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26人目 『紫さんは藤のように綺麗』



 咲ちゃんが紫さんに提案した、一日体験相談所。

 その翌日の夜のことです。


「紫さん、一日体験相談所どうだった?」


「そう、ですね……何と言いましょうか、ここは色んな方が来られるのですね…………」


 一日の疲れに腰を下ろして、ココアとレモンティーでティータイム中の咲ちゃん。

 その表情はとっても輝いていて、


「確かに言われてみればそうかも。さくめちゃん……あ、私の友達は最初怖かったなぁ…………」


 ぼんやりと梅ちゃんとの出会いを思い出しつつ。梅ちゃんがツンツン梅ちゃんだった時代です。


「今日一日、仮とはいえ働いて思ったのですが……咲さんはいつもこんな感じなのでしょうか……?」


「こんな感じ?」


「えっと……色んなお客さんに囲まれて、色んな相談に乗る、と言った感じです。私驚いてしまって…………」


 そう、咲ちゃんの提案した一日体験相談所。

 その内容は、今日一日紫さんが仮の従業員として働いてみる、といったものでした。


 咲ちゃんは一仕事を終えた後のココアで太陽のごとく輝いていますが、紫さんは髪で隠れてよく分かりません。

 そんな紫さんに対して、咲ちゃんは言いました。


「うん、こんな感じだよっ! ツンデレな子が来たり、恋愛相談があったり、一般常識確認があったり。確かに大変だけど……」


「…………だけど?」


「すっごく楽しいんだ、私。誰かと一緒にココアを飲んだり、ツッコまれたりツッコまれたり」


「相当ツッコまれているのですね……」


 やたらツッコミが印象に残っているようですが、それはさておき。

 咲ちゃんは机から身を乗り出し、対面に座る紫さんへと手を伸ばすと、


「は、わ…………」


「私ね、みんなと一緒にお悩み相談が出来て、嬉しくて楽しいよ」


 咲ちゃんは紫さんの顔にかかる黒髪を、そっとどけました。

 そこから現れたのは綺麗な顔で動揺する紫さんで、


「紫さんは、どうだった?」


「私、ですか…………」


 腕がプルプルしていた咲ちゃんを元に戻してちゃんと座らせつつ、しばらく考え込みます。


 朝から酔っ払いお姉さんがいたり、ギャルが来たり、一日の半分くらいを寝て過ごしている人が来たり。

 何だか忙しい日でしたが、それを思い返していた紫さんは目をパチクリ、小首を傾げて、


「楽しかった……ですね?」


 あら不思議、といった様子で疑問形で答えます。


 二日連続ツッコミは不在でボケ倒しでしたが、それでも楽しかったのだと。


「……みなさん、良い人でした。しっかりと自分を出していながらも、私のことを気にかけてくれて…………」


 今度は自分で髪をどけた紫さん。

 彼女は言いました。


「……楽しかったです。とても、良い時間でした」


 えへへーと笑う咲ちゃんと一緒に、笑顔になって。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



「ところで……一つ気になったのですが」


「どうしたの、紫さん」


 ティータイムも終え、あとは閉店まで時間の流れを待つだけ……そんな時でした。


「咲さんのお母さ……ではなく、響子さんという方や、他の従業員さんはいつ来られるのでしょうか?」


 紫さんが口にしたのは、素朴な疑問。

 咲ちゃんが一人しかいない、なんてことはここ最近ではかなり減っていたのですが、この二日間に関しては例外中の例外でした。


 何故なら、


「響子さんは胡麻たんと一緒に、ここ掘れワンワン秘境温泉巡りの旅で、さくめちゃんは家族旅行なんだって。それで私一人になっちゃってたんだけど……」


 とんでもない理由とありふれた理由。それらが重なっていたからなのでした。


 紫さんもそれには驚きが隠せないで、


「なるほど……皆さんは旅がお好きなんですね……」


「えっ、いやそんなこと……あるのかな?」


「……違うのですか?」


 相談所の従業員さんは、旅行好きとして認識されてしまったようです。

 ちゃっかり胡麻たんも含めて。


「…………皆さん、多種多様な趣味をお持ちなんですね」


「旅行は多分違うようなそんなような……でも、確かにそうかも。紫さんは何か見つかりそう?」


「いえ、さすがにそんなにすぐには…………」


 本日の一日体験相談所。

 それを体験して楽しい、と口にしていた紫さんですが、そう簡単に趣味は見つかるものではなく。

 咲ちゃんはむむむと頭を悩ませますが、それで見つかるはずもなく。


「あ、ですが……」


「何かあったの!?」


「あ、はい。あ、えっと……」


 すごい勢いで立ち上がった咲ちゃんに紫さんの心がやられました。

 あまりの驚きに、口を何度かパクパクと開いたり閉じたりしたかと思えば、


「あ、えっと…………」


「あ、ごめんなさい」


「あ、いえいえ……」


 何だかお互いぎこちない会話に。この二日間の仲はどこへいったのでしょう。


「……一旦、落ち着きましょうか」


 しかし、それを取り戻すような紫さんの発言。

 これには咲ちゃんも救われて、


「あ、紫さん。また髪隠れてる」


「何度もすみません……」


 また髪で顔が隠れて。

 そんなこんなで二人が落ち着くと、


「それで……先ほどの話ですが、少し興味を持ったものはありました」


 紫さんは言います。

 髪の毛をどけて、ややキリッとした表情で。


「興味?」


「はい。その……人と接する職業が、気になったのです。私自身も楽しかったですし、何より……咲さんが素敵な笑顔を見せてくれましたから」


「えへへ、そうかな?」


「あ、それです」


 そんな紫さんの発言に咲ちゃんは照れ照れ。紫さんはそれを見てニコニコ。照れニコです。


 それを何度か続け、のほほんとしていたところ、急に咲ちゃんはハッとなって言いました。


「……紫さん相談所で働いてみる?」


 唐突なスカウトです。

 梅ちゃんがいたら全力ツッコミで叫んでいたでしょう。


 紫さんが接客業に興味を持った、ということで咲ちゃんはお誘いをしてみたわけですが、


「…………えーと」


 当然ながら、ニコニコしていた紫さんは動揺と困惑で、一体どうしたものかと頭を悩ませます。

 咲ちゃんがワクワクしているため、余計に悩みます。とっても。


 ですが決断の時は誰にでもあります。紫さんはこほん、と咳をすると、


「………………保留、でよろしいでしょうか」


 苦笑いをして、先延ばしにするのでした。

十人目のお客さん


なまえ :藤宮 紫

ねんれい:19歳

しょく :大学一年生

しゅみ :散歩

すき  :雨の日、咲ちゃん

きらい :辛いもの

みため :顔が隠れるくらい長い黒髪美人さん。

     白ニット。髪が隠れてる。

     響子さんや由美さんくらいには大きい。響子さん以上咲ちゃん以下


ひとこと:えっと…………よろしく、お願いします

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