89 組合長
次の日、かーちゃんと一緒に町へと出かけた。
ちなみにシルバーはお留守番。リリーはフードに入ってクリームをコピーしてもらってます。
「リンと出かけるなんて初めてね」
「うん。初めて」
なんて親孝行しながら町へと到達。娼館の女の子が出迎えてくれ、かーちゃんと別れて娼館へと向かった。
「まだ内締めもマーレねーさんも起きてないので、もう少しお待ちください」
いつもの部屋に通されたらそんなこと言われた。
あーうん。娼館はまだ夢の中だわな。ちょっとフライングしちゃったな。
「起きるまで待つ。気にしなくていい」
我が能力は場所問わず。ローブを纏っていればそこが工房よ。
出してもらったお茶をいただきながらブランデーを創る。さらに創る。リリーはコピーに明け暮れる。
「……わたし、なんのために創られたのかしら……?」
なんてリリーの存在意義など知ったこっちゃないと、創りに創って二時間が過ぎ、ばーちゃんが起きて来た。おはようさんです。
「……悪いね、待たせて……」
「いい。ここが娼館なの忘れてた」
いつも来るのは午後だったから起きてる印象が強くて、夜の仕事だって意識が抜け落ちてたんだろうな?
「その歳で理解してるのもどうかと思うが、今さらだね」
うん。今さらやね。
「組合長は午後からなんだが、それまでマッサージを頼めるかい? 早いのは起きてるからさ」
「問題ない。あと、クリームと薬玉」
薬玉とは風呂に入れて使うヤツ。バス〇リン的なものだ。
「代金はまた魔力でいいかい? 一応、金も用意はしてあるが」
「魔力がいい」
断然魔力がいい。なにを置いても魔力がいい。災害竜退治までに失った魔力を貯めれるだけ貯めたいのだ。
空の魔水晶をばーちゃんに渡すと、控えていた少女に渡し、少女は一礼して部屋を出ていった。
「お前さん、ベルホンにいくのかい?」
「いく。肉が欲しいから」
食料は足りてるが、そこに肉があるなら狩りにいくしかないじゃない。
「なに?」
ばーちゃんがなにか言いたそうにオレを見ている。
「……いや、なんでもないよ……」
なんでもない顔ではないが、ばーちゃんみたいなのに追及してもしゃべらない。弱味を見せたら食われるって世界で生きて来ただろうからな。
「難儀な性格」
「ふふ。まったくだよ。耄碌したくないね」
その口振りと苦笑いからしてなにか心情的になったってことか。まあ、長く生きたら思うことも一つや二つじゃないだろうよ。
「老後の心配でもしておけばいい」
定年退職などない時代ではあるが、いつまでもやってられる仕事でもない。金を貯めて将来に備えな。
「フフ。老後かい。それは楽しみだねぇ」
オレも楽しい老後にするためにも今を頑張らんとな。
ねーさんたちが起きて来たのでマッサージを、と思ったけど、そのまま風呂に向かわせた。
「男の臭いがする」
仕事が終わったら風呂に入れよ、ったくよ~。
上がって来た順にマッサージをしてたらお昼になり、タダ飯をいただいて残りを片付けた。
「あ~気持ちよかった~。ありがとね」
いえいえ。こちらこそありがとうございますですよ。体が悪くないと治癒魔法の訓練にならないからね。一生懸命働くねーさん方に感謝です。
疲れたときには甘いものと、ココアにクッキーをつけてブレイクタイム。トレビア~ン。
「なんかお嬢様のアフタヌーンティーって感じ」
「見た目は悪の組織の女幹部って感じだけどね」
うっさいよ! つーか、天使がなんで悪の組織の女幹部とか知ってんだよ。今時の天使は謎が多いな! いや、今時の天使とか知らんけど!
なんてくだらないやりとりをしてると、席を外していたばーちゃんとじーちゃん、そして、中年男が入って来た。
……この中年男が組合長かな……?
ってか、組合長ってなんの組合の長なワケ? 冒険者? 傭兵? なんなんだ?
「待たせたね。この男が組合長のバルガスだよ」
「グランディール傭兵団の代表、リン」
こちらから先に挨拶する。紹介してもらう立場だからな。
「バルガスだ。町の組合を統べている」
町の組合? なんじゃそりゃ?
「要はいろんな組合を纏める男だよ」
ばーちゃん。簡素な説明ありがとう。
「ベルホンで角猪を狩りたい。話を通して欲しい」
「それならダリアンナで傭兵団登録をすればベルホンで狩ることはできる。するか?」
「町の外の傭兵団でも登録できるの?」
税を払ってないよ。
「登録料を払えば問題ない。町からの依頼なら税は引かれて支払われる」
それだけ? もっと細かなルールとかあるでしょ。
「……もしかして、傭兵団って優遇されてる!」
「優遇と言うより簡単にしてるだけだな。傭兵団は学がないのが多いんでな、難しくしたら成り手がいなくなる。ただでさえ傭兵不足は深刻なんだからな」
傭兵業、人気ないの? と首を傾げてみせた。
「魔物の被害が多いんだよ。あっちに派遣してくれ、こっちに派遣してくれってな。災害竜退治もあるって言うのによ」
よほど鬱憤が溜まってるのか、愚痴が止まらない。ご苦労様です。
「まあ、うちはお前さんらがいてくれるお陰で他の町よりはマシだがな。ゴブリンや狼の被害がないだけで仕事が三割減ってくれる」
あいつら、狩っても狩っても出て来るからな。邪神の揺り籠もさぞや多いんだろうな~。
「じゃあ、損してたんだ」
仕事と言うからにはゴブリンや狼の駆除は町の仕事ってこと。なら、報奨金が支払われていたってことだ。
「そこは諦めるしかあるまい。組合に入ってなかったんだから」
だな。文句を言っても始まらないわ。
「グランディール傭兵団を登録して。あと、ベルホンに話を通して。近いうちにいくから」
ベルホンに貸しを作るなり、交渉のカードにするなり好きにしていいからよ。
「わかった。ベルホンにいくときは連絡をくれ。案内人をつけるから」
ばーちゃんがどう話したかわからんが、なにごともなく話が纏まってくれた。サンキュー、ばーちゃん。




