第22話 残虐慎重将軍との戦い
「ノアール、僕が失敗したら迷わず逃げてください。アイリーンさん、お嬢様をお願いします」
まだ、日も昇り前の朝早く、カイルは防具一つつけず、村人と同じような普段着を身につけて、ノアールとアイリーンに声をかけた。
「カイル、無理しちゃ駄目よ。危なくなったら逃げてね」
金属の鎧を身につけたノアールがカイルの手を握り、二人は目を見合わせる。
その二人の仲を裂くようにアイリーンが声をかけた。
「二人とも申し訳ありませんが時間がありません。それでは皆さん、作戦通りにお願いします。カイル、半日は持たせる。任せたぞ」
アイリーン達は森の入り口に柵をもうけてノラリス軍を足止めをしたのち、森からの遠距離攻撃でノラリス軍を迎撃する手はずとなっている。
カイルはコンバットスーツを身につけると、森を大きく迂回してノラリス将軍がいる陣営近くに隠れる。
ネーラの事前の諜報活動で、ノラリス将軍が森の入り口が見やすい丘の上に陣取っていることは分かっていた。
日が昇り、あたりが明るくなるとノラリス軍の第一陣が森へ侵入しようと試み始めた。
アイリーンの号令の元、無数の弓矢がノラリス兵に襲いかかる。
ノラリス兵も弓での攻撃を予想をしていたのだろう、盾で矢を防ぎながら進軍を続けていた。
犠牲を出しながらも柵とりつくノラリス兵を、なおも矢で応戦するアイリーン兵。
盾に守られたノラリス工作兵が柵を取り崩し始めた。
その間も雨のような矢を降り注ぐアイリーン達。
負傷者を後ろに下げながら、ノラリス兵はとうとう柵を取り崩したのだった。
森の街道になだれ込むノラリス兵。
「今だ、撃て!」
森の中から巨大な木の杭がノラリス兵をなぎ倒しながら現れて、森の外の兵までなぎ倒した。
巨大な木を使用したカタパルト砲。
街道に侵入して一直線となる状態だったからこそ最大限に威力を発する兵器。
「騎士団! 前! 次弾装填!」
アイリーンは騎士団を率いて崩れたノラリス陣営に切り込む。
その状況を見ていた一人の将軍が、丘の上から指示を出し始めた。
肌が一切見えない全身を厚い鎧に身を包んだ、身長二メートルほどある大きな男。
彼こそが残虐慎重将軍ノラリスだった。
あらゆる攻撃魔法と攻撃を防ぐ魔法の鎧に身を包み、慎重な戦術で容赦ない攻撃を仕掛ける。
本人も剣術の腕も、免許皆伝級であるクーリエ領の大将軍。
状況を見極めて、次々に指示を出すノラリス将軍。
その彼に後ろからそっと近づくカイル。
次のカタパルト砲を発射させまいと森に押し入ろうとするノラリス兵。
それを押しとどめようとするアイリーン兵。
「何奴!」
兵の指揮をしていたノラリスが、突然に自分の背後へ剣を振るう。
カイルは盾で受け止めながら、姿を現した。サラマンディーネと同様にコンバットスーツの機能で透明になっていたカイルが、ノラリスに接近していたのだった。
「ノラリス将軍、兵を引いてくれませんか? あなたの負けです」
「たかだかネズミ一匹懐に入ったからと言って何が変わる。たかだか男爵領の兵士が、この鎧と剣術を持つワシに刃向かうとは良い度胸だ。切り刻んで奴らの前に晒してくれようぞ」
「駄目ですか。残念です」
カイルは両腕をノラリスに向ける。
魔王城でベレートに向かって放った一撃。バスターキャノンの構えだった。
「何をしようと、あらゆる攻撃は鎧が防ぐ!!!」
魔法の鎧に絶対の自信のあるノラリスは、カイルの大技を受けきった上で、絶望の中カイルを殺すつもりだ。
そのためどんな攻撃が来ようと防ぎきるように防御の構えを取った。
「着脱!」
ノラリスの魔法の鎧は一瞬で全て外れ、真っ黒な髪に目つきの鋭い男がそこにいた。
攻撃魔法は防ぐが、鎧の装着や着脱のスキルは攻撃魔法ではない。
そのため、カイルがマーキングした鎧はあっさりと脱げてしまったのだった。
そんな事情を知らない鍛え抜かれた筋肉は、何が起こったか理解できずに慌てていた。
「ちょっと、まった! 誰か! 予備の鎧を、予備の予備の鎧でも良いぞ! 誰か~」
それが残虐慎重将軍と言われたノラリスの最後の言葉だった。