92 ドッペルゲンガー!?
で、娼館がやっていると言う宿屋に到着。なんかばーちゃんによく似たばーちゃんが現れた。
え? ドッペルゲンガー!?
「お前さんがリンかい?」
あ、声が違う。ドッペルゲンガーじゃない。
「そう。誰?」
「ミレーヌの姉だよ」
ミレーヌ? 誰や?
「コリエットのミレーヌだよ」
誰か知ってる人? とイビスやロッシュニーを見るが、知らないようだ。
「コリエット? ミレーヌ? なにそれ?」
まったくもって話がわからない。なんなのよ、いったい?
「……もしかして、娼館のばーさんの名前、知らないのか……?」
と、おっちゃんが眉をしかめながら訊いて来た。
「ばーちゃん、名前あったの?」
「あるよ! ないワケないだろう!」
おっ。おっちゃん突っ込みの才能あるやん。
「コリエットは娼館の名前だ」
「娼館に名前があったんだ」
「あるよ。娼館は一つだけじゃないんだから」
あ、娼館ってあそこだけじゃなかったんだ。初めて知ったわ。
「……なにか適当な子だね……」
おおらかと言ってください。
「わしはレミーナ。ベルホンにいる間はわしが面倒見るよ。なんかあったらわたしに言いな」
ミレーヌと言いレミーナと言い、可愛い名前してんな。若い頃はいいが、老いてからその名前は惨いとしか言いようがないぜ……。
「わかった。お世話になる。お代はなにがいい?」
タダと言うワケじゃなかろうし、見返りを求めてるのもわかる。だってばーさんって、ごうつくばりな感じがするもの。
「なるほど。手紙に書いてあった通りだね」
きっと優しい子だって書いてあったんだね。言わなくてもわかるよ。
「……よくそこまで自分を肯定できるものよね……」
オレは誰よりもオレを信じる女の子ですもの。
「……まあ、今日はゆっくり休みな。宿は貸し切りにしてあるから」
それは至れり尽くせりですな。まあ、下手な騒ぎを起こされるくらいなら貸し切りにしたほうがお安いだろうけどな。
部屋割りはロッシュニーに任せる。エルフの関係性、よく知らんし。
「ばーちゃん。風呂ある?」
オレ、寝る前に風呂入らないと眠れないんだよね。
「娼館にあるよ。ただ、男は止めておくれ。湯は運ばせるんでね」
まあ、ある意味、男子禁制なところあるもんね、娼館って。
「風呂に入る人、いる?」
エルフの女性陣(三人しかいないけど)に問うと、いかないと首を振られた。いつもは入ってるのにどうした?
「ボスは用心深いんだか抜けてるんだかわからないな。今も迫害されている亜人が町でゆっくりなんかできないだろう」
「ゆっくりできる場所まで緊張してたら体も心も安まらない。ばーちゃんが面倒見ると言うなら任せればいい」
あと、抜けてるはよけいだ。ちゃんと最低限の用心はしてます。
「安心しろとは言わないよ。受けて来たものがものだからね。けど、面倒見るからにはハンパなことはしないよ」
そんな義侠心……ではないな。ばーちゃんからキツく言われてる感じかな? 可愛い子だからちゃんともてなせって。
「……本当にいいように取るわよね……」
ハイ。いいように生きてますから。
「イビスは?」
「わたしは湯をもらって部屋で体を洗うよ」
イビスは清潔にはしてるが、風呂には入らない。どうも湯に浸かるのが苦手なようだ。シャワーなら浴びるんだけど。
なら、オレだけ入らしてもらうか。
「熊は外に頼むよ。そんな頑丈にできてないんだから」
だよね。シルバーの体重、三百キロ近くあるし。
寝る場所を教えてもらい、猫つぐらならぬ熊つぐらを出してやる。これ、お出かけ用です。
それから一旦部屋を決め、お風呂セットを持って風呂場へと案内してもらう。
「なにしてんだい、お前たち?」
風呂場に来ると、おねーさん方がいた。なんやねん?
「内締め。その子なの?」
なにやら勝ち気そうなおねーさんがオレを見ながらばーちゃんに尋ねている。
「明日だって言ってるだろう! さっさと仕事に戻んな!」
と怒鳴られてもおねーさん方は引き下がらない。なんかダリアンナとは違って自己主張の激しいのが揃ってるね。
「ねぇ、あなた。肌にいいクリーム持ってるんでしょう。譲ってくれない?」
「ラネーノ!」
ばーちゃんが怒鳴るがラネーノさんとやらは一歩も引かない。なんかこちらは大変そうだな。
「まずは体に悪い化粧を変えることから始めたほうがいい。あとは、仕事が終わったら風呂にゆっくり入ってよく寝ること。月の不順があるならこれを飲めばいい。体をよくしてくれる」
アイテムボックスから薬箱を出してばーちゃんに渡す。
「リンは払うもの払ってくれたら出し惜しみはしない」
それはばーちゃんの手紙に書いてあるはずだ。あのばーちゃんはオレの扱いに長けてるからよ。
「魔石があればダリアンナで大人気の魔法式マッサージをしてあげる」
そう言って風呂場へと入った。




