99 毎度あり~
「凄いもんだね」
イビスの髪をさらに梳いてると、いつの間にか姉ばーちゃんが横にいた。
……油断してるつもりはなかったが、全然気がつかんかった。気配なさすぎだよ……。
「そう?」
「ああ。人の髪ってのはここまで輝くもんなんだね」
「健康な体と日頃の手入れ、あとは髪薬があれば誰でも輝く」
なに事も一日にしてならず。日々努力なり。まあ、今回は魔法を使いましたけどね。
「その髪薬やシャンプーなど売ってくれるかい? 魔石を掻き集めて来たからさ」
「もらえるものさえもらえるなら喜んで」
お客様は生贄。オレが幸せになるためにいる。
「……クズね……」
リリーちゃん。他の人には聞こえてないようだけど、オレにはしっかり聞こえているからね。覚えてろよ。
「なら、いろいろ売る。買いたい人を集めて」
稼ぎ時。これまで創りに創った商品を吐き出す時だ。
「知り合いを呼んでもいいかい?」
オールオッケーどんと来い、だ!
会場はここと言うことで、姉ばーちゃんが知り合いを呼んで来る間にセッティングをしましょうかね。
「イビス。銃を出して。なるべく手入れの簡単なものを」
「お、おい、ボス、本気か? 不味くないか?」
「なにが不味いの?」
戦争と無縁な生活を送って来たが、武器商人が儲けてることは知っているし、大きな市場なのも知っている。
「不味いに決まっているだろう! 味方を殺す武器になるんだぞ!」
「そんなもの剣も魔法も同じ。銃だけが味方を殺すワケじゃない」
なにを勘違いしてるんだか。武器にアレが良くてこれが悪いなどない。どれも同じなんだよ。
「だが!」
「だがもしかしもない。モラルと理を無視したのはあちらだ」
銃がダメと言うなら神が許さないはずだ。許していると言うことは使っていいってこと。なら、オレらが生きるために使うしかないじゃない。
「それはそうだが、銃を広めるのは危険だ」
「イビスは勘違いしてる」
「勘違い? なにをだ?」
ここにはマルレインねーさんがいるので、イビスの腕をつかんで接触会話魔法を発動させる。
『イビスが生み出した銃はイビスが消せる。なら、リンたちに向けられたら消すようにすればいい』
他に向けられたらそれは撃つヤツの責任。こちらの責任ではない。
もし、作ったヤツも罪だと言うなら剣や槍を作る鍛冶師はこぞって死罪だな。
「罪を犯すのはいつだって人。道具に罪はない」
屁理屈だ、と言うなら屁理屈で結構。オレはなんだって構わない。オレはこの世を救いたいワケでもなければ聖人になりたいワケでもない。
オレはオレのために生きる。生き抜いて幸せになるのが目的なんだからな。
「反対なら出さなければいい。イビスの自由意志に任せる」
まあ、銃を知らない者に銃の利点を見抜けるかわからんしな。
……欠点しか見えないオレが言うのもなんだけどよ……。
「わかった。出そう」
「売れるようプレゼンして」
大量生産大量消費社会。お金がザックザク、になったらいいな~。
「主は悪魔を解き放った」
お、上司批判か? 査定に響くぞ。まあ、オレの上司じゃないからなんでもいいけどよ。
テーブルを合わせ、アイテムボックスから商品を出してよさげに配置する。
あれやこれやと出していると、おねーさん方がやって来ました。
「好きに見て」
こんなこともあろうかと商品紹介のポップは手配済みよ。って、オレが夜な夜な書いたんだけどね。
「肌に合う合わないがあるから試してみてから買って」
人の肌や髪は人それぞれ。万能じゃないんでよく確かめてね。
「おねーさん。手伝って。給金出すから」
「わかったわ」
即決かい。本当に現金なおねーさんだ。
魔石を魔力に変える箱を出し、その量に応じて商品を渡す。ってのをマルレインねーさんに教える。
「お金で買う人はこちらの箱に入れて」
こちらの金の計算って面倒臭いんだよな。どこかの国の金も混ざってるし、町で出してる金もあったりと、いちいち考えさせられてキレそうになるわ。
「……勘定できる人を探さないと……」
これ見よがしにマルレインねーさんの前でぼやいた。
ヘッドハンティングは相手が来たいと思えるようにするのが成功への早道だ。
会計はマルレインねーさんに任せ、おねーさん方の相手をする。
「この回復保水は化粧を落として寝る前につけると疲れた肌を癒してくれる。コリエットでは大人気」
「買うわ!」
毎度あり~。
「この薬は月もの不順のときに飲むといい。症状に合わせて八種類ある」
「買うわ!」
毎度あり~。
「これは不妊薬。始める前に男に飲ませればどんと来い」
「買うわ!」
毎度あり~。
売れる売れるよどこまでも~。そして、貯まるよ貯まるよ魔力が貯まるどこまでも~。もう笑いを堪えるので表情筋がおかしくなりそうだわ。
しかし、出した商品を買い尽くす勢いで、逆にこちらが焦って来るな。
「嬢ちゃん。酒はあるかい?」
「ワインとブランデーなら少しある」
「少しかい?」
「酒は先約があるから」
じーちゃんに卸す約束をしているので、そう持ってないのだよ。
「大麦を用意してくれるならウイスキーは作れる。魔力次第だけど」
エールが水みたいな時代だから大麦は結構育てられてる。まあ、組合があるみたいでなかなか手に入れられないんだよね。
「あれば作れるんだね?」
やけに強調するね。なんなのよ?
「今のご時世酒が手に入り難いんだよ」
「そんなに不足してる?」
不足しているのは聞いてるが、味はともかくダリアンナの町ではそれなりに流通してたんだがな?
「エールはそれほど不足はしてないんだが、ワインや高級酒が回って来ないんだよ。まったく、酒のない娼館なんて興醒めもいいところだよ」
まあ、娼館は男の娯楽施設。女だけじゃなく酒にも酔いたいんだろう。よく知らんけど。
「エールがあるなら大麦より早くウイスキーは作れる」
工程が減るし、蒸留装置はアイテム工房内に創ってある。二日あれば飲めるものにはなるだろうよ。もちろん、短縮させるんだから魔力は必要ですよ。
「ほ、本当かい!?」
リン、人相手にウソつかない。惚けることはあるけど。
「ま、待ってな! すぐに用意するから!」
バビュンと食堂を飛び出していく姉ばーちゃん。本当に人間なんだろうかと疑いたくなるパワフルさである……。




