235 あの歌
「じゃあ、メインディッシュね。琥珀ちゃん」
「はい。あっくん、少し待っててね」
そう言って母さんと琥珀がキッチンに向かう。それを父さんを見送ると父さんはくすりと笑って言った。
「暁斗、ここ数年で一番楽しそうだね」
「そうかな?」
「うん、少し安心したよ。暁斗は誕生日忘れてるし興味も執着も薄いからね」
「……別にそんな事はないよ。生んでくれたことにも育ててくれてることにも感謝してる」
それは本当だ。でもあまり自分の誕生日に執着というのもがわかないのも事実ではある。嫌な訳ではなく単純に忘れる。こればっかりは自分への関心のなさもあるのかもしれないが、琥珀から誕生日を祝われるのは本当に嬉しい。
「心のないロボットに心が芽生えたみたいに、暁斗にとって琥珀ちゃんが心を取り戻させてくれてるのかもね」
「あー、それはあるかもね」
前の俺は失ってからの虚無が半端なかった。全てどうでもよくて本当に世界が全て憎くなってた。琥珀のお陰だな。
「琥珀ちゃん、この日のために頑張ってたから後で労ってね」
「当たり前だよ」
「それと誕生日おめでとう」
「うん、ありがとう」
そうこうしていると、ケーキを持った琥珀が母さんと一緒に戻ってくる。めちゃくちゃ慎重な足取りの琥珀だか、ある種の琥珀への直感で分かった。これは転ぶなと。テーブルの少し手前くらいか。そう思いながらスタンバってると、ドジっ子な我が愛しの幼馴染は予想通りの位置でコケそうになってフワリとケーキが宙を舞いそうになる。
「おっと」
片手でケーキをキャッチ。残りの全てで転びそうな琥珀を抱きとめるのに成功。
「あ、ありがとう、あっくん……えへへ」
「いいよ。怪我はない?」
「うん。あっくんが守ってくれたから」
そう照れる琥珀たそ、可愛すぎ!少しイチャイチャしそうになってからなんとかケーキをテーブルに置くとロウソクに火を灯して電気が消える。
「じゃあ、琥珀ちゃんよろしくね〜」
「が、頑張ります!」
そう言って琥珀は深呼吸をしてから歌ってくれた。
「はぴばすでーとぅーゆー、はぴばふでーとっゆーはぴばーすでーでぃあ……あっくん……はっぴばすでーとゅーゆー♪」
照れがあるので余計に名曲になった。ソロでの難易度は高いのによくやってくれたよ本当に見事だ嬉しいよ琥珀。
「おめでとう」「おめでとう〜」
父さんと母さんもわざと琥珀に任せて俺が喜ぶことをよく分かってるよ。ありがとう。正直今の録音できてればなぁと思っていると、母さんがそっと何かを懐から取り出す。あれは……ボイスレコーダー?まさか録音してたのか!ニヤリと笑う母さんに今だけは言おう……ありがとうと。




