第9話 たまたまですわよね?
「なんでですのーーーーーー!!」
リーゼの叫び声が森に響き渡った。
一瞬。
全員が固まる。
「え?」
ミーナが瞬きをする。
「どうしたの?」
「何かあったか?」
カイルも周囲を見回した。
ゴードンは武器を構える。
「敵か?」
「どこですの!?」
クラリスまで警戒を始めた。
違う。
敵ではない。
問題は自分の中にあった。
【VIT+20】
どう見てもそう書いてある。
もう一度見ても変わらない。
【VIT+20】
やはり変わらない。
リーゼは引きつった笑顔を浮かべた。
「い、いえ」
「本当に?」
ミーナが心配そうに聞く。
「少し驚いただけです」
「そんなに?」
「そんなにです」
半分本当だった。
教師が近付いてくる。
「何か問題でもあったか?」
「ありません」
「本当にか?」
「ありません」
問題はある。
非常にある。
だが説明できない。
説明したところで意味が分からない。
なぜなら本人も意味が分からないからだ。
「ならいい」
教師は頷いた。
実習は続行された。
リーゼは列の後ろを歩く。
そして考える。
(落ち着きましょう)
深呼吸する。
(きっと見間違いですわ)
うん。
そうだ。
見間違いだ。
人間、疲れていれば見間違えることもある。
(もう一度確認しましょう)
確認した。
【VIT+20】
見間違いではなかった。
「なんでですの……」
小さく呟く。
「どうした?」
隣を歩いていたカイルが聞いた。
「なんでもありません」
「顔色悪いぞ」
「気のせいです」
そのまま歩く。
すると今度はクラリスが近付いてきた。
「レベルアップしましたの?」
「え?」
「光っていましたわ」
リーゼは固まる。
確かにレベルアップした。
だが。
「しました」
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
「何が上がりましたの?」
リーゼの動きが止まる。
「え?」
「普通は分かりますわよね?」
「そ、そうですわね」
分かる。
分かるのだ。
嫌というほど。
クラリスが笑顔で聞く。
「INTですの?」
「そうかもしれません」
「MP?」
「その可能性もあります」
「どちらですの?」
「秘密です」
逃げた。
全力で逃げた。
クラリスは首を傾げたが、それ以上は聞かなかった。
助かった。
本当に助かった。
その後の実習は順調だった。
薬草を見つけたり。
小動物を見たり。
森を歩いたり。
特に危険もない。
そして帰り道。
リーゼは一人で考えていた。
(たまたまですわよね?)
一回だけ。
そう。
一回だけなら間違いだ。
表示バグかもしれない。
信託の儀で文字数オーバーしたスキルなのだ。
何が起きてもおかしくない。
だから。
次にレベルアップしたら分かる。
その時にINTが上がれば問題ない。
何も問題ない。
完全解決である。
リーゼは大きく頷いた。
「よし」
「何が?」
ミーナが聞いた。
「なんでもありません」
リーゼは笑顔で答える。
そう。
次で分かる。
次で全て解決する。
もちろん。
リーゼはまだ知らなかった。
次のレベルアップが思ったより早く訪れることを。




