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25人目 『紫さんは仮のあれに就く』



 改めまして、本日のお客さんこと藤宮(ふじみや)(ゆかり)さん。

 咲ちゃんが彼女とともに優雅なティータイムを送っていたところ、甘いお菓子を携えてやってきたのは、


「なるほど……二人はご友人なのですね…………」


「うん、恋愛の先輩でもあるんだよ!」


「いえいえ、そんなに経験があるわけではないですよぉ。まだまだこれからですしぃ」


 めぐさん大好き漆原真姫ちゃん。

 いつもめぐさんにお菓子を作っており、それがまたとっても美味しいのだと相談所界隈で有名な真姫ちゃんなのです。


 そしてそれは控えめにお菓子へ手を伸ばす紫さんも同じようで、


「……これは確かに美味しいですね」


 感想こそポツリ、と小さな呟きでしたが、口元には笑みがこぼれていました。

 目元が隠れて大変なことになっていますが。


 真姫ちゃんはそんな紫さんを見つつ、うふふと笑って頰に手を当てると、


「そう言ってもらえて嬉しいですぅ。これから同じものをめぐさんのところにも持って行くものですから……」


 しばらくしたら会うであろうめぐさんを思い浮かべて頰を染めて。

 何とも幸せそうで。


「大丈夫だよ、ん……姫ちゃん。今日のクッキーはバターがサクサクしててね、んぐ、舌触りが効いてて……」


「……サクサクの、ん。バターはなかなか見かけないと思うのですが…………」


 こちらもこちらで幸せそうなボケとツッコミ。二人してクッキーをサクサクサクサク食べ進めていました。


「……また作ってきますねぇ」


 デートを控えた真姫ちゃんが、また今度作ってこようと決意するくらいには。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



「…………あの、咲さん」


「どうしたの、紫さん」


 真姫ちゃんがデートへ行って、またまた二人に舞い戻り。

 紫さんの相談が何なのか、咲ちゃんが忘れかけた頃になって紫さんは言いました。


「先程の真姫さんは、普段からお菓子を作っているのでしょうか……?」


 紫さんは顔を隠してしまう髪の毛をどけつつ、首を傾げて。


「うん、趣味で作ってるみたい」


「なるほど…………」


 すると今度は咲ちゃんの肯定に沈黙し、考えにふけります。

 何か悩み事でしょうか。


 それから少しの間を挟むと、


「……あの、咲さん。一つお尋ねしても良いでしょうか……?」


「いいけど、どうしたの?」


「えっと……ですね。咲さんはどんな趣味を持っていますか………?」


「趣味? うーん……散歩とか、外で遊んだりとか?」


「……!」


 今度は驚きに目を見開いて。

 何だか大忙しです。


 紫さんのお悩みは趣味に関わる事なのかもしれません。

 彼女は軽く咳払いをすると、


「その、私趣味が散歩くらいしかないもので……」


「えっと、それってつまり」


 きらんと目を光らせる咲ちゃんの問いかけに頷き、認めます。

 髪の毛隠れちゃう系美人さん、藤宮紫さんのお悩みは、


「趣味探し……だね?」



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



「う、うーん……」


 きらんしていた咲ちゃんはどこへやら。

 お悩みを聞いたのは良かったものの、解決策がなかなか思い浮かばず、紫さんに話題を振りますが、


「紫さん、何かやってみたいこととかない?」


「いえ、特には……」


 終了です。


 なので咲ちゃんはココアを一ごくり。二ごくり。

 糖分が咲ちゃんの中に入っていき、頭を回して、ココアココアして。

 そうしてエネルギーを補給した咲ちゃんは、


「——紫さん、普段は何してるの?」


 瞳の奥にどこか真剣味を帯びさせて、紫さんに問いました。


 急なその変化に紫さんはやや戸惑いますが、


「私は現在大学生ですので、大学へ行ったり、家で本を読んだり……でしょうか」


「料理とかはしないの?」


「母のお手伝い程度です……。先程の真姫さんのように出来たら、とは思うのですが…………」


「なるほどなるほど」


 咲ちゃんは紫さんにいくつか質問をしたかと思えば、その答えに頷いて。

 何だか知的な雰囲気を出していますが、多分気のせいでしょう。


「じゃあ紫さん。私から提案があるんだけど……どうかな?」


 目がきらんを通り越してその進化、キリリッとしているのも気のせいでしょう。

 何故なら咲ちゃんは、一本指を立てると——、


「…………あ、ごめん。その前に聞いとかないとだよね」


「は、はあ…………?」


 順番を間違えていたことに気がつき、えへへーと笑って真面目な顔を解いてしまうくらいなのですから。


 とはいえ、グダグダしても挫けない。それが咲ちゃんで、


「えっと……まず紫さんってどこかで働いたこととかある?」


「働いたこと……いえ。ありませんが」


「人とお話しするのって苦手?」


「そうですね……。他の人達に比べると苦手な部類になるでしょうか」


 またまた質問を重ね、考えて。

 いつも梅ちゃんや響子さんがそれとなくやっていることを、本日は咲ちゃんがやっていました。


 頭をぐわんぐわんと揺らしたり、「むむむ」と声を上げたり、トドメと言わんばかりにココアを飲み干して。

 そうして咲ちゃんは結論を出し、


「紫さん、改めて提案があるんだけど————一日体験相談所、してみない?」


「…………一日体験相談所?」


 何やら不思議なワードを、口にするのでした。

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