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転生探偵~殺人事件よりも、俺はキスがしたい。  作者: 長月透


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転生探偵8 深い闇の中で

「すいません、まだおかわりってありますか?」

「...申し訳ありませんが、先ほどのおかわりで全部です...」

二人の会話を横目で見ながら、食後のコーヒーを口に運ぶ。特に何も起こることなく夕食の時間は進み、ダイニングには和やかな空気が流れていた。特に何も起きない、一見平和な日常。全員がその現状に違和感を覚えながらも、その違和感が続くことを祈っていた。新沼がダイニングの壁にかかっている時計を見る。

「...そろそろ十時になるし、私は部屋に戻ろうかな。流石に、明日には吹雪も収まるだろう。皆も早く寝た方が良いよ。」

俺は足早に二階に向かおうとする新沼を呼び止めた。

「ちょ、ちょっと待ってください。今一人になるのは良くないんじゃないですか?何があるか分からないですし、今夜は全員で集まって寝た方が良いと思うんですけど」

「...まぁそれはそうなんだけどね、ちょっと今夜中にやっておきたい仕事があるんだ。それに、このペンションは鍵穴式のドアだ、内側から鍵をかけて扉の前に何か置いておけば侵入される事はない。」

「でも...」

「大丈夫さ、今日一日何も起きなかったことから見ても、犯人が次の殺人を企ててるとは思えない。お嬢さん方も、男共と一夜を過ごすのは嫌だろう。三人で風呂に入って、ゆっくり休むのが安全だと思うよ。」

確かに女性陣に関していえば、三人で同じ部屋にいるのが一番安全かもしれない。それに、三人の様子を見るに、昨日から風呂にすら入っていないのだろう。坂本さんはともかく、他の二人はメイクもしていないし、服装も初日からまったく変わっていない。突然宿泊日数が伸びたのだから当然といえば当然なのだが。

「もし黒野君が心配なら、同じ部屋で寝るかい?」

...それだけは勘弁だ。こいつと同じ部屋で一夜を過ごすなんて考えたくない。コソコソと女性陣が会話をするのが聞こえる。見かねた佐藤が話し出す。

「分かりました...そうしましたら、今夜は各自の部屋で睡眠を取るということにしましょう。ただ、部屋の鍵だけはどうかしっかりと確認してから寝るようお願いします。新沼さんの言う通り、扉の前に何か置いておくのも良いかもしれません。くれぐれも、気を付けるようお願いします。」

俺はその決定に不満があったが、それを言うよりも早く新沼が二階に上がって行ってしまった。結局、そのまま解散となり、女性陣も二階へと上がっていった。

「さっきまでは理想的な登場人物達だったのに...」

嘆いていてもしょうがない、俺は佐藤さんが自室に戻ったのを確認して、一人リビングに向かった。こうなってしまった以上、こちらとしても対策をする必要がある。金庫の前に座り込み、その構造をよく観察する。先ほど新沼は部屋に侵入される可能性は無いとしたが、それはこのマスターキーが動かされなければの話だ。俺は金庫が動かされたらすぐに気づけるよう、金庫の向き、角度まで細かく記憶した後、金庫の開閉部分の間に自分の髪を押し込んだ。若干の心もとなさはあるが、金庫が開かれたかどうかくらいの判断はできるだろう。

「後は...」

俺はダイニングに向かい、インスタントのコーヒーを一杯飲みほした。もしも犯人にまだ殺人をする気があるのなら、行動するのは深夜のはずだ。可能な限り起きて、犯人の手がかりを掴む。今できることはそれくらいだ、もしかしたら、犯人を現行犯で捕まえることだって出来るかもしれない。しかし問題なのは、どこで待つかということだ。一階で待つか、自室で待つか、俺は頭を悩ませる。もしも犯人が見境なく人を殺すタイプだった場合、次に狙われるのはおそらく佐藤だろう。ペンションの構造上、二階で殺人を犯すのはリスクが高い。何しろ部屋が隣り合っている。少しでも扉を無理やり開けようとしたり物音を立てれば隣部屋の人間が気づくだろう。そういった観点から、一階で待つのが犯人を捕まえるという点で言えば良いはずである。ただ、自分が襲われるという可能性を排除すれば、の話だ。暗闇で、おそらく武器をもっているであろう犯人と対面する可能性がある一階で待つのは危険性が高い。迷ったのち、結局二階で待つことにした。坂本さんも言っていたが、このペンションは壁が薄い。二階で待っていても、耳を凝らせば一階の音が聞こえるはずだ。そう決めた俺は階段へと向かう。二階に上がる途中、ダイニングにある時計を見る。時刻は二十二時半。今夜が勝負だ、そう自分を鼓舞して階段を上った。自室に戻ると、まずは扉に鍵をかけ、バリケードになりそうな物を探した。一瞬化粧台を動かして扉の前に置こうと思ったが、力を入れた瞬間、無理だと悟った。そこで、侵入を完全に防げるバリケードではなく、侵入されたときに気づけるバリケードに切り替えることとした。音の鳴りそうなものは無いかと辺りを探していると、時代に反して、金属製のやかんが置いてあるのを発見した。これは使えそうだ、そう思った俺はやかんの持ち手にスマホの充電ケーブルを巻き付け、反対側をドアノブに巻き付けた。化粧台の椅子を持ってきて、その上に食器やグラスを積み、その上にやかんを置く。後は充電ケーブルの限界までやかんとドアノブの距離を離す。どれだけ犯人がゆっくり部屋に侵入しようとも、扉が開かれた段階でやかんは下へと落ち、それに連動して不安定に積み上げられた食器も落ちるような仕組みだ。簡易なものだが、侵入に気づくという点ではこれ以上のバリケードは無い。バリケードを作り終えた俺は備え付けの浴室で軽くシャワーを済ませ、ベッドに腰かけた...が、横になると直ぐに寝てしまいそうに感じられたので、可能な限り体を起こして待つことにした。部屋の中は静寂に包まれており、雪が窓に当たる音がよく聞こえる。夜空を見上げると、ペンションでの殺人事件など知る由もなく、月と星々が光り輝いている。その光が氷の結晶を照らし、なんとも幻想的な光景を作り出していた。ずっとその光景を眺めていたかったが、それでは監視の意味がない。俺は部屋の扉の前にもう一つ椅子を持っていき腰を下ろした。ここなら誰かが扉を開けたり、階段を下りた音に気づけるはずだ。

「ふわぁぁあ」

既に日付は変わっており、眠気もピークだった。瞼の重さを感じながら、じっと扉の前で待つ。一時間、二時間、そして三時間。自分が起きているのか、寝ているのか分からない状況が続く。ーーゴトッ、かすかな音と同時に、俺の意識は一気に現実へと引き戻された。...聞き間違えか?いや、そんなはずはない。間違いなく今、音が鳴った。そして音の発生地は、一階だった。佐藤さんが起きてきたのか?それとも俺が気づかなかっただけで誰かが一階に?...分からない、だが、チャンスだ。一階に間違いなく誰かいる。そしてそこに居るのは...俺はドアノブに括り付けておいた充電コードを外し、外に出る準備をする。犯人と鉢合わせしたときの為に何か武器になるものを持っていきたかったが、もし犯人に逃げられ俺が武器を持っている所を誰かに目撃されれば誤解されるに違いない。叫びをあげる準備をし、スマホのライトだけを点けて扉を開ける。うっ...思わず声が漏れる。階段の方に向けて、無限のように感じられる暗黒、右の窓から差し込む月明かりが、俺の影を階段の方へと伸ばしていた。自分の鼓動が感じられるほどの静寂。犯人を捕まえると息巻いて出てきたは良いが、早くも心が折れそうだった。他の人を起こすべきか...?いや駄目だ、その間に一階にいる人物に逃げられるかも知れない。それに、一階にいるだけではまだ犯人と確定させることが出来ない。犯人からすれば、他の人を起こしている間に証拠を隠し、俺と同じように物音がしたから一階に見に来たと言ってしまえばいい。そうすれば、疑われるだけで済む。勇気を振り絞り、階段の方へ一歩ずつ向かう。さきほどの物音以降、一階からは物音一つしなくなっていた。階段の前に立ち、下を覗き込む。二階よりもさらに暗い。スマホのライトの強さを最大にし、一歩ずつ階段を下りていく。ギシ...階段が軋む。音を立てないよう、慎重に足を動かして前に進む。一階に着くと、窓から月明かりがダイニングを照らしている。俺は見逃しが無いよう、キッチン、ダイニングの机の下と見て回ったが、特に誰か隠れている様子は無かった。あと犯人が隠れていそうな場所とすれば、洗面所とリビング、そして佐藤の部屋だ。俺はまず、洗面所から確認することにした。前回の殺人現場が洗面所だった事、そしてリビングから見た場合、洗面所に居た犯人がそのまま階段を上って行ってしまう可能性があるからだ。洗面所の方へと向かって歩を進める。途中、左の通路の方にライトを向けたが、特に誰かいる様子は無い。洗面所の前に立ち、ドアノブに手を掛ける。洗面所の正面にあるリビングにつながる扉から背後を取られないよう、後ろを確認しながら中に入る。彼と目が合うのは、これで三度目だ。ライトに照らされた、光の無い瞳。ーー落ち着け、そう自分に言い聞かせ、トイレ、そして浴室の中を確認する。その間も常に背後の警戒は欠かさなかった。階段の方へは誰も向かっていない。一通り洗面所内部を調べたが、特に何も変化は無かった。ーーーカサッ。また音がした、リビングの方から。俺は洗面所を出て正面の扉を見つめる。この先に、誰かがいる。震える手を抑えながら、ドアノブに手を掛ける。すりガラスに映った自分に驚きながら、ゆっくりと扉を押し開ける。いきなり誰かがとびかかってくる想定もしていたが、リビングの中には一見誰も居なかった。ライトの光を一周させる。古めのテレビ、暖炉、ソファー、そして、マスターキーの保管されている金庫。周りに警戒しながら、金庫へ近づく。夕食後に見たのと全く同じ場所、角度、そして、間に挟まった髪の毛。それらがこの金庫に誰も触れていないことを表していた。あと調べていないのは、佐藤さんの部屋だけだ。リビングのもう一つの扉を抜け、部屋の前まで行く。この中で何か起こっているのか?扉に耳を当てて中の様子を探ろうとしたが、何も聞こえなかった。俺の気のせいだったのか?神経質になっている状況だ、聞こえるはずのない音が聞こえても不思議ではない。しかし...あの音は確実に...。その時、目の前が急に暗くなった。慌ててスマホに目を落とす。充電マークが、点滅している。充電ケーブルをバリケードに使っていたため気づかなかった。光を失った俺は、誰かが起きるかもとすら考えず、急いで階段の方へと向かった。今にも殺人鬼が飛び出してきそうな暗闇を駆け抜け、二階に上がる。

「はぁっ、はぁ!」

部屋に体を滑り込ませ、鍵をかける。乱れた呼吸を整えながら、スマホの充電ケーブルを手に取りコンセントに繋いだ。液晶についた水を見て、自分が滝のように汗をかいていることに気づく。

「死ぬかと思った...」

人生で一番といっていいほどの恐怖だったが、手に入れた情報は有益とは言えない、金庫が動かされていないことが確認できただけだ。時刻は四時を回っている。俺は椅子を扉の前に置き、監視を続けようとした...が、一気に緊張が解けたせいだろうか、耐えがたい睡魔が意識を深く引きずり込んだ。




ーーーギシッ。

ーーーーーーーーギシッ。



深い眠りの中で、その音だけが、やけに鮮明に響いた。

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