おまけ13 『小さな二人と大きな一人と暗い店内』
「ねね、響子さん」
「あら、どうしたんですか?」
太陽がお仕事を終え、代わりに月が出勤を始めて数時間。
咲ちゃん達は明るく、お空は暗く、室内も暗く。一体何がどうして暗くなってしまったのか、答えは窓の外にあります。
「懐中電灯って物置部屋だっけ」
「そうですねえ。咲ちゃんが肝試しに使うのなら、取りに行ってくるのだけれど」
「…………いや、暗いから必要なのよ」
「……さくめちゃん雷苦手?」
「…………そんなことないわよ」
そう、梅ちゃんが苦手な雷がゴロゴロしているからなのです。
電気がやられ、梅ちゃんの心もやられ、相談所からは明かりと明るいツッコミの声が消えていました。
三人集まって壁際でちょこんと座っているので、暗いツッコミをするくらいの元気はあるみたいですが。
「ねね、さくめちゃん」
「……何よ」
だからなのでしょうか。
さりげなく梅ちゃんと手を繋いでた咲ちゃんは、響子さんにあらあらされつつ、辺りを見渡して言いました。
「————胡麻たんは?」
懐中電灯はなし、停電で電気もなし。
そんな中で、夜の相談所探検スタートです。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
廊下をひそり、ひそりと歩く人影は三人。
いずれもただならぬ面持ちで息を殺し、物音一つさえも見逃さぬよう警戒を張り巡らしており——、
「…………何で誰も携帯持ってないのよ」
「どっか行っちゃった」
「どこかへ行ってしまったようです」
咲ちゃんのトランプに響子さんのお水、それから梅ちゃんのクッキーという探検家もびっくりな軽装備で胡麻たんを探していました。
携帯は停電騒ぎであっちゃこっちゃとしているうちにどこかへ行ってしまったようで、明かりといえば時折なる雷だけ。
探検どころか冒険です。
「まあ、目慣れてきたからいいけど……」
「あ、しりとりしない?」
「あら、しりとりですか」
「いや、あらじゃないわよ。さっちゃんもさっちゃんで唐突過ぎるわよ」
雷にびくりとするところはともかくとして、電気の心配は何となくなくなった……そんなところで、唐突にしりとりが始まりました。
「じゃあ私から——ココア」
「え。しりとり、から始めるもんじゃないの? まあいいけど……スリランカ」
「花壇、です。ふふ」
五秒で終わりましたが。
さすがにこれには梅ちゃんもあんぐりと口を開け、パクパクとしていましたが、
「何で終わらせてるのよ」
「響子さん、しりとりは『ん』がついたら負けだよ」
「あらあら、そうなんですか?」
「いや、絶対わざとでしょあんた。分かっててやったでしょ、あんた」
しっかりとツッコミをこなすあたりは梅ちゃんでした。
それでも時々、
「……ひぐっ」
機嫌が悪く、ゴロゴロと轟音を鳴らす雷に怖がっていたり、するのですが。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
絶対に響子さんの番で終わるしりとりを四回ほど繰り返しつつ、咲ちゃん一行が辿り着いたのは階段前。
物置部屋へは何故か寄らず、他の部屋は散々見て回ったのですが、胡麻たんの姿は見られず。
そんなわけで三人は二階へ登ろうと決意したわけですが、
「……私、思ったんだけど」
咲ちゃんは階段に足をかけようとして、器用にも寸前で足を止めました。
彼女の表情は不思議なポーズとは裏腹に真剣そのもので、
「どうしたんですか、咲ちゃん」
「えっと……ね。雷ってさ、おへそを取るって言うじゃない?」
「ああ、子どもの頃よく言われてたわね。それがどうかしたの?」
「……胡麻たんがいなくなったのって、ちょうど雷が鳴り始めた頃なんだよね」
「——それって」
足がプルプルとしていますが、それでも咲ちゃんは足を下ろしません。息を呑む梅ちゃんと、頰に手を当ててはんなりと微笑んでいる響子さんを見てから、ゆっくりと口を開きます。
「——————胡麻たん、雷に取られたんじゃない?」
偶然にも、咲ちゃんの表情の後にはピシャンと、雷が大きな音を立てて。
まるで彼女の言葉が真実だと言うようなタイミングですが、
「いや、そんなわけないでしょ」
梅ちゃんが冷静に否定して終わりました。
ともあれ、そんな怖い話のようなそうでないような話は終わり、ぷるぷるとしていた咲ちゃんを先頭に二階へ進みます。
「……そういえば二階に行ったことって結局なかったわね」
「あら、そうでしたか? 前に咲ちゃんと一緒に探検した、と聞いたのですが」
「ん、あの時は二階まで行ってなかったのよ。ね、さっちゃん」
「そういえばそうだったね」
階段を一段一段丁寧に……なんてことはなく、暗くてふらふらとした足取りな咲ちゃんを、梅ちゃんが後ろから支えつつ。
ちょっとした小話に花を開かせて、
「…………あたし、何か忘れてる気がする」
「しりとりですか?」
「いや、それはもういいわよ」
二階を一部屋、また一部屋と探索し、残りはたったの一部屋になりました。
二階のどの部屋よりも大きなその部屋は、以前さらりと咲ちゃんが触れたとか触れていないとか、そんなお部屋です。
「…………ここにいなかったら、地下室かしらね」
「……さくめちゃん、地下室行きたい?」
「……行きたくない」
「あらあら。地下室も面白いですよ」
お泊まり部屋、と最後にハートの書かれた看板がかかったお部屋。
この部屋で見つからなかった時のことを想像して、咲ちゃん梅ちゃんはむむっと嫌な顔を、響子さんはあらあらうふふと。
見つかればいいなと願いを込めて、梅ちゃんは扉を開けて——、
「あら、梅ちゃんじゃない。それに響と咲ちゃんも。停電、大丈夫だった?」
「————わおん、わおん!」
そこに居たのは、お泊まりに来ていた酔っ払いお姉さんこと、真鍋由美さんと、彼女に抱き枕にされる胡麻たん。
そんな光景に驚きが隠せない梅ちゃんに、挨拶をする咲ちゃん、水を差し出す響子さんと、三者三様の反応を見せて、夜の探検は終わりを告げたのでした。




