おまけ11 『弟子が出来たでし』
だぞだぞ子ちゃんの襲来からしばらく経った、ある日のことです。
「咲ちゃん、梅ちゃん。テストの結果はどうでしたか?」
咲ちゃんが先生になったり、梅ちゃんが照れて大忙しだった勉強会。
昼の部、夜の部と勉強づくしだった相談所ですが、
「ぼちぼち取れたよ、響子さん。 満点はいくつか逃しちゃったけど……」
「あたしもぼちぼちね。いつも通り七割か八割くらい」
そのおかげもあってか、咲ちゃん達はしっかりと結果を出せたようでした。
発言をよく聞いてみると、二人の間では点数に大きな差がありますが……それはさておき。
「姫ちゃんもぼちぼち友達みたいだけど、めぐさんは厳しいのがあったみたい」
「いやぼちぼち友達って何よ。確かにぼちぼちって言ってたけど」
「あらあら、とってもぼちぼちなんですねえ……」
めぐさんはぼちぼち残念な結果で、勉強会に参加した三人はぼちぼち良好。
そうして確認が取れたところで、咲ちゃん達が思い浮かべるのはあのお客さんです。
「くらげちゃん元気かなぁ?」
「いや、元気以前にテスト気にしなさいよ。それに多分だぞだぞ言って元気にしてるわよ」
そう、先日相談所へ来たお客さんであり、だぞだぞ子さんこと一ノ瀬くらげちゃん。
彼女はあれからまだ一度も相談所へ来ていなかったのです。
「胡麻たんちゃん、いつになったらくらげちゃんは来るんでしょう?」
「————わおん? わおん、わおん」
「ふむふむ、なるほどなるほど……」
それを確かめるように響子さんは胡麻たんに問いかけ、お話をします。
時々困ったような声を出したり明るい声を出したり、そんな胡麻たんの声に頷いて。
「いや何で話が出来てるのよ」
「新しい占いとか?」
「いや犬占いって何よ…………」
とんでも芸を見せてくれる響子さんに対し、今日も今日とていやいや星人な梅ちゃん。
そんな彼女の疑問は、すぐに取っ払われてしまいます。
何故なら、
「あら、もう来るみたいです」
「へ? 何が?」
「————こんにちは! なんだぞ!」
響子さんの声、咲ちゃんの声。二つの声が打ち消されるくらい元気な声が現れたからです。
元気なだぞだぞ、赤茶のサイドテールを揺らすその女の子は、
「くらげがまた来たんだぞ!」
満面の笑みを浮かべた、一ノ瀬くらげちゃんだったのですから。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「で、これがそのテストなんだぞ!」
そんなわけでだぞだぞ子一ノ瀬くらげちゃん。
彼女は鞄から紙切れを数枚取り出し、机の上に並べると、
「はわぁ…………」
「あらあら、これは……」
「なんていうか……うん、何とも言えないわ」
三人にそれぞれ違う反応をされます。
あの梅ちゃんが何も言えず、響子さんはいつも通りあらあらとし、咲ちゃんははわぁとして。
それも当然です。何故なら、くらげちゃんのテスト結果は——、
「満点、ばっかりだね」
「いや、さすがに極端すぎるでしょ……」
「梅ちゃん、今日はいやいや星人なんですね」
「————わおん、わおん」
咲ちゃん達が教えた教科、全てが満点だったのですから。
一人と一匹は別の話をしていますが。
「教えてもらった通りにやっただけだぞ! せんせーに呼び出されたけど!」
驚き、喜び、驚いて驚いて鳴いて。
そんな反応を見せる咲ちゃん達を前にして、くらげちゃんが明るい調子でさらりとすごい発言をもらしますが、
「大丈夫ですよ、くらげちゃん。昔由美さん……ああ、私の友人もカンニング疑惑をかけられたのだけれど、色々あって何とかなりましたから」
それを響子さんが微笑み、優しく励ましました。
胡麻たんを励ましの品とでも言うかのように、丁寧に差し出しつつ。
「うんうん、響子さんの言う通りだよ。くらげちゃんがすっごく頑張ったから満点取れたんだもん。おめでとう、くらげちゃん」
「由美さんの対応が気になるところだけど……そうね。一夜漬けの部分もあったけど、くらげちゃんはちゃんと勉強してたわ。まあ、その、おめでとう」
「————わおわおん」
そして、響子さんに重ねるような賞賛の数々がくらげちゃんに対して送られます。
以前の梅ちゃんと、逆の立場になって。
そんな温かい言葉を受けたからでしょうか、にぱっとした笑みを浮かべていたくらげちゃんも感動に頰を染め、ふるふると震えて、
「みんなぁ…………ありがとう、なんだぞ……!」
こんな時でもだぞだぞを忘れずにお礼を告げるのでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「そんなわけで、なんだぞ」
「どんなわけよ」
テストの結果発表も終えたところで、午後のティータイムを始める咲ちゃん達。
当然咲ちゃんはココアなのですが、今日は彼女一人だけではありませんでした。
くらげちゃんは梅ちゃんのツッコミに驚きの声を上げつつ、ココアを一気に飲み干すと、
「——弟子にしてほしい、だぞ」
「ほぇ?」
咲ちゃんに対し覚悟を決めた瞳で頼むのでした。
いつものだぞだぞ子を捨てて、一人の女の子として望む姿。さらりとだぞだぞが出ていたのはともかくとして、そんな真剣な申し出に咲ちゃんは、
「弟子って何するの?」
首を傾げてきょとんと尋ねました。
「そうですね……汁物の味付けの元となるもの、と言えば良いでしょうか」
「いやそれはダシよ。弟子って言ってるじゃないの」
大変です、くらげちゃんがダシになってしまうようです。
……という冗談を梅ちゃんが否定してくれたので、変に話が逸れずに続きます。
「うーん、なんかたくさん教えてもらったりとかだぞ!」
「それって弟子じゃなくてもいいような……?」
「じゃあなんかもらったりするんだぞ!」
「親切な人のような……」
「弟子と師匠の関係になるんだぞ!」
「そのまんまね」
くらげちゃんが頑張って伝えようとしますが、なんだか曖昧な説明になって。
弟子とは何であるか、それがいまいちモヤモヤとした咲ちゃんにはどうしても了承出来ません。
ですから、
「ふふっ。先輩、のようなものとして考えればいいんじゃないかしら。咲ちゃんの後輩で、くらげちゃんの先輩。それが師匠と弟子、という関係で」
胡麻たんを寝かしつけた響子さんが、笑みをこぼしながら二人の間を繋げます。
それに納得したのでしょう、咲ちゃん、くらげちゃんの二人は互いの顔を見合わせ、えへへと笑ったかと思えば、
「じゃあ弟子で後輩のくらげちゃん?」
「だぞだぞ。よろしくなんだぞ、咲ちゃん先輩師匠!」
握手をし、師弟の関係を結びます。
「先輩師匠は長いわよ」と梅ちゃんにツッコミを受けながら。
笑って、驚いて、あらあらして。そんなこんなで、咲ちゃんには今日、弟子が出来たのでした。




