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15人目 『雨降り占い師とお犬さん』



 窓の外はしとしとと雨が降り、外出が出来ず憂鬱になってしまう昼下がり。

 相談所には一人と一匹のお客さんの姿がありました。


「むむむ……」


 一人は切りそろえられた艶やかな黒髪の女性、占い師星井ルナこと星井月子さんです。


「月子さん、何か見えた?」


「いえ、まだ見えないのですが……柔らかい何かを顔のあたりに感じるような?」


「いやそれ肉球よ肉球」


 月子さんはぎゅっと目をつぶったまま水晶に手を当てており、真似するかのように彼女へと手を伸ばす小さな気配がありました。

 肉球で月子さんの頬を持ち上げ、見た目をあまりよろしくないものへとさせる元凶、その正体は——、


「——わおん」


「あ、鳴いた」


「鳴いたわね」


 犬でした。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



 胡麻色の毛並みがココアに似ている、とやたら咲ちゃんに好評なお犬さん。

 いつの間にやらその姿は月子さんの前から消え、机の下に隠れておやすみモードへ移行していました。


「……はっ! 見えました、このお犬さんは柴犬です!」


「おおっ!」


「いや見れば分かるわよ。占いの意味ないじゃない」


 ちなみにこちらのお犬さん、月子さんが飼っているわけでも連れてきたわけでもなく、


「うぅむ……占いでは持ち主見つけられませんね……」


「見つけてあげたいなぁ」


「え、捨てられてたってあの人に聞いたわよ?」


 雨の中公園に捨てられていたところを響子さんが見つけ、連れてきた子なのです。


「ほら、あれよ。拾ってあげてくださいってやつよ。……って、あの人が言ってたわ」


「なるほど、そんな事情が……あれ、その響子ちゃんは?」


「あの人なら近所のおばあちゃんが娘に会わせたいとかでいないわよ」


「ええっ!?」


 響子さんがいないという事実に月子さんは衝撃を受け、がくりとうなだれます。

 月子さんとお犬さん、一人と一匹揃って沈黙するその様は不思議なくらいに近しい何かがありました。


「…………ねえ、さくめちゃん」


「どうしたのよ、さっちゃん」


 しかしそんな彼女たちを他所に、咲ちゃんは何かを思いついたようで、目をきらーんと輝かせて、言いました。


「————犬の名前、決めない?」



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



 かくして、咲ちゃんの提案により、拾ったお犬さんの名前を決める会が始まりました。


「じゃあフォーチュン君とかどうでしょう?」


「この子男じゃないわよ。あと呼びづらいから却下よ」


「じゃあココアちゃん!」


「占いちゃんでどうですか!」


「あんた達は自分の好きなものから離れなさいっ!」


 もちろん、毎度のことながらなかなか決まらないのですが。

 好み推しの強い二人に負けじと梅ちゃんもツッコミます。


「じゃあ響子さん二号?」


「それも呼びづらいわね」


「梅ちゃん二号?」


「……あんた達真面目に考える気あるの?」


 好み以外のものとなるとなかなか思いつかないらしく、人の名前を順に上げていく二人に梅ちゃんもため息。そこで、


「——ほら、定番があるじゃないの。ポチとか太郎とか。あとは……そうね、胡麻色だから胡麻たんとか」


 何気無く思いついた名前を挙げてみる梅ちゃん。

 すると、


「胡麻たん……可愛いね」


「ですね、悔しいことに占いちゃんよりもキュートさに溢れたネーミングセンス……っ!! 私も占い師として修行が足りないみたいですね」


 ——と、やたら二人には高評価だったので、


「あっ、そう。ふーん……そうなんだー」


 言った本人である梅ちゃんも、興味のないふりをしつつも嬉しさで照れます。


「——わおん」


 そこへ、勝手に上で名前会議を行われているお犬さんが顔を出します。

 尻尾をフリフリ、息をはっはっとさせる彼女に対し、咲ちゃんは語りかけます。


「————ココアちゃん」


「————」


 返事がありません。それどころか冷めた目をして咲ちゃんを見つめています。

 便乗するように月子さんもお犬さんを見つめつつ、


「————占いちゃん」


「————はぁ」


「ちょっと待ってください! 今この子ため息つきませんでした!? 」


 ため息のような鳴き声を漏らしましたが、それでもやはり不服なようです。

 自分の考えた名前がどちらとも不採用でショックを受ける二人。


 そりゃ当然でしょと言わんばかりの視線を向けつつ、梅ちゃんも息を呑んでお犬さんに挑みます。

 先程は二人に褒められた名前が果たして彼女に認められるのか、意を決して梅ちゃんは口を開くと——、


「……ご、胡麻たん」


「わおん! わおんわおん!」


 壊れた目覚まし時計のようにわおんとだけ吠え、全身で喜びを表現します。

 何やら隣と斜めから梅ちゃんを羨ましそうな目線が見つめますが、それはさておき。


「じゃあ、胡麻たんで決定かな?」


「うぅ、占いちゃんが残念ではありますが……」


「あんたそれまだ気にしてたのね」


 何はともあれ、目覚まし時計ちゃん改め胡麻たん。

 そう名付けられたお犬さんは返事をするかのように、


「——わおん!」


 元気よく鳴くのでした。



ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆ ミ☆ミ☆ミ☆ミ☆



「……ねえねえ、今思ったんだけどさ」


「どうしたのよ?」


 梅ちゃんと月子さんが胡麻たんに構っている光景を眺めつつ、咲ちゃんは言います。


「今こうして月子さんと胡麻たんがいるわけだけど」


「はい、占い師の星井ルナこと星井月子ですが」


「なんでキメ顔なのよ」


 咲ちゃんはそんなキメ顔の月子さんをじっと見つめると、


「月子さんは何か用事があって来たんじゃ?」


 今の今まで誰もが忘れていたことを、口にするのでした。

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