第21話 開戦準備とカイルの決意
「どうでしたか? ネーラさん」
執務室でアイリーンは地図とにらめっこをしながら、元魔王軍諜報部のネーラに状況を確認する。
ネーラはいつになく真面目な顔で地図を指さした。
「現在、ここでキャンプを張ってるニャ。兵数はおよそ二万ニャ」
「二万人! 間違いないのか!?」
「時間がなかったから、正確じゃないニャ。ただ、一万五千以上は確実にいるニャ」
ネーラの言葉が正しいならば、クーリエ伯爵騎士団のほとんどの戦力が来ていると言うことになる。
それに対して、アイリーン率いる騎士団は千五百人ほどしかいない。つまりは十倍以上の戦力。
戦術でどうにかなるレベルではなかった。
「ちなみに、誰が率いていましたか?」
「ノラリス将軍ニャ」
「……終わったな」
「そうだニャ」
ノラリス将軍。
別名、残虐慎重将軍。
徹底して相手よりも多い兵力で、慎重な戦い方をする。そして、敵に対しては容赦ない戦いぶりから付いたあだ名だ。
いつも本人は軍の奥深くに陣取り、攻撃魔法の効かない魔法の鎧に身を包み、兵の指揮を取っている。
だからといって、ノラリス将軍自身が戦えないわけではない。
慎重な彼が、自分自身で戦う場面を想定していないわけがなかった。そのため、その魔法の鎧は身につけている物以外に予備がひとつ、予備の予備も用意していた。
十倍の兵力に加えて、有能な指揮官。つけいる隙が見いだせない上、アイリーン達は迎え撃つ準備に使える時間も限られていた。
「迎え撃つならば、ここしかないだろう」
アイリーンは森を指さした。
ノラリス軍がオーデリィ男爵家領に入るためには必ず通らなければならない森。
森の中には街道が整備されているが、道は大きくない。
少数で迎え撃つならばここしかない。
森を抜けられると、あとは開けた平地のみである。数に物を言わせて取り囲まれてしまっては全滅をするしかなかった。
「ねえ、アイリーン。ノラリスがいなくなればどうにか出来る?」
「……分かりません。しかし、指揮官のいなくなった兵は案外もろい物です。特にノラリス将軍はあまりにも強いため、他のめぼしい指揮官はいないでしょう。ノラリス将軍が排除出来れば、その混乱に乗じて、五分の戦いに持ち込めるかも知れません」
アイリーンは眉間に皺を寄せながら、ノアールに説明する。
「それでも五分なのね。厳しいわね。ちなみに、土の勇者が復帰して、軍に加わっていると言うことはないわよね」
「それらしい姿は見えなかったニャ。そもそも、土の勇者はカイルに再起不能にされたんだニャ」
「万が一の事を考えておかないとね」
ノアールがネーラに対して普通に話していた。それが今回の事の深刻さを物語っていると、カイルは感じていた。
「ぼ、僕が先頭を切って、ノラリス軍を攻めるというのはどうでしょうか?」
カイルは従者から勇者になって初めて、自分から戦闘に参加すると申し出た。
「それは駄目よ。さすがのカイルも、途中で体力切れを起こすわ。何か他の手を考えないとね」
ノアールはカイルの心配をするように、提案を却下した。
そしてアイリーンはネーラに話しかける。。
「魔王軍から援軍は見込めないのですか?」
「さすがに時間がないニャ。ワイバーンは返しちゃったので、魔王城に行った頃には、すでに戦い終わっちゃうニャ」
「やっぱり、そうですよね。私たちでも準備が間に合わないのに、魔王軍がそんなにすぐ準備が出来るとは思えないですよね」
手詰まり感が、会議場を満たす。
その空気を切り裂いたのはカイルだった。
「どちらにしても、ノラリス将軍をどうにかしないと手詰まりなんですよね。僕がノラリス将軍をどうにかします。その間、なんとか持ちこたえてください。そのあと、戦線に加わりますから」
「……なにか、策があるの?」
ノアールは心配そうにカイルをみる。
「はい。任せてください」
「……分かったわ。じゃあ、アイリーン、この兵力差をどうにかするわよ。ノラリスが倒された混乱を使うしかないわね。とりあえず、アイリーンは時間稼ぎが出来る方法を考えてちょうだい」
「分かりました」
「ネーラ、ちょっとおいで」
「な、なんニャ。ノアールがあたいの名前を呼ぶなんて、気持ち悪いニャ」
「あんた、情報収集課だったんでしょう。クーリエ領の事をちょっと教えなさい。そうすればお漏らし猫からネーラに格上げしてあげるから」
「本当ニャ! 分かったニャ。あたいが知る限りの事を話すニャ」
こうしてカイル達は少ない時間で、ノラリス軍を迎え撃つ準備をしたのだった。




