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20人目 『友梨ちゃんはざわざわと』



「実は、ですわ」


「…………うん」


 誰かが息を呑みました。


 締め切られた窓とカーテン。

 それはまるでお姫様である真姫ちゃんと、お嬢様の藍澤友梨ちゃんの身を隠しつつ会談を行うよう。


 王子様は不在で、賢者の響子さんもいない。

 それならばと、魔法使い咲ちゃんと武闘家の梅ちゃんが彼女らを守り——、


「わたくし、一般常識の勉強に参りましたの」


 なんてことはもちろんありません。


 恥じるようにひそひそと囁くのは、本日のお客さん友梨ちゃん。

 彼女は決意を決めるように深く息を吐き、そして、


「皆さま、どうかご教授いただけると幸いですわ」


 深々とお辞儀をするのでした。



*** *** *** *** *** *** *** *** ***



「一般常識かぁ」


「ええ。わたくし、お勉強の方はお父様に褒められることも多く、一定水準に達していると自負しているのですが……」


「一般常識は足りてないと思う、ってことね」


 ぼんやりと一般常識を考える咲ちゃんに対し、梅ちゃんと真姫ちゃんはうんうんと頷くと、


「友梨さんはぁ、何かに困ったりなどしたのでしょうかぁ?」


「はい、恥ずかしながら。お買い物も格好の良い店員さんがいたから良かったものの、わたくし一人では満足に出来ませんの」


「ということは……小銭などもあまり身近なものではないのでしょうかぁ?」


「そうですわね。もちろん名前は知っていましたが、手にするのは数時間前に受け取ったのが初めてでしたわ」


 などと、真姫ちゃんが本職以上に活躍している後ろでは、梅ちゃんが咲ちゃんにココアを渡したり、飲んだ咲ちゃんが覚醒したり。


 そんなこんなで事態を把握した咲ちゃん達は、


「友梨ちゃん。私達が何でも答えるから、何でも聞いてねっ! ココアのことだったら何でも答えらるから!」


「いや、ココア以外のことも自信持ちなさいよ! さっちゃんに出来ることたくさんあるじゃない」


「デレましたねぇ」


「デレてないわよ!」


 ココアには強い熱意を抱く女の子、それが咲ちゃんです。

 彼女の言葉がきっかけとなり、梅ちゃんが本日のデレを見せますが、


「…………?」


「どうしたのよ?」


 その様子を見て、友梨ちゃんが首を傾げました。

 記憶でも探っているのでしょうか。何秒かのだんまりのあと、彼女ははっと顔を上げて、


「思い出しましたわ。わたくし、梅さんを知っていますの」


「さくめちゃんとどこかで会ったの?」


「さくめ……ああ、梅さんのことですわね。いえ、わたくしは会っていませんわ。ただ、噂を聞いたものですから」


 噂。

 それはこの場の誰もが首を傾げるくらい心当たりのないもので、知っているのは友梨ちゃん、ただ一人です、


 だから、自然とみんなの視線が友梨ちゃんに集まって、


「……占い師の方が仰っていましたわ。この相談所にはツンデレツッコミガールがいる、と」


 衝撃の事実が発覚しました。

 以前月子さんが相談所を訪れた際にも、少しだけこぼした一言。

 その真相がこんなところで姿を現したのです。


 それを受けた噂のツンデレツッコミガールさんも、動揺は隠せないようで、


「色々納得がいったけど、なんであたしが噂になってるのよ……」


「まあまあ、さくめさん」


「まあまあ、さくめちゃん」


 落ち込むやら驚くやら。

 沈んだ表情で梅ちゃんは呟きます。

 そこに、咲ちゃん達による励ましが挟まれつつ。今度は咲ちゃんが梅ちゃんにミルクティーを与えつつ。


 そうしてそれぞれの調子を取り戻し、


「一般常識確認、始めるわよ!」


「おー」


 改めて、本日の相談スタートです。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



 そんなわけで始まった一般常識勉強会。

 生徒である友梨ちゃんは姿勢良くピンと挙手をし、質問を述べます。


「ええっと、質問がありますわ」


「友梨ちゃん、どうぞっ!」


 対して答えるのは、先生のはずが目線があまり変わらない咲ちゃん。

 自信満々笑顔満点で許可しますが、


「このいちごパスタという料理は……召し上がる方が多いのでしょうか?」


「うん、何でか分からないけどすごく人気だよ。ゆうさんもそうだし、姫ちゃんも好きだったよね」


 とってもアバウトな説明でした。


「そうですねぇ。最初は抵抗があったんですけどぉ、食べてみるとこれが美味しくて」


「流行りみたいなものかもしれないわね。これを一般常識かって言われたら、あたしは全力で否定したいわね」


「なるほど、流行りですわね……」


 とはいえ、咲ちゃんがアバウトな説明でも、梅ちゃんと真姫ちゃんがフォローをしてくれるので何の問題もありません。

 ココアが切れても。


「それでは、えっと……」


「どうしたの?」


 続けて次の質問、と思いきや友梨ちゃんが言葉に詰まります。

 一体どうしたのかと先生三人は友梨ちゃんを見つめますが、彼女もなかなか言葉が出てこず、


「申し訳ありません、名前を忘れてしまいましたの。何とかセンターという施設なのですが」


 沈黙を超えて出てきたのは、穴埋め問題でした。

 それには先生達も全力で取り掛かり、


「ポジションだね」


「いや、施設って言ってるじゃない。迷子センターよ」


「バッティングセンターではないでしょうかぁ?」


 それぞれが意見を出し、正解の合図を求めますが——、


「いえ、違いますわ」


 残念、違いました。


 それから一つ、また一つと意見を出してもやはり返ってくるのは違うという返事のみ。

 疲弊した咲ちゃんがココアで体力を回復しながら、一体どうしたものかと頭を悩ませて、


「あ、そういえば誰から聞いたの? その何とかセンターって」


「え? ああ、お花屋さんの店員さんですわ。何でもよく行かれるとかで……」


「その人ってどんな人?」


「そうですわね……あの方は自分のことをヤンキー、と仰っていましたわ」


「——あ、ゲームセンターだ」


「あ、それですわ」


 答えを導き出してしまいました。

 ココアの力を借りて、普段の数倍もの速さで頭を回転させる咲ちゃん。そうしてようやくたどり着いた答えです。


 もっとも、たまたまこの場の誰もが忘れていただけなのですが……ともあれ、そんなこんなで答えも見つかり、


「実はわたくし、そこへ行ってみたいと考えていまして」


「じゃあ行ってみる?」


「え、いいんですの?」


 そのまま流れるように、ゲームセンター出張が決まったのでした。

 梅ちゃんと真姫ちゃんが、ぽかんとした顔で置いて行かれながら。

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