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転生探偵~殺人事件よりも、俺はキスがしたい。  作者: 長月透


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転生探偵14 悪意

挿絵(By みてみん)

こちらを振り返ることもなく、新沼は話し始める。

「彼女が人を殺したのは僕のせいだって?何を言っているのかさっぱり分からないな。どういう考えでその結論に至ったんだい?」

「...何から説明すればいいか、僕にも分かりません。だから、最初から行きたいと思います。なぜ、斎藤さんは森田を殺さなくてはいけなかったのか。」

「...続けて」

「森田は、最初の夜、とあるものを発見したんです。そして、それが原因で殺されることになった。」

「...」

「森田は、見つけたんです。記事を。」

初日の夜、酒を飲んで酔いつぶれた新沼を部屋に運ぶため、森田が担いで部屋まで送った。おそらく、その時見たのだ。新沼が佐藤を脅すために用意していた記事を。

「あくまでこれは僕の仮説です。間違っている所があったら教えてください。」

「...そう言われて教える人間が居ると思うかい?...でもまぁ、そうだな、黒野君、スマホをこっちに渡しなさい。そうしたら、答えてやる。」

新沼は俺のスマホの電源を落とし、話の続きを促した。

「そこまでは合っているよ。続けて。」

「森田は正義感の強いやつでした。記事を見つけて、見て見ぬふりをするような人間じゃない。だから、決めたんです。記事を保管することを。」

あの瞬間に記事を読んで、内容の真偽を確認することなど出来ない。

「そうして彼は、スマホで記事の写真を撮った。」

「…続けて」

初日の夜、部屋に戻った後も森田はスマホを眺めていた。あれは単にネットを使っていたんじゃない、読んでいたんだ、記事を。

「内容を確認した森田は、その記事がでたらめであることを確信した。」

新沼の様子を伺う。彼は先ほどと全く同じペースで歩き続けている。

「正義感の強い森田は翌日、あなたに記事の内容を問い詰めた。」

「…あぁ、迂闊だったよ。まさかあんなにも面倒臭い奴だったとはな。朝早くから部屋に訪ねてきたから何かと思えば、開口一番、この記事を撤回しろ!だとさ。笑っちまうよな。」

新沼の空気が変わる。だが、その自然さが、今の彼がありのままの姿である事を示していた。

「本当なら朝の早い時間にあの爺さんを脅してとんずらするつもりだったが、あのガキがいたからな。お前らが帰ってから脅そうと思ってたよ」

二日目、新沼の帰宅が遅れたのは酔っ払っていたせいじゃない。森田がいたから、下手に動けなかったのだ。朝食の時、やけに新沼と目があったのを思い出す。あれは俺を見ていたんじゃない、すぐ隣に座っている森田を監視していたのだ。

「…続けますね。雪崩によって帰れなくなった後、あなたは完全に佐藤さんを脅す機会を失った。帰れない状況で佐藤さんを脅せば、追い詰められた佐藤さんによって殺される可能性だってあったからです。」

「ああ、そうだ。俺は完全にタイミングを失ったよ。しかもあのガキ、一日中俺に付き纏いやがって」

二日目の森田は、筋肉痛を理由にして外の探索には向かわなかった。だがその理由は嘘だ。本当の目的は、新沼を問い詰め、監視する事。

「あのガキ、浴室で俺の事を突き飛ばしやがった。あの時お前がこなけりゃ、そのままぶん殴ってたよ」

「しかし、森田の行動は効果的だった。結局、あなたは佐藤さんを脅すこともできず、そのまま一日は終わった。」

「そして翌日、森田は死体となって発見された。」

先ほどよりも雪が強くなり、氷の結晶が顔を掠める。

「あなたは死体を見た時、斎藤さんが犯人だと確信したんですね。」

「...まだその段階では、確信ってほどじゃない。まぁ、八割方斎藤の仕業だろうと察しがついたのは事実だけどな。」

森田は、記事の事を知っても誰かに言いふらすような人間ではなかった。事実、親友である俺に対しても一切記事については話さなかった。

「でも、それならまず俺を疑うだろう。記事についてしつこく付きまとわれたからカッとなって殺した、っていうのが一番可能性が高い。」

「確かに最初はあなたが森田を殺したんだと思いました。でも、それだと不可解な点がいくつかあったんです。」

目を大きく見開いて、水浸しで放置されている森田。

「死体の傍には、スマホがあった。僕の仮説が正しければ、森田のスマホの中には記事が入っている。あなたが犯人なら何としてでも処理したかったでしょう。でもあなたは、復旧の可能性があるといってそれを金庫に保管することを提案した。」

犯人が自分にたどり着く証拠をわざわざ安全なところに保管する、そんな馬鹿な事はありえない。

「その上あなたは現場の調査や、凶器の探索に積極的に協力していた。いや、協力しているように見せた。可能性はゼロではありませんでしたが、あなたが犯人である可能性は限りなく低かった。」

「だから俺は考えたんです、あなた以外に森田に敵意を持つ可能性がある人物を。そして一つ、思い当たる出来事があったのを思い出したんです。

初日の夜の事がもう一度鮮明に思い出される。

「申し訳ないのですが、どなたか新沼さんの部屋に水だけ持って行ってもらってもよろしいですか?」

「あ、じゃあ私持っていきます。」

思い出される、佐藤と斎藤の会話。

「斎藤さんは、あなたの部屋に入る機会があった。彼女も、記事を見たんですね。」

「...あぁ、驚いたよ、酔いが覚めたと思ったらあいつが記事を凝視してたからな。ただ、あのバカ女はどうやら勘違いしちまったらしい」

これだ、これが、斎藤が過ちを起こしてしまった、大きな原因。

「今思えばあいつ、俺が森田に突き飛ばされた時も俺の心配をしてた。大方、俺の事を真実を暴くジャーナリストだとでも思ったんだろう。」

【スクープ】不可解な死亡事故!雪に埋もれた謎に迫るーー見出しを見ただけの彼女にとっては、この記事は信じるに値するものだったんだろう、それもーー

「あの女とは一日目から何かと話す機会が多かったからな、それなりに楽しく会話してやったのが効いたんだろう。森田の野郎の事を、真実を暴くジャーナリストの邪魔をしている小悪党だとでも思ったのか、俺に対して「応援してます」だとよ。馬鹿にもほどがあるぜ」

俺が坂本さんと仲良くなろうと試行錯誤しているとき、斎藤と新沼は会話をし、料理をともに作り、仲を深めていった。思い返せば二人は、同じ場所にいる事が多かった。補完ーーその言葉が、脳内によぎる。二人の時間が増えれば、会話をする。会話をすれば、仲は深まる。主人公とヒロインだけでなく、登場人物と登場人物の関係性だって変化するのだ。

「だから森田が殺されたとき、ある程度の予想ができたんですね。でも、俺には一つだけ分からない事があるんです。どうしてその時、斎藤さんが怪しいって言わなかったんですか。あなたは人を庇うような人間ではないでしょう。スマホに記事があるなら、まず疑われるのはあなただったはずだ。潔白を証明したいとは思わなかったんですか」

「人を庇うような人間じゃないって?随分決めつけの激しい探偵さんだな。でもまあ、その通りだ。俺はあの女を庇うつもりなんて無かった。」

「ならどうして...」

「馬鹿か、そっちの方が書けるだろ?面白い記事が」

ーーーあぁ、やっぱりこいつは聖人なんかでは無い。

「雪山のペンションで起こった殺人事件?偶然居合わせたジャーナリスト?これ以上ないほどに書きやすく、そして面白い記事になると思ったよ。そして...」

「もう一件くらい、殺人事件が起きれば更にいい、そうだろう?」

「...だから斎藤さんを追い詰めたんですね。ありとあらゆる手を使って。」

水没したスマホでも、今の技術ならすぐに復旧できる、その言葉を聞いた斎藤は、どう思っただろうか。証拠を隠滅するためにわざわざ事故の可能性を消してまで水没させたスマホ。その中から記事が発見されれば、事件と関係性があると判断されるのは避けられないだろう。そうなれば新沼にもあらぬ疑いが掛かってしまう、そう考えるはずだ。加えて、新沼が事件への関与を否定し、同じく部屋の記事を見た斎藤の名前を挙げれば、斎藤に疑いが向くのは容易に想像できる。

「追い詰められた斎藤さんは、すぐに決断をした。誰かに罪を擦り付けることを。」

「見た感じ、森田を殺しちまったのは半分事故みたいなもんだったんだろうな。察するに、俺の妨害をするのをやめろ、とでも森田に言ったんだろう。そして、口論の最中もみ合いになって森田を突き飛ばした。あの女も馬鹿だぜ、今どき証拠を残さずに殺人をするなんて不可能なんだから、大人しく罪を認めれば良かったんだ。そうすりゃ、情状酌量の余地くらいはあっただろう...でも、あいつはそうは思わなかった。証拠が消せないなら、もっと明確な証拠を誰かに擦り付けようと考えたんだ。」

「斎藤さんは次に、誰に罪を擦り付けるべきかを考えた。そこで、思いついたんです。」

死体が発見された後、俺らは一度部屋に戻った。でも、考えてもみれば深夜に部屋に鍵を掛けずに一階に降りてくるなんてありえない。なのに俺は特に何も気にすることなく、一直線に自室に戻った。そこで斎藤は、俺たちの部屋だけ鍵が二つあることに気づいた。

「斎藤さんは、皆が一度部屋に戻っている隙に洗面所に忍び込み、自室の部屋の鍵と入れ替えた。」

「あぁ、その時だな、俺が確信したのは。こそこそと洗面所に入っていくのを見て、やっぱりこいつが犯人だってな。誰が犯人かさえ分かっちまえば、そいつが何をしに洗面所に入ったかはちょっと考えれば分かる。」

「…そしてその後、俺を呼んで鍵の保管を提案したんですね。彼女が部屋に戻れなくなるようにするために」

雪が一段と強くなり、視界が白く霞む。新沼は後ろを一度振り返り、後ろの三人にも聞こえるよう声を張り上げた。


「すこしペースを上げよう。」









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