………どうかしらね」
ともあれ、響子さんの話になるとつーんとなる梅ちゃんを咲ちゃんがまあまあとなだめつつ、ようやく本題に入ります。
「えっと、恋愛相談ってことだけど……幸子さんはあれから由美さんと仲良くなったんじゃなかったっけ」
「あ、えっと、はい! そ、そうですね。前に二人に捕まった時に比べれば、その、仲良くなった……と思います」
「一緒にお酒飲んだりとか?」
「あ、いえいえいえ。その、私はお酒弱いんです。だから一緒に行ってもお酒は飲めなくて……」
何とも詰まりの多いおどおど加減に加えて、幸子さんは由美さんの大好物であるお酒が飲めない。
これはどうしたものかと恋愛専門家梅ちゃんがぐぬぬと頭を悩ませ、
「さくめちゃん、どう?」
「なかなか難しいわね…………」
「はう……やっぱり難しいですか」
なかなか難しいとの結論。
恋愛専門家梅ちゃんにこうまで言わせる幸子さんは、なかなか辛い恋愛模様になりそうです。梅ちゃんは漫画の知識しかありませんが。
「でも、そっか。めぐさんと姫ちゃんはどっちも趣味とか好きなもの共有してるもんね」
「この店のお客さんですか?」
「うん、前に恋愛相談に来た人達だよ。かっこいい人と、可愛い子」
「そういう意味じゃ今回も一緒ね」
酔っぱらっていなければかっこいい由美さんと、おどおどしているけれど可愛らしい幸子さん。
お酒が絡まなければめぐさん達と一緒な二人組なのです。
だからこそ咲ちゃんと梅ちゃんはうんうんと頷き、顔を合わせて、
「恋愛相談、スタートよ!」
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「——というわけで、よ」
「あ、幸子さん。こちらキノコ和風パスタになります」
「わぁ、美味しそうです……! ありがとうございます!」
そんなわけで、幸子さんの前に置かれたのはキノコ和風パスタ。
キノコやアスパラ、ベーコンがだし醤油でさっと炒められ、麺に絡みついたその見た目は、味の宝石がお皿の上に散りばめられているようで、
「…………食べてからにするわ」
美味しそうにもぐもぐする幸子さんの、宝石のような笑顔を見て梅ちゃんが進行を諦めました。
「これはえっと……咲ちゃん、で良いんでしょうか」
「うん、大丈夫!」
「あ、それでは咲ちゃんで。えっと、咲ちゃんがこのパスタを?」
頰が緩んだままの幸子さんが小首を傾げて問いかけると、これに咲ちゃんは激しく頷き、目をキラキラとさせます。胡麻たんが餌をもらう時のように。
幸子さんはそんな咲ちゃんにはわわと驚きつつ、
「とっても……うん、とっても美味しいです、これ! すごいです、咲ちゃん」
「えへへー」
またまたこちらも目をキラキラとさせました。……キラキラとし過ぎて梅ちゃんが眩しさに目を覆うくらいに。
宝石やキラキラとなんだか目に優しくない光景が続きますが、えへへとしていた咲ちゃんはふと、気がつきました。
「…………あれ?」
「どうしたのよ?」
一体何に気がついたのでしょうか。
首を直角に傾けたり、むむっとしたりと頭を悩ませたかと思えば、
「——料理だ」
「料理、ですか?」
「うん、料理だよ! 料理で行こう!」
元気良く、相談に対する提案をするのでした。




