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おまけ⑩ 『ちょっと疲れる当たり前の一日』



 友梨ちゃんの一般常識研修の翌日。

 咲ちゃんと響子さんは朝から絶賛ブレイクタイム中でした。


「それでね、さくめちゃんがぬいぐるみ取ったんだけど」


「あら、それがあの大きなぬいぐるみですか?」


 咲ちゃんは既に光合成を終え、胡麻たんは光合成をしながら世界情勢について考えていました。それはもう、真剣に。


 そんな中響子さんが指差したのは、店内の端、銅像のように置かれたライオンさんのぬいぐるみです。

 お腹の下にはちらほらと小さなぬいぐるみもあって、


「うん。ライオンさんが色んな動物さんを育ててるみたいだけど……」


 ライオンさんがパパさんのようになっていました。

 うさぎさんにサソリさん、ゾウさん、イルカさんと様々な動物の。愛は種族を超えるのです。

 二人はうんうんと頷き、気持ちを確かめ合って。


「…………ねえ、響子さん」


 ——そう、それは咲ちゃんがライオンさん一家をほわわとした目で見つめていた時でした。


「どうしたんですか、咲ちゃん」


 問いかける響子さんを他所に、きょろきょろと店内を見渡す咲ちゃん。

 ココアを飲んで覚醒したのでしょうか、彼女は胡麻たんに負けず劣らずの真剣な表情です。


 部屋の隅から隅まで見ていき、やがて咲ちゃんにしては珍しい、諦めたようなため息とともに、彼女は言いました。


「響子さん。……物増えすぎてない?」



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



「で、あたしがここへ来ると同時に大掃除を始めようとしてたと」


「そういうことだね」


 咲ちゃんの緊迫な表情から数十分。梅ちゃんが相談所へ来る頃には、大掃除セットが準備されていました。


 世界情勢について考えていた胡麻たんも、当面は様子見で方向性を固め、大掃除にノリノリで参加します。


「しかし唐突ね。まあさっちゃんの気持ちも分からないでもないけど……」


 梅ちゃんはその場でくるりと回転、辺りを見渡します。


 そう、咲ちゃん梅ちゃんの言う通り、店内には物がかなり増えているのでした。


「あたしが取ったぬいぐるみとか持ってきたぬいぐるみとか、もらったぬいぐるみとかはともかくとして……」


「お花に雑誌、七色の水晶、観葉植物、ドッグフード、酒瓶、色々ありますねえ……」


 色んなお客さんからの頂き物や、暇つぶしに持ち込んだもの。狩りのお土産等ありとあらゆるものが置いてあるのです。ぬいぐるみは全て梅ちゃんの私物ですが。


 ともかく、それにはさすがに三人全員があらあらして、


「やるしかないわよね」


「————わおん!」


 胡麻たんの元気な声が響いたところで、改めて大掃除が始まるのでした。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



 かくして始まった大掃除。

 その内容は苛烈を極めていました。


「何これ」


「あ、それ私が作った自慢の紙飛行機!」


「捨てるわね。これは?」


「それは私が作ったトランプピラミッドだよ!」


「崩すわね」


 主に咲ちゃんの中で、ですが。

 ありとあらゆる無駄を梅ちゃんがばっさり切り捨てていきます。


「さくめちゃんひどいよぉ……」


「後片付けは基本よ。それは譲れないわ」


 厳しく言い放つ梅ちゃんですが、涙ぐむ咲ちゃんの頭を撫でるその手はごまかせません。


「さ、結構片付いてきたんだから頑張るわよ」


「うん……」


 まるで梅ちゃんが咲ちゃんをいじめたかのような状態になっていますが、それはともかくとして。


 テキパキと進めていく梅ちゃんのおかげで、大掃除の進行が早いのは確かなのです。


「植物とかお花はそのままでいいよね」


「そうね。占い道具は必要な時以外はいらないし、お酒はもっといらないわ。あとは……」


 小物を次々に運んでいき、オブジェと化しているものはほとんど捨てる。これこそツンデレツッコミガールの本気です。ぬいぐるみには一切触れていませんが。


 胡麻たんも彼女に協力的で、ゴミを分別したり、段ボールに荷物をしまい込んだり。犬とは思えない花瓶で小器用な動きです。


 二人と一匹が協力し、汗水流して店内を清潔にして——、


「みなさーん。お茶が入りましたよー」


「あんたも働きなさいよっ!」


 いつの間にやらお茶を淹れに行った響子さんに対し、ツンデレツッコミガールさんはツッコむのでした。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



「…………疲れた」


「お疲れ、さくめちゃん」


 そんなこんなで、大掃除が終わる頃にはすっかりお昼になっていました。


 梅ちゃんと力を使い果たして机に突っ伏し、胡麻たんは地面でぐったりとして、咲ちゃんはココアで回復し、


「三人ともお疲れ様、です。お昼ご飯ですよー」


「胡麻たんは匹よ、匹」


 響子さんはご飯を作り、テーブルに並べて。


 お客さんが来るかもしれない、そんなことを一切忘れているあたり平常運転でした。


「それでは、いただきます」


 響子さんのかけ声で各々がご飯をもぐもぐ召し上がって。

 オムライスにカルボナーラ、サンドイッチにドッグフード。なんとも色あざやかな食卓です。ドッグフードはさておき。


 お味もよろしいようで、咲ちゃんはもちろん梅ちゃん、胡麻たん、作った本人の響子さんからも笑みが溢れて——、


「……和みかけたけど誤魔化されないわよ」


「あらあら。梅ちゃんは厳しいですね」


「そうだよ、さくめちゃん。響子さんだって前半は頑張ってたんだから」


 響子さんが大掃除をサボってお茶を淹れていたことに対し、未だ根に持っている梅ちゃん。


 咲ちゃんが響子さんをフォローしますが、むしろ強調しています。

 響子さんにはダメージとして届きませんが。


「まあいいわ。今日がこのまま平和ならそれで」


 だからでしょうか。

 梅ちゃんはため息を吐いて響子さんを許してしまいました。

 緩やかな雰囲気だから、それでいいのだと。


 ……とはいえもちろん、梅ちゃんが口にした願望は叶うはずもなく。


「——すみませーん」


 お客さんはいつも通り訪問して来るのです。

 それが、相談所の一日なのですから。

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