第32話 初めての回復魔法
霧の森の調査は順調だった。
毒蛇。
マンドラゴラ。
睡眠花。
必要な情報はかなり集まっている。
「そろそろ帰りますの?」
ミーナが聞く。
「もう少しだけ見て回ろう」
ルークが答えた。
その時だった。
ガサガサッ!
茂みが大きく揺れる。
「来ますわ!」
クラリスが叫ぶ。
飛び出してきたのは。
フォレストウルフだった。
しかも三匹。
「囲まれますわ!」
ミーナが杖を構える。
戦闘開始だった。
「ファイア!」
リーゼの火球が飛ぶ。
一匹に命中。
だが倒し切れない。
フォレストウルフが散開する。
そのうちの一匹が。
ルークへ飛び掛かった。
「ルーク!」
クラリスが叫ぶ。
そして。
シュン!
「そうですわよね」
リーゼが前へ出る。
もう驚きもしなかった。
かばう発動である。
ガブッ!
「痛いですわ」
噛まれる。
いつものことだった。
しかし。
別の一匹が回り込んだ。
今度はミーナを狙う。
「しまっ――」
シュン!
「忙しいですわね」
またリーゼだった。
全員固まる。
「今二回発動したよな?」
ルークが聞く。
「したな」
カイルが頷く。
リーゼはもう気にしなかった。
どうせ防御だ。
どうせタンクだ。
そう思っていた。
その時だった。
最後の一匹がクラリスへ飛び掛かる。
「危ない!」
ルークが叫ぶ。
シュン!
「はいはい」
リーゼが飛んだ。
完全に慣れていた。
ガブッ!
ガブッ!
ガブッ!
三匹に噛まれている。
もはや意味が分からない。
「リーゼさん!」
クラリスが叫ぶ。
魔法が飛ぶ。
ルーク達も攻撃する。
数分後。
フォレストウルフは全滅した。
「終わりましたわね」
リーゼは息を吐く。
そして。
腕を見る。
傷だらけだった。
「珍しいな」
ルークが言う。
「少し痛いですわ」
さすがに三匹同時は効いたらしい。
その時だった。
リーゼの体が光る。
「あら」
見覚えしかない光だった。
【レベルが13になりました】
全員が注目する。
リーゼは無表情だった。
【VIT+20】
「そうですの」
現在VIT245。
もう何も感じない。
そして。
次の文字が浮かぶ。
【ヒールを習得しました】
沈黙。
リーゼが固まる。
もう一度見る。
【ヒール】
変わらない。
三度見る。
【ヒール】
やはり変わらない。
「…………」
全員が見守る。
リーゼは震えていた。
「リーゼ?」
クラリスが心配そうに聞く。
リーゼは震える声で答えた。
「ヒールですわ」
沈黙。
「ヒール?」
ミーナが聞く。
「ヒールですわ」
リーゼの目に涙が浮かぶ。
「回復魔法ですわ」
さらに沈黙。
そして。
「回復魔法ですわーーーーー!!」
霧の森に歓声が響いた。
クラリス達も笑顔になる。
「おめでとうございます!」
「ついにですわ!」
「良かったな」
ルークまで笑っていた。
リーゼは急いで説明を見る。
【ヒール】
対象の傷を回復する
「対象ですわ!」
リーゼが叫ぶ。
「対象ですわ!」
大事なことなので二回言った。
「自分だけじゃありませんわ!」
「誰も言ってないぞ」
ルークが突っ込む。
だがリーゼは聞いていなかった。
初めてだった。
本当に初めてだった。
純粋な魔法スキル。
防御ではない。
回復魔法だ。
「使いますわ!」
リーゼは即座に杖を構えた。
自分の腕へ向ける。
「ヒールですわ!」
淡い光が傷を包む。
みるみる傷が消えていく。
全員が感心した。
「凄いですわ」
クラリスが言う。
「便利だな」
ルークも頷く。
リーゼは胸を張った。
「魔法使いですもの」
久しぶりだった。
本当に久しぶりだった。
その言葉を堂々と言えたのは。
しかし。
ルークがぽつりと言った。
「回復できるタンクになったな」
沈黙。
リーゼの笑顔が固まる。
そして。
ゆっくりと空を見上げた。
「……そうですわね」
全員固まる。
否定しない。
もう否定しない。
リーゼは少しだけ笑った。
「でも」
杖を握る。
「これは魔法ですわ」
その時だけは。
少し誇らしそうだった。




