第一章「ネオンの残響」/第五話「きになった夜」
本作は、小説と連動楽曲で構成されたシリーズ作品です。
ゆっくりと進行しますが、気軽にお付き合いいただければ嬉しいです。
いつもの夜だった。
そう思っていた。
Revyは、いつもの道を歩いていた。
いつもの場所で、いつもの仲間たちは、今夜もいつも通りに騒がしい。
悪くない喧騒だ。
放っておいても成立する種類の空気。
その輪の中から、少しだけ距離を取る。
理由はない。
気分まかせ。
いつもそうしているだけだ。
裏通りへ向かう足取りは、特別軽いわけでも重いわけでもない。
ただ、慣れている。
この時間、この街、この暗さ。
全部、慣れているはずだった。
向かう先、遠目に見たときは暗闇にポツンと闇を照らしていた自動販売機。
その自販機の前で、足が止まる。
目の前にすると光が少し眩しい。
別に喉が渇いているわけではない。
それでも、そこにある“いつものやつ”を確認するのは習慣みたいなものだった。
(売ってないな)
それもまた、いつも通り。
買う前から分かっている、わざわざ見なくてもいいが見てしまう習慣のような確認作業。
この自販機には前々から、自分の好みの飲料が一切無いことは把握済み。
いつも通りなのを確認すると、そのまま通り過ぎようとして、ふと気づく。
視線が、少しだけ引っかかる。
前々からあったが今まで気に留めなかったのか、それとも新たに追加されたのかはわからない。
あの飲み物。
どこかで……。
「あ」
路地裏で歌っている“あの子”の横に、いつも置かれているやつ。
理由はない。
ただ、なぜかそれを思い出した。
(なんで今それ)
自分でも少しだけ違和感がある。
たまたま見かけただけの、ただの路地裏の歌い手。
ただの夜の風景。
その一部。
それ以上でも以下でもないはずだ。
なのに今夜は、その“いつもの風景の一部”を確かめに行くみたいになっている。
自販機で、歌っているあの子の横にいつもある、その飲み物を選ぶ。
深く考えないまま買って、ペットボトルのラベルも確認せず、そのまま歩き出す。
路地裏、いつもの裏通り。
今や見慣れた場所。
通い慣れたとも言える場所。
そこには、やっぱり“あの子”がいた。
声は、遠くからでも聞こえる。
相変わらず、うまく説明できない歌。
でも、止まらない歌。
(いた)
それだけで、少し安心する自分がいる。
まるで生存確認。
もちろん、そんなつもりは毛頭ない。
買った飲み物を開けて、一口飲む。
思ったよりも悪くない。
悪くはない。
でも——違う。
(これじゃない感)
そう思った瞬間、いつも自分が気に入って飲んでいる飲み物のことを思い出す。
すぐ近くで売っていたことを思い出し、その場を離れようと一歩踏み出し、一時の別れと挨拶代わりに声の方向に目をやる。
挨拶を交わすような関係でもないのだが、こういうのは気持ちが大事。
などということは今はさておき。
声の主の足元に視線をずらすと、そこに見慣れたものがあった。
彼女の横に置かれている飲み物。
自分がいつも選ぶやつ。
一瞬だけ、思考と足が止まる。
(……なんであれが?)
偶然にしては、少しだけ出来すぎている。
でも、だからといって無理に意味をつけるほどでもない。
視線の先では、歌が続いている。
顔はやはりはっきり見えない。
見えなくていい気もする。
Revyは少しだけその場に立ち止まる。
(交換、とか)
頭の中で一瞬だけ言葉が浮かんで、すぐに消える。
そんな距離じゃない。
そんな関係でもない。
でも、完全に無関係でもない気がしている。
その曖昧さが、少しだけ面倒だ。
「……まあいいか」
小さく呟く。
そして、結局そのままそこに残る。
歌が終わるまで。
そのあとどうするかは、そのとき考えればいい。
第五話「きになった夜」をお読みいただきありがとうございます。
連動楽曲
「there she is. yes」
https://www.youtube.com/watch?v=p0avVcrPiCg&list=PLotKldLgKicyyp9-bdCqgLr4qxS7-FEE-&index=4




