22人目 『一ノ瀬くらげちゃんは一にだぞだぞ、二にだぞだぞ』
「そういえばさ、さくめちゃん」
今日も今日とてココアを飲み、胡麻たんと戯れる咲ちゃん。
彼女は退屈そうに雑誌に目を通している梅ちゃんに問いかけました。
「さくめちゃんは今夜何教えてもらうの?」
「へ? 何の話よ?」
「え? ほら、勉強会だよ」
さっぱり話が読めない。
そんな表情で咲ちゃんを見つめる彼女に、咲ちゃんはさも当然かのように言います。
ですが梅ちゃんにはやっぱり何のことやらわけわかめのようで、
「何それ、あたし初耳なんだけど。いつの間に決まったのよ」
「えっと……昨日の夜だったかな」
「準備期間短っ! まだ半日くらいじゃないの!」
咲ちゃんの言葉に全力で驚き、全力でツッコミます。
しかし、ため息一つ漏らしたかと思えば、
「まあ勉強会のことは分かったけど……あたしは何も準備してないわよ。さっちゃんは何教えもらうの?」
「体育かなぁ。テスト近いけど、授業のリーグ戦で足引っ張っちゃいそうで……」
「いや、そこは勉強教えてもらいなさいよ。赤点になっても知らないわよ?」
あっさり飲み込んで咲ちゃんの心配。
やっぱり梅ちゃんは梅ちゃんです。
「ていうか体育、ってことはあの人が来るわけ?」
「うん。響子さんにさくめちゃん。私に、それから————」
勉強会の参加メンバー。それを梅ちゃんが問い、咲ちゃんが答えようとしますが、続きの言葉は聞けることもなく。
「——勉強教えて欲しいんだぞっ!」
タイミングを見計らったかのように現れた、元気な女の子。
赤茶の髪をサイドテールにし、快活な言動で入店したのは、
「くらげの名前は一ノ瀬くらげ! よろしく頼むんだぞ!」
にぱっと笑みを浮かべる本日のお客さん、一ノ瀬くらげちゃんでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「そんでそんで、くらげは勉強が苦手なんだぞ!」
「えっと……くらげちゃんは中学生、でいいのかな?」
「そうだぞ! 今中二だぞ!」
赤茶のサイドテールがブンブン動く、だぞだぞ子くらげちゃん。
彼女の髪に胡麻たんがぴくり、ぴくりと何度も反応します。
そんな様子をしらっと見つめる梅ちゃんはミルクティーを口にしつつ、
「中二と身長変わらないってどうなのかしら。あたしも人のこと言えないけど」
よく分からないところを気にしていました。
響子さんや由美さんに比べれば小柄な彼女達ですが、それが可愛らしいのだということに気がつくことはなく。
「中二ってことは、一応あたしもさっちゃんも教えられるわね。テストでも近いの?」
「だぞだぞ! 次テストの結果悪かったら家追い出されるんだぞっ!」
「えぇっ!? 家追い出されちゃうの!?」
「————わおん……」
満面の笑みでとんでもないことを言ったくらげちゃんに対し、咲ちゃんがとんでもない驚きを見せます。
胡麻たんはぽかんとしています。
そんな助手とお犬さんに対し、梅ちゃんは、
「追い出されるって……、それ今までの成績が悪かったからじゃないの?」
「そうとも言えるぞ!」
「そうとしか言えないじゃないの」
ため息を吐き、くらげちゃんのこれまでの成績を把握しました。
ツンデレツッコミガールに苦労はつきものなのです。
「じゃあ、私たちが教える……ってことでいいのかな?」
「よろしく頼むんだぞ!」
咲ちゃんが目的を確認し、くらげちゃんが勉強の出来ないだぞだぞ子だと分かったところで、梅ちゃんが待ってましたと言わんばかりに咳払い。
そして、
「テスト前勉強会、お昼の部! スタートよ!」
「おー」
気合いを入れて、本日の相談が始まるのでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「じゃあまず国語からね。内容はあたし達の頃と変わってないみたいだから、ささっと行くわよ」
どこから持ってきたのか、メガネをつけてノリノリな梅ちゃん。
彼女に合わせるかのように、だぞだぞ子ことくらげちゃんもメガネをつけて、
「なんかこれつけてるとくらげ頭良く見えるぞ!」
「確かに……っ!」
「見えるだけよ。見えるだけ。さ、早く教科書とノート開きなさい」
波長が合うのか、咲ちゃんとくらげちゃんが和気藹々と盛り上がっているところに、教師梅ちゃんが急かしにかかります。
二人からブーイングが飛んできても、梅ちゃんは梅ちゃんなのです。
「——はい、じゃあここの女の子の心情ね。くらげちゃん分かる?」
「分からないぞ!」
「即答! もう少し考えなさいよ!」
対して、くらげちゃんが元気よく答える様は、まさに模範的生徒像そのものです。内容に関しては落第もいいところですが。
そんな彼女に本日三度目のため息をついた梅ちゃんは、咲ちゃんをちらりと見て回答を任せました。
「じゃあさっちゃん。ここ分かりやすく説明してあげて」
「んっと……、むむーってなって、ぐわわってしたら、ひゃわーってなったんだよね」
「……なるほどなんだぞ!」
「いや何よそれっ! というかくらげちゃんもなるほどらないの!」
その結果、ひゃわわとするような回答と、それになるほどるくらげちゃん。
やっぱり波長が合うようです。
うんうんと頷き、分からない苦しみから解放されたような安堵の表情を浮かべます。
「待って。……もう少し詳しく説明してみてくれる?」
とはいえ、梅ちゃんは自分なりの答えを持っているとは言え、このままではモヤモヤしたままで。
なので咲ちゃんに詳細を求めると、
「ええっと……、この女の子はモヤモヤしてついツンツンと怒っちゃったけど、相手の子が言ったことにデレデレしちゃう……みたいな感じだよ」
「最初からそれ言いなさいよ!」
「————わおん、わおん」
思わぬところで思わぬ才能。
そう、咲ちゃんは何となく勉強が出来ちゃう人なのです。ココアを飲んで予習復習をしているからでしょうか。
梅ちゃんと胡麻たんもそんな咲ちゃんの普段とのギャップに驚きつつ、ツッコミますが。
「まあいいわ。じゃあ次行くわよ」
「あ、くらげは最初の説明のほーが分かりやすかったぞ!」
「…………あたしはあんたの心情が知りたいわよ」
そんな調子で、咲ちゃんがひゃわわとなる説明をし、くらげちゃんがだぞだぞして。梅ちゃんがため息を吐いてツッコミをして補足をして、と大忙しな時間を過ごしつつ、勉強会お昼の部は進んでいくのでした。




