おまけ⑧ 『小さな二人に大きな店内』
「台風ってどんな目なんだろう」
「——わおん?」
時々震える締め切られた窓と胡麻たんを交互に見つめる咲ちゃんは、ぽつりと呟きました。
「ほら、台風の目ってあるでしょ? それってどんな目なのかなぁって」
「——わおん……」
それを拾った胡麻たんは考え込むような鳴き声を出しつつ、咲ちゃんを見つめます。
「実はつぶらだったり、キリッとしてたりして。……あ! でもでも、ココアを出してくれる目とかだったら嬉しいかも!」
「——わおん、わおん!」
共感が入り、さらに勢いがついて、
「だよねだよね! 雨の代わりにココアが降ってきたりとか——」
「……それホラーじゃない! というかベタベタするわよ!」
何やらある意味怖い想像を広げていく咲ちゃんと胡麻たんに対し、耐え切れなくなった梅ちゃんがツッコミを入れるのでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
胡麻たんも深い眠りに就いてしまったので、咲ちゃんと梅ちゃんはココアとミルクティーをそれぞれ淹れ、ティータイムを始めます。
「さくめちゃんはここから家まで距離あるんだっけ」
「そうね。って言っても徒歩で帰れる距離だけど」
「そっかぁ。私も同じ方向だったらダブルバリアーで帰れるのに」
「同じ方向でも危ないことに変わりはないわよ。……ってちょっと待ちなさい、ダブルバリアー?」
「え? ほら、前と後ろで傘を開いて進んでいくんだけど……さくめちゃん知らない?」
咲ちゃんが手振りで分かりやすく説明してみせます。
それには梅ちゃんもなるほど確かに効果的なバリアーだと頷き、納得しかけますが、
「……いや、それ死角だらけじゃないの。横もそうだし、曲がった時やどっちかが吹き飛ばされた時どうするのよ」
「うーん、陣形を変えるとか?」
「そんな戦じゃないんだから。いやある意味戦いでしょうけども。ちなみに誰に教えてもらったの?」
「響子さんだよ」
「あの人か! いやさりげなくやりそうな人だけど!」
ダブルバリアーの開発者も分かったところで、二人は事前に合わせたかのように同時にカップの中身を口に含んで、一服。
落ち着きを取り戻したところで咲ちゃんは窓を見て、一言。
「明日には帰れるかなぁ……」
「予報じゃ明日の朝にはもう大丈夫そうみたいだけどね……台風」
そう、本日はなんと台風で強制お泊まり会なのでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「……で、どこに行くわけ?」
締め切られた店内。
その入り口に二人は立っていました。
「んっとね、相談所の案内でもしようかと思って! ほら、考えてみるとさくめちゃん、まだ二階とか行ったことないでしょ?」
「まあね。使う機会ないしそんなのあるんだーくらいにしか思ってなかったわ」
「なら案内しなきゃ!」
何故だか気分ルンルンな咲ちゃん。そのうち滑って転びそうな雰囲気を醸し出していますが、大丈夫なのでしょうか。
「ええっと、まずはここ。お客さんと接するところ……なんて言うんだっけ」
「ダイニングルーム、じゃない? あたしもそこまで自信ないけど。というか知ってるけど」
なんだか頼りない説明ですが、大丈夫なのでしょうか。
「……よし、進もうか」
「あたしが説明担当になるわね、これ」
こうして、梅ちゃんに補足を受けつつ歩いて行くという本末転倒な旅が始まりました。
ちなみに響子さんはというと、月子さんと共に水晶を探しに砂漠や森、丘、様々な場所へ出かけています。
「ダイニングとキッチンを抜けると廊下なんだけど、最初ここに出るまでトイレの場所分からなくて困ったなぁ……」
「確かにキッチンを抜けないといけないのは分かりづらいわよね。知ってるけど」
説明と共に二人はキッチンを抜け、廊下に出ます。
当然ですが、そこには各家庭にあるトイレや浴室等々があり、
「……改めて見ると、ここってただ相談所だけってわけじゃないのね。住めるじゃないの」
「たまに酔っ払った由美さんが泊まってたりするよ」
「ちょっと待ちなさい。何それ、初耳なんだけど」
どこまでもフリーダム、それが元ヤン酔っ払いお姉さん由美さんなのです。
とはいえ自身の私物を持ち込んだりしないので、根っこの部分では由美さんもしっかりしているのですが。
「うーん…………他に何かあったかな」
梅ちゃんの中でまた一つ酔っ払いお姉さんエピソードが追加されたところで、咲ちゃんは唇を尖らせて辺りを見渡します。
ですが、一階に関してはあらかた説明を終えてしまったので、
「……あ、実はこの相談所、裏口があるよ!」
「なかったら怖いわよ」
「あぅ」
思わずどこにでもあるものを挙げてしまいます。
咲ちゃんはもうないかもしれないと半分諦めつつ、二階への階段へ向かい、
「ううーん、他に…………あ、物置部屋が地下室みたいなところに繋がってることとか」
飛び出た一言でとんでもない事実が判明しました。
なんと店の奥の奥、あらゆるものが詰め込まれた物置部屋には地下室があるようです。
「——待ちなさい。何回も待ってもらってるけど、待ちなさい。今までの中で一番驚いたんだけど、地下室って何よ。この店なんなのよ」
「お悩み相談所?」
「いや、そうじゃなくて……さっちゃんは地下室に入ったことはあるの?」
「ううん。響子さんと物置部屋に入ることはあるけど、一回しか見たことないんだよね……奥の方に、ちらっと」
「じゃあ入ってみ——いや、駄目ね。あの部屋はあの人いないと迷うもの」
「大量に物あるもんね」
二人は地下室へ興味が湧き、さっそく探索開始——と思いきや、まず始まりませんでした。
探索の為に迷子になってしまえば、今度は二人が捜索されてしまうことになりかねない、と。
「…………」
そんな魔境が店内にあるのだという恐ろしい真実を知った梅ちゃん。
由美さんのお泊り同様、彼女にとってはショックが大きいらしく、
「……戻らない?」
二階の階段を登る直前で、引き返すことを決めたのでした。
ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆
「ただいま、胡麻たん」
「——わおん!」
約十分程の長旅を終え、二人は帰還しました。
ぐったりとする梅ちゃんは胡麻たんとじゃれる咲ちゃんを見つつ、
「……元気ね」
ため息を吐きます。
どうやら梅ちゃんは店の奥、地下室にエネルギーを奪い取られてしまったようです。
「うん、楽しかったし! さくめちゃんは楽しくなかった?」
対して咲ちゃんはというと、平常運行。
きょとんとした表情で梅ちゃんに尋ねます。
「……いや、楽しかったわよ。ただ、ちょっと地下室と由美さんのことがショックだっただけで」
「そうかなぁ」
「そうよ」
感想の割に二人のテンションには天と地ほどの差があり、やがて沈黙。
そして、
「……ふふっ」
「えへへへっ」
二人は顔を見合わせて笑い合いました。
「また今度、探検しようねっ!」
「そうね。お客さんがいない時になら」
「……あ、地下室は響子さんがいる時の方がいいよね」
「いや、それはもういいわよ」
地下室に抵抗を感じる梅ちゃんがきっぱりと断り、咲ちゃんが驚いて。
二人はまた探検する約束をして、一夜を共に過ごすのでした。




