210 前部長
「お、ちゃんと練習やってるね」
琥珀の部活中に俺もテニス部の方に参加していると、引退した前部長の清水先輩が顔を出した。
「お疲れ様です、部長」
「僕はもう引退したから部長じゃないよ」
「そうでしたね、清水先輩」
そう言うと楽しそうに笑ってから隣に座る清水先輩。
「遠藤くんは上手く部を纏めてるね」
「ええ、流石ですね」
二人しか居ない二年のうち一番上手い遠藤という先輩が新しい部長となったテニス部だが、実績が少し出来た程度なのでまだそれ程テニスコートを使える時間は増えてない。俺としてもテニスはあくまでも琥珀との時間を邪魔しない範囲と決めてるので悪いことではない。今の部活メンバーも俺のその辺のことを分かってるので動きやすいのも有難い。
「ところでそのリストバンド。随分可愛いけどひょっとして贈り物かな?」
「正解です。可愛い彼女に貰いまして」
ゲーセンのクレーンゲームのぬいぐるみを琥珀に渡すと、喜んでから俺にも渡すものがあるとこのリストバンドをくれた。少し可愛い絵柄だが琥珀からの贈り物を使わない俺ではない。
「今泉くんはきっと僕らが卒業しても変わらずそんな感じなんだろうね」
「ご不満ですか?」
「まあ、普通の感覚だと勿体ないとは思うよ。本気でやればプロだって目指せそうだし。でもそれは僕らが強要することじゃないからね」
自分で選んで進むからこそ道ってことね。
「僕としては君ともう一度くらいは勝負したいんだけどね」
「空いてるならやります?」
「いいね。受験勉強の息抜きになる」
爽やか顔を楽しげにしてラケットを取りに行く前部長。ていうか、そのつもりで来たのだろう。読めない先輩だ。
「じゃあ、行くよ」
そう言って前部長は前よりも速くなったサーブを打ってくる。おいおい、受験で鈍ってないのかよと思いながら返すと、前に出てきて決めに来た。
「貰うよ」
その言葉に何とか反応してギリギリで追いつき相手コートに入れる。まずは一点。
「やるね。さっきのは届かないと思ったのに」
「これでもそこそこ鍛えてるので」
「いいね。そうこなくちゃ面白くない」
そう言って次のサーブを打ってくる前部長。今度は……スライス系のサーブ?どれだけ器用なのやらと変化するボールを返すと、また前に来て今度はドロップで決めに来た。この動きは前の前部長では見たことないが……陰で練習してたのだろうか。全く侮れない人だ。
「今泉くん。高校でもテニスやる?」
「彼女との時間最優先なので」
「だろうね。空いてる時間あったらさ」
そう言ってスマッシュを打ってくる前部長になんとか返すと、俺の点となりゲームセット。6-4の接戦だったがなんとか勝てた。
「さっきの続きね。空いてる時間あったらうちの高校来なよ。いい息抜きになると思うよ」
「考えておきます」
「うん」
そう答えると嬉しそうに微笑んでから握手してくる前部長。受かる気満々な様子だがこの人なら高校受験くらいは余裕かと納得もする。本当に最後まで読めない人になりそうだなぁと変わったイケメンの先輩に何とも言えない視線を向けてしまうが、琥珀のリストバンドにすぐに意識が行く俺はやっぱり琥珀最優先なんだろうね。琥珀たん最高!




