196 浪川さんはよくモテる(女に)
朝からの雨と文化祭という面倒な行事にのっそりと登校してきた黒華は下駄箱を開ける前にそれに気づく。
「……手紙?」
またしても嫌がせかと思ったがそれにしては随分と可愛らしい。そう思って下駄箱を開けるとハートマークの付いた可愛い手紙は間違いなくラブレターだった。しかも手紙の主が本物なら同性。
(……女の子かぁ)
残念ではないけど、黒華としては断るのが少し面倒な手合いの予感がする。これまで何度か受けたこの手のことでの経験と女の勘とでも言うべきものだが。
「……っていうかこれ、日付違くない?昨日の放課後?」
昨日の帰りにこんな物があった記憶はない。やはり嫌がせかと思ったが、ふと自分の帰った時間を思い出す。昨日は琥珀達と会ってから気分的に着ぐるみを無断で返してからさっさと帰った。もしもその後に向こうが気づかずに入れてたとしたら。
(……いや、だとしても放課後出して放課後来いって不親切すぎじゃない?しかも指定が校舎裏って)
昨日琥珀達と居た場所だ。もしもそこで昨日その相手が黒華を見かけてそれで思い切ったとしたら。かなりアホな子の予感しかしないが、今日も待ってたらと考えるとまさかと思いながらも時間ギリギリなのに黒華は校舎裏に行ってしまった。
校舎裏の昨日の場所。傘をさした女の子が一人立っていた。
「……来てくれたんですね」
黒華を見つけると、その子は顔を輝かせる。見たことない顔だ。だが恐らく二年だと黒華は判断する。
「ええっと。昨日手紙に気づかずに帰っちゃって。さっき見つけたんです」
「ですよね。すみません」
そう謝ってからその子は少し黙ってから勇気を振り絞った様に言った。
「好きです……私と付き合ってください」
顔も名前も知らな上級生らしい女子からの告白。黒華はこっそり近くを確認したが待機してる連中の影はない。
そして目の前の女の子に言わされてる感はない。むしろ……本気で気持ちを伝えていた。
「どうして私なんですか?」
そう黒華が聞くと、その子はこっそりと携帯を取りだして昨日の写真を見せる。それは忘れ去りたい着ぐるみを着た昨日の自分。
「一目惚れです」
そうとだけ言うその子の目は……めちゃくちゃドロドロしたものが黒華には見えた。歪んでそうな執着、ちょっとした狂気すら感じるそれは……そう、例えるなら恋する少女のようなそれをさらにぐちゃぐちゃにした感じの濁ってそうなのに真っ直ぐな気持ち。
「私の恋人のになって……私とずっとずっと一緒にいてください。私昨日の貴女を凄く凄く愛してるんです」
……人形として。そんな語尾が付いたような気がした黒華。
(……うん。あの腹黒に八つ当たりしたい)
そんな気持ちになる黒華だが、丁重に告白は断った。絶対猟奇的な何かに巻き込まれる気がして。その黒華の判断が間違ってなかったと知るのは数年後のこと。ニュースで名前を見てもピンとこなかっが、顔写真とかも出てきてドロドロの駆け引きがあって現在逃亡中と出て少しゾッとしたのだが、これはホラーではなくただの恋バナとして琥珀には話したのだった。




