第一章「ネオンの残響」/閑話「はねる夜」
本作は、小説と連動楽曲で構成されたシリーズ作品です。
ゆっくりと進行しますが、気軽にお付き合いいただければ嬉しいです。
いつもの夜。
いつもの場所。
いつものネオン。
集まる顔ぶれも、特に変わりはない。
約束があるわけでもないのに、気づけばそこにいる。
それがいつもの夜だった。
グラスが置かれる音。
氷が踊る音。
笑い声。
誰かのどうでもいい愚痴。
それを適当に拾う相槌。
言葉は流れていくというより、ただその場に漂っているだけだった。
ただ、少しだけ違っていた。
理由は誰にもわからない。
誰も気にしていない。
それでも、空気はほんの少しだけ軽い。
会話の間が、ほんの少しだけ短い。
Revyは飲み物を片手に椅子に座っている。
いつも通りの位置。
いつも通りの距離。
いつも通りの飲み物。
ただ、指先がほんの少しだけリズムを取っていた。
ときおり、そこに無いはずのギターの弦を弾くような動きも混ざる。
気づけば、足先もわずかに動いている。
本人にその自覚はない。
「……なんか今日、やたらうるさくね?」
誰かがそう言って、笑った。
誰も否定しない。
むしろ、少しだけ同意の空気が流れる。
そのときだった。
腐れ縁筆頭のNoctが、何か思いついたようにイタズラに笑う。
「いいじゃん。うるさいなら、もっとうるさくしようぜ」
そう言って、グラスを軽くテーブルに置いた。
――コツッ
乾いた音がひとつ鳴る。
それが合図みたいだった。
誰かが、叩いたこともないドラムを真似するように机を指で叩く。
意味なんてない、その場のノリ。
誰かが、それに合わせて肩を揺らす。
そしてまた、その肩の揺れに合わせるかのように誰かが肩を揺らす。
誰かが、笑いながら足を揺らす。
音楽が変わったわけじゃない。
何かが始まったわけでもない。
それでも、空気だけが少しずつ“跳ねて”いく。
Revyはそれを見ていた。
見ているというより、とっくに巻き込まれている。
気づけば、視線の先のリズムに、自分の動きが少しだけ同期しつつある。
理由はない。
合わせているつもりもない。
グラスの中の氷が、ネオンの光を反射しながら、紫色にわずかに揺れる。
指先が、机の上、膝の上、見えないタクトを小刻みに振るように、宙で軽く跳ねる。
足が、ほんの少しだけ拍を刻む。
Noctが笑う。
「ほら、いい感じじゃん」
それだけ言って、何も説明しない。
誰も聞かない。
その場に、意味はなかった。
目的もなかった。
ただ、リズムだけがつむじ風のようにその場の空気を混ぜながら漂っていた。
少し前まで漂っているだけだった言葉は、軽く弾けて霧散していく。
言葉は減っていく。
代わりに、動きが増えていく。
小さな音。
小さな揺れ。
小さな反復。
気づけば、それぞれが少しずつ“揃っていた”。
揃えようとしたわけではない。
ただ、そうなっていた。
Revyはふと、グラスを持ち上げる。
一口だけ飲む。
そして、何も言わずに小さく口元と目に笑みをためる。
誰かが机を叩く。
誰かがそれに乗る。
誰かが笑う。
つられてさらに誰かも笑う。
意味のない繰り返し。
止まらない小さな跳ね。
言葉にならないまま続く夜。
言葉にしなくてもいい夜。
紫の光が、いつもより少しだけ揺れて見えた。
そして誰も、それを説明しなかった。
ただ、夜は跳ね続けていた。
もしもこの夜に名前をつけるなら、難しい名前じゃなくていい。
――“ゴキゲンな夜”
第一章/閑話「はねる夜」をお読みいただきありがとうございます。
連動楽曲
「B2V-Bumpy Beat Vibe」
https://www.youtube.com/watch?v=sd_Ww-96bus&list=PLotKldLgKicyyp9-bdCqgLr4qxS7-FEE-&index=14




