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転生探偵~殺人事件よりも、俺はキスがしたい。  作者: 長月透


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転生探偵12 犯人

挿絵(By みてみん)

「そっちのランタンは黒野君に渡しておくからそれを使ってくれ。もう一つの方は僕が持っておこう、皆、くれぐれも気を付けて準備をするんだ、いいね?」

リビングには希望と不安の混じった空気が流れていた。

「やっと帰れる...!」

白石は今にも走り出しそうな様子だった。

「安心するのはまだ早いよ。下山している途中でまた雪が強くなる可能性だってあるからね。とりあえず、早く準備をしよう。」

まだ昼前とはいえ、電気が通らなくなったことで室内はかなり暗い。明るさ確保の為に暖炉を点けても、ギリギリ人の顔が判別できるくらいの明るさだ。二階はより一層暗いだろう。

「スマホのライトを使ってもいいけど、もし下山中に遭難したらスマホのGPS機能が必要になる。なるべく温存しておいた方が良いよ。それに、もし雪が強くなってこのペンションに戻ってきた時に電気が復旧しているとは限らないからね、もし電波が復旧しても連絡できないんじゃ意味がない。」

「分かりましたから!早く準備しましょうよ!ゆっくり準備して雪が強くなっちゃったら元も子もないですよ!」

「分かった分かった、僕も絶対に持って帰らないといけない仕事道具があるからね。最低限の荷物だけ持って、後で一階に集合しよう。」

そういって新沼はランタンを掲げながら二階に向かって歩き出し、白石もそれに付いていった。

「...二人はどうしますか?一旦部屋に戻りますか?」

俺は後ろの二人に声をかける。

「...私は特に。ダウンは玄関に置いてありますし、部屋に置いてって困るものは...あ、財布くらいですかね?里香ちゃんは?」

「私も別に、置いていって困るものは特にないです。」

「そうですか...」

ふと斎藤の方を見て、とあることに気づく。

「あれ、そのジャケット...新沼さんに返さなくても大丈夫なんですか?」

「あ、はい。返そうと思ったんですけど、新沼さんが他にも服はあるから返さなくていいって。それに、私もそんなに服があるわけじゃなかったので...」

何なんだ、この違和感は。一日目からずっと、悪人であるはずの新沼が聖人のような行動を取っている。まるで、人が変わったかのように。

「あ、やっぱり財布は取りに行きたいかもです。中にいろいろ入っているので。」

坂本さんの意見もあり、俺たちも二階に上がることになった。俺としても、一度自室に戻り考えたいことが多くあったため丁度良かった。二階に上がると、ちょうど新沼が荷物の整理を終えて部屋から出てくるところだった。最低限、とは言えないほどバッグが膨らんでいる。

「あぁ、黒野君たちか、僕は準備が終わったから先に一階に降りているね...っっと!」

廊下のでっぱりで躓いた新沼が、バッグの中身をまき散らしながら前に倒れる。

「大丈夫ですか!?」

俺はそう声をかけ、ランタンを置いて廊下に散らばった書類を拾い上げる。その書類に書かれた文字を見たとき、俺はそれが何なのか理解した。

「【スクープ】不可解な死亡事故!雪に埋もれた謎に迫る」

赤い文字で書かれた、読者の好奇心を煽るような見出し。これは...

「拾ってくれてありがとう!後は自分でやるから大丈夫だ!」

そういって彼は俺の手から書類を奪い取る。その時、繋がった。俺の中で一つの、妄想とも取れる仮説が形作られているのを感じた。自室に戻る直前、後ろを振り返る。斎藤が新沼の手伝いをしようとし、新沼がそれを強く制止している。バタンーー部屋に戻り、扉の鍵を閉める。あの記事、間違いなく佐藤を脅すために用意されていたものだ。俺は、当たり前のことに気づいていなかった。記事なのだから、記事があるのだ。だから犯人は、森田の死体を濡らし、証拠を隠滅しようとした。犯人は、間違えたんだ。いや、騙されたんだ。それができたのは...初日から現在に至るまでの事柄を思い出していく。時間のことなど忘れて、それを見つけ出した。

「あの時だ...」

あの時、あの時からこの物語は始まっていた!いや、ずれていた!

「でも、だとしたらなぜ...」

森田の死、濡れた死体、沈没したスマホ、マスターキー、深夜に聞こえた謎の音、佐藤の死、スクープ記事、そして、新沼の違和感。

「そうか...だからあいつは...」

手元には、鍵がある。103という、ストラップがつけられた鍵が。

「犯人は...犯人は」

その時、廊下から新沼の大声が響いた。

「火事だ!!!皆、一階に降りてきてくれ!!!早く!!!」

その言葉の意味を理解するのに一瞬の間があった。...火事…火事!?このタイミングで!?勢いよく部屋から飛び出し、階段に向かって歩き出す。足元が暗い。俺はスマホのライトをつけて進行方向を照らした。

「新沼さん!大丈夫ですか!?」

呼びかけると、新沼が洗面所の方から顔を覗かせた。

「黒野くんか!リビングで火事だ、どうやら暖炉から引火したらしい!!皆を連れて早く避難してくれ!」

新沼は洗面所の浴槽に張られた水をバケツでくみ出し、リビングの中へと入っていく。

「どうしたんですか!?」

背後から声を掛けられ振り返る。坂本さんと白石が二階から降りてくるところだった。

やっぱりーーーやっぱりそうだ。

「リビングで火事が起きたらしいんです、暖炉の火が引火して...」

「皆、早く避難してくれ!火事はこっちで何とかするから!」

「じゃあ私も...」

坂本さんが洗面所の方へと歩き出す。

「いや、大丈夫だ!一人で十分!いいから避難してくれ!」

このペンションは小さい。人数が増えればかえって鎮火にてこずる可能性があった。

「このペンションは木造だけど、まったく火事対策がされてないってわけじゃない!しっかりと鎮火すれば大丈夫だ!」

新沼の言葉を信じ、玄関に向かって走り出す。途中、リビングに繋がる扉から中を覗くと、確かに暖炉から火が伸びている。バシャアン!ーーバケツの水がその火に向かって打ち付けられる。新沼の言う通り、火はそれ以上広がる様子はなかった。この火事は偶然起きたものなのだろうか。いや違う。これは犯人が起こしたものだ。その目的はーー

「そういえば、里香ちゃんは...?」

嫌な予感が頭をよぎる。白石が付け加えるように言う。

「もう外に出てるんじゃないですか?部屋にも戻ってこなかったですし...」

「うぅ...」

どこからともなく聞こえるうめき声。

「里香ちゃん...?」

気づいたときには、全員が走りだしていた。玄関を抜け、外に出る。日の光に照らされた氷の結晶が、美しく輝いている。その結晶を纏うかのように、玄関を出た左側、積もった雪を背にして、斎藤が倒れていた。

「里香ちゃん!!」

雪に足を取られながら、彼女のもとへ駆け寄る。やっぱりそうだ。

「大丈夫!?何があったの??」

赤に染まっている雪。頭を押さえる斎藤。それが、彼女に何が起こったのかを表していた。

「誰に...誰にやられたの!?」

斎藤は苦悶に満ちた表情で、軽く腕を上げ、犯人を指し示した。

驚愕の表情を浮かべ、二人は犯人に視線を向ける。


「...黒野、さん...?」





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