おまけ12 『本日のあれはこんなところで』
ぴかぴかの朝日に、雲一つない爽やかな空。
日々の忙しさなど忘れてゆっくりしたい、そんなぽかぽかした朝のことでした。
「ねえねえ、さくめちゃん」
「ん……どうしたのよ」
いつも元気な咲ちゃんとは逆で、とってもねむねむモードの梅ちゃん。
言葉に力がなく、ふらふらとしていて今にも寝てしまいそう。
頬杖をつきつつ首がガクンガクン。
「私、思ったんだけど……」
「ごめん……ぱぱっと話して……ふぁ」
ツッコミにもキレがなく、あくびを二度、三度。
咲ちゃんもこれにはどうしたものかと頭を悩ませますが、結局話す方向でいくようです。
「——新メニュー、開発しようと思うんだけど」
「牛乳ね……うん」
もう伝わってませんでしたが。
「ほら、いちごパスタとかいちごパスタ、それからカルボナーラとかいちごパスタはよく作ってるけど、新しいのが欲しいなって」
「ご…………」
「昨日お買い物行ったばっかりだし、色々と……」
そんなわけで、咲ちゃんはいちごパスタブームをどうにかしようと奮起し、あれこれとレシピを考え始めようとするのですが、
「……寝ちゃった」
気持ちの良い朝日に負けた梅ちゃんは眠ってしまいました。
すやすやと、穏やかな顔で。
さすがにこれを起こすわけにもいかず、咲ちゃんはまたまたどうしたものかと頭を悩ませます。
「どうしようかな……」
胡麻たんは修行の旅へ、響子さんはとあるおばあちゃんのところへ。
意見を出せる人が誰もおらず、これでは開発どころではありません。
ですが、そんな時こそお客さんは現れるものです。
開発にうってつけの、咲ちゃんが少し苦手なあのお方。
「————こんばんはー」
「えっ、今朝だよ」
「今日はお休みですからー、ゆう遊びに来てしまいましたー」
暗めの茶髪がふわふわ、言動もふわふわ。
いつでもふわふわマイペースなお花屋さん、日奈森ゆうさんです。
「あ、今は確かに朝ですねー」
会話のテンポも、いつも通りです。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「なるほどー、つまりゆうがそれを味見するんですねー」
「うん、さくめちゃん寝ちゃったし……」
そんなこんなで唐突に始まった新メニュー開発プロジェクト。
料理人はココア大好き助手の咲ちゃん。
味見がふわふわさんゆうさん。
ツッコミを絶賛睡眠中の梅ちゃんが務めます。
「それじゃいくつか作っていくから、味見よろしくね……!」
「あ、紗倉さんのデコが真っ赤ですー」
燃え上がる咲ちゃんに、梅ちゃんのデコをツンツンするゆうさん。完璧な布陣です。
梅ちゃんは寝ていますが。
しかし、細かいことは今の咲ちゃんには関係ありません。咲ちゃんは宣言通りキッチンへ行くと、次々に料理を作って出していきます。
「こちら、納豆チーズ焼きです」
「ナッチーですー」
「こちら、和風ジャーマンポテトです」
「ワャーマンですー」
「こちら、麻婆オムライスです」
「マースですー」
などなど、ゆうさんの略し方はともかくとして、どれも今までのメニューとは一風変わった料理でしたが、
「うーん、どれもしっくり来ないなぁ」
料理人咲ちゃんは満足していない模様でした。
新メニューというからには、とびきり革新的な何かを作りたいようで、ゆうさんにも意見を求めます。
「ねえねえ、ゆうさんはどうだった?」
「そうですねー。どれも美味しかったですよー」
珍しく会話のテンポがあったかと思えば、ダメでした。
ゆうさんはホクホクとした表情ですが、咲ちゃんはむむむと頭をぐるんぐるん。
「何だろう…………」
「あ、いちごパスタ追加注文お願いしますー」
「うん、分かった。……じゃなくて、何かが足りないような?」
「ゆうはナン好きですよー」
何かが足りない、そう呟く咲ちゃんはゆうさんの注文を受けつつ考えます。
今日は何かが足りないような、と。
「————あ!」
ようやく咲ちゃんは気がつきました。本日の咲ちゃんに足りないものに。
何かがナンなのか、何なのか。
そして、
「ゆうさん、ちょっと待ってて!」
とっても元気にキッチンへ駆けていくのでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「…………で、その結果がこれなのね」
「これですー」
いつの間にやら目を覚ました梅ちゃんは、咲ちゃんが運んで来たお皿に呆れるようなコメント。
それもそのはずです。
何故なら、咲ちゃんが作ったのは——、
「ココアパスタだよ!」
「いちごパスタと同系統! 同系統じゃないの!」
生地にココアをふんだんに使用したパスタ、ココアパスタだったのです。
いちごパスタ同様、梅ちゃんからするとかなり奇抜な見た目ですが、
「美味しいですー。ココアの苦味が粉糖でまったりのんびりとしていてー」
「いや、食べるの早すぎよ。まだ来たばっかりじゃない。確かに冷めるけども」
ゆうさんには好評でした。
いえ、今日咲ちゃんが作ったものは全て好評でした。
そんなゆうさんに最初は疑いの目を向けていた梅ちゃんですが、さすがに冷ましてしまうのもどうかと思い、パクリと一口食べます。
すると、
「…………あ、美味しい」
「やったぁ!」
本日のツッコミ担当梅ちゃんからも好評を受ける咲ちゃん。
つまりこれは満場一致の高評価で——、
「…………新メニューにしちゃおうか」
響子さんのいない間に、新メニューとして決めてしまったのでした。




