98 女子力が止まらない
次の日の朝。六時くらいに目を覚ました。
朝風呂、とはさすがにいかず、井戸で顔を洗う。ふ~さっぱり。
「ガウ」
「はい、おはよう。よく眠れ……ん? お前、なんか食べたか?」
シルバーの口元が汚れていた。
「ガウ~?」
そんなわざとらしいウソなんていらねーんだよ。ったく。誰かエサやってるな。まあ、人懐っこいならエサをやりたくなるのはわかるけどよ。
「太ったら山に捨てるからな」
「ガウガウ!」
熊が腕立て伏せするんじゃないよ。動きが気持ち悪いわ。
昨日捌いた角猪をエサ皿に盛ってやる。
「今日は出かけないが、ちゃんと警戒してろよ」
「ガウ~!」
まったく、調子のいいヤツだ。
ガツガツと肉にかぶりつくシルバーの頭をポコリと叩き、厨房へと向かった。
「お、おはよーさん」
宿の厨房を任せられてる頭ツルツルのおっちゃんが竃に火をつけていた。
「うん。おはよう」
「今日も野菜シチューでいいかい?」
「うん。お願い」
アイテムボックスからシチューのルーを出しておっちゃんに渡す。
「……このルーと言ったか? 売ってもらうことはできるかい?」
アイテム工房でマッシュポテトを作ってると、おっちゃんがおずおずと訊いて来た。
「できる。けど、高い。渡したので金貨一枚はもらわないとリンが損する」
イモ三つ分で出せるようになったが、抱える人数が増え、消費も早いので、安くは譲ってやれないのです。
「……そんな高価なものだったのか……」
「うちで使うのが優先。売ることは考えない」
それでも欲しいと言うなら売りはしますよ。献立にカレーを増やせばいいだけだし。
「旦那と相談してからでいいか?」
「構わない」
どれだけ買うか知らんが、雇われ料理人が出せる金じゃないしな。オレがいる間に決めてちょうだいな。
朝飯ができる頃、皆が起きて来る。
「ロッシュニー。今日の狩りは任せる。お昼は各自のアイテムボックスに入れておく」
「マルレインはどうします?」
「たぶん、リンのほうに来ると思う。あ、今日は角猪の捕獲をして。家畜にするから」
邪神の揺り篭から生み出された魔物に頼るような生活はしないが、我が手のひらの創造魔法で改造──じゃなく、品種改良すれば邪神の呪縛(?)から解放されてタダの獣となる。
それは雪ウサギやオールダーで確かめた。まあ、完全に、とは言えないが、角猪ばかりに頼らないようにしてくまで。この世界産の獣はいるんだからな。
「わかりました。アイテムボックスに入れればいいんですね?」
「うん。お願い」
アイテムボックスには生き物を入れることも可能だが、生命維持させるとなると魔力が結構かかる。なので入れたら本拠地にある檻に送るようにする。ベルホンに来る前に用意しておいたのだよ。
朝飯をいただいてると、マルレインおねーさんがやってきた。食べてないなら一緒にいかが?
「いただくわ」
遠慮一切なし。逆に気持ちがいいぜ。
「今日、リンは狩りにいかないから」
びっくりするマルレインおねーさん。出された朝飯を急いで食べると、飛び出していってしまった。
……もしかして、食いしん坊なのかな、マルレインおねーさんは……?
食後のお茶をしてると、脇腹を押さえながら戻って来た。ガイのおっちゃんを連れて。
ちなみに、ガイのおっちゃんはベルホンまでの案内と紹介が仕事なので狩りには参加してません。その間、なにをしてるかも知りません。
「……きょ、今日は、ガイ、さんに、お願いしまっ、す……」
どんだけ全力ダッシュしたんだよ? 意外とオチャメさんか?
「そう。よろしく」
おっちゃんも全力ダッシュに付き合わされたようで、頷くのが精一杯のようだ。ご苦労様。
二人に水を出してやり、息が回復するのを待ってやる。
「まったく、急すぎるんだよ」
「娼館のおねーさんに言って」
まあ、半分以上、オレが悪いんだけどねっ。
出かける皆を見送り、食堂でのんびりする。
「って、イビスはいかないの?」
当然のようにいるイビス。びっくりするわ。
「ロッシュニーにボスの護衛をお願いされた。無茶しそうなときは止めてくれって。まあ、止めて止まるようなボスじゃないが、わたしがいることでロッシュニーの心の平穏が守られるならそれもよしさ」
信頼されてないことにオレの心は波打ってるが、反論したところで説得できないのだから黙っておけ、だ。
「イビス。髪が乱れてる。散髪する」
「いいよ。髪なんて適当で」
「ダメ。身嗜みは大事」
そのボサボサな頭を見ると、オレの女子力が黙っていられないのだ。
庭に連れていき、散髪をする。
ボサボサのパサパサになった髪に魔法の水で潤いを持たせ、しっかりと櫛で梳かす。
「なぜそんなに髪が綺麗になるの?」
「特別な水を使ってるから」
髪は女の命。いや、男にも命。薄くなっていく恐怖には堪えられない。髪は長い友達。大事にしなくちゃな。
毛先を整えてやり、また櫛で梳かし、違う魔法の水で髪を輝かす。
「うん。可愛い」
金髪おかっぱ。なかなかいいじゃないか。オレの女子力が止まることを知らないぜ!




