19人目 『藍澤友梨ちゃんは優雅』
「姫ちゃんって何が好きなの?」
ある日の朝のことでした。
日光が眩しく、咲ちゃんと胡麻たんが光合成を始めてしまう、そんな陽気な日。
本日は響子さんの代わりに姫ちゃん——漆原真姫ちゃんが相談所に来ており、
「めぐさんでしょうかぁ」
「いやそっちじゃないわよ。ほら、姫ちゃんの好きな食べ物とか飲み物とか」
今日も今日とてめぐさん大好き真姫ちゃん。
彼女は梅ちゃんの言葉に何かを思いついたのか、咲ちゃんが手にしているカップを見つめて甘ったるい声で答えます。
「なるほどなるほど……そうですねぇ、どちらも甘いものが多いでしょうかぁ。ココアもミルクティーもよく飲みますし。でもぉ、今日はココアでお願いしますぅ」
——そう、彼女の視線の先、咲ちゃんのカップの中にはいつもならあるはずのココアがありませんでした。
というのも、真姫ちゃんが相談所へ来る直前に飲み干してしまったものですから、
「それじゃあココアだね。淹れてくるから待ってて!」
「妙に生き生きしてるわね」
「咲ちゃんはぁ、本当にココアが好きなんですねぇ……」
ちょうどお代わりと注文、どちらもタイミング的に良いので真姫ちゃんに尋ねた……というわけです。
二人はぱたぱたと走っていく咲ちゃんを見つめつつ、緩やかな笑みを浮かべ、
「あ、そういえばぁ。ここに来る前に可愛らしい女の子に会ったんですよ」
「へー、どんな子なの?」
ぽん、と手をつく真姫ちゃんが思い出したかのように言います。
それに反応し、彼女の言葉を待つ梅ちゃん。
当たり前でありふれた反応ではありますが、真姫ちゃんはそれに頬を染めつつ、
「それがですねぇ、さくめさん。私驚いちゃったんですけどぉ、フリフリの服装で、まるでお嬢様みたいな——あら?」
語り始める、はずでした。
その声を中断するのは、お客さんの訪問を知らせる鈴の音です。
二人が揃って視線を向けるとそこには、
「——ごきげんよう。初めまして、ですわ。わたくしのお名前は藍澤友梨。以後……あら?」
体は小さく、お人形さんのように可愛らしい白金長髪のお嬢様。
赤のフリフリした服を持ち上げ、華麗に挨拶の句を述べるのは、本日のお客さん藍澤友梨ちゃんでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「————わおん?」
「これがお犬さん、ですの……っ!?」
友梨ちゃんは机の下で空気となっていた胡麻たんを見つけ、感激の声をあげました。
どうやら友梨ちゃんは初めてお犬さんに触るらしく、はわはわと口を震わせて指先でツンツンと胡麻たんをつつきます。
「胡麻たんっていうんだよ。友梨ちゃんはココアで良かったよね?」
それを見た咲ちゃんはさりげなくココアを布教すべく、カップに入れたココアを持ってきて、
「ええ。ご丁寧にありがとうですわ」
布教半分、気遣い半分。
そんな背景があることを知らないまま、友梨ちゃんは体を起こしてカップを受け取り、優雅な笑みを浮かべ、
「さて、改めてまして——真姫さん。先程はわたくしにお花屋さんを教えていただき、ありがとうございました、ですわ」
「いえいえぇ。欲しいお花は見つかりましたかぁ?」
「そうですわね。格好の良い店員さんのおかげでなんとか」
真姫ちゃんと友梨ちゃん。二人はここへ来る前に会っていたらしく、道案内をしたされた関係のようです。
友梨ちゃんが購入したというお花は、机上に丁寧に置かれていて。
そんなこんなで事態を把握した咲ちゃんと梅ちゃんは、
「姫ちゃんと友梨ちゃんって……大人っぽい」
「そうね。かなり悔しいけど、それは否定できないわ」
話には何の関係もない感想を述べていました。
落ち着いた言動に、二人から発せられる煌びやかなオーラ。
それにあてられた咲ちゃんと梅ちゃんは眩しさに目を瞑ってしまうほどです。
「そんなことはありませんわ。わたくし、淑女としてのお稽古は常日頃から怠けず励んでいるものの、まだまだ甘い点も多くあります。それに、お二人のようなご友人にも恵まれず。大変羨ましく思いますの」
「あ、姫ちゃんも忘れちゃダメだよ。それに、友梨ちゃんももう友達だから!」
「なんと……それは失礼致しましたわ。ふふ、咲さんはお優しいお方なのですわね」
しかしそんな友梨ちゃんにも、咲ちゃんは平常運転。
お嬢様であろうと、楽しく話せるのなら右の子も左の子も友達なのです。
そしてそれは、
「あ、私ビスケット焼いてきたんですけどぉ、皆さん食べられますか?」
「うん、食べるっ!」
「そうね、あたしも」
「それではわたくしも。ありがとうですわ」
甘いお菓子を前にした時、ここにいるみんながみんな目を輝かせて喜ぶように、素直な反応で。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「え、じゃあ友梨ちゃんは本当のお嬢様なの?」
「そうなりますわね。一人娘としてはまだまだ未熟な身ですが……」
「その歳なら謙遜する必要ないわよ。えっと……小学生、でいいのよね」
「ええ、つい先日五年になったばかりで。ですから早く皆さんのような大人の女性に近づきたいと常々感じていますの」
ビスケットと温かい飲みものによるティータイム。
彼女たちの話題はもちろん、本日のお客さん友梨ちゃんに関するものです。
「じゃあ友梨さんはぁ、今日は息を抜いてお話が出来ますねぇ」
「確かにそうだね。ココアもあるし」
そんな中、真姫ちゃんと咲ちゃん、二人から飛び出たのは不思議な発言でした。
うんうんと頷き、ねーと声を合わせる彼女達に対し、
「ココアは関係ないとして……どういうことよ?」
「わたくしも分かりませんわ。どういうことですの?」
梅ちゃんと友梨ちゃんはきょとんした顔で首を傾げます。
一体どういうことなのでしょうか。
そんな疑問に、真姫ちゃんは答えました。
「家でも学校でもなく、ここにいるのは女の子が四人。でしたらぁ、肩肘張る必要はないと思うんですけどぉ……違いましたかぁ?」
彼女の発言にはまたしても咲ちゃんが何度も頷き、共感。
先ほど疑問していた二人は、
「……そっか、そうね。」
「ですわね。これはわたくし、盲点でしたわ。ではお言葉通りに甘えさせていただきますわ、お三方」
鳩が豆鉄砲を連続で食らったような顔をしていましたが、何とか飲み込み、風船の空気が抜けるがごとく力を抜いていきます。
「————ではでは、わたくしこちらの白黒のボードゲームをやってみたいですわ」
「それ、オセロって言うんですよぉ」
「あれ、一個足りなくない?」
「胡麻たんが食べてたから洗っておいたわよ」
「————わおん」
そうして穏やかで和んだ雰囲気へ。
自然と笑顔も溢れ、四人と一匹は和気藹々として——、
「…………そういえば、友梨ちゃんは何の相談があって来たの?」
咲ちゃんが問いかけを漏らし、ようやく本題に入るのでした。




