88 町ブラ
オレは神の手を持つテクニシャン。どんな女も絶頂させてやるぜ!
おっと。変な想像するんじゃないぜ、チェリーなボーイ。絶頂と言っても気持ちよさに力が抜けるだけさ。
「不摂生しなければ一月くらいは快調」
って、娼婦には無理な話か。夜が稼ぎ時だしな。
「払いは魔石でいいかい?」
ドサッとテーブルに魔水晶が入っただろう袋が置かれた。
「……もしかして、難民が増えてる……?」
アイテムボックスに入れ、貯蔵用の魔水晶に移したらオレ一人分の量になった。
……これ、十人や二十人で集められる量じゃない。最低でも五十人からは集めてるはずだ……。
「まったく、あんたの頭はどうなってんだい? よくこれだけでわかるもんだよ」
「町一つなくなれば周りに暮らす者はどこかに流れる」
町に住む者の胃を満たすには畑や牧場が必要だし、纏まるために村ができる。なのに、卸先がなくなり、魔物を退治する傭兵や冒険者がいなければ逃げるしかない。
まあ、すぐに決断できる者は少ないからいっきに流れて来ることはないだろうがよ。それでもあれだけの町なら流れて来る者は何百人といるだろうよ。
「ああ。ますます魔物の被害が多くなってね、町や村がたくさん消えてるんだよ」
邪神の揺り籠、いくつあるんだよ。ったく、バランス考えろよな。ゲームなら金返せって騒がれるぞ。
「特にダリアンナの町は他より安全だからね、流れて来る者も多いんだよ」
そりゃグランディール傭兵団が魔物を狩ってるからな。
「食料は足りてる?」
「今のところはね。畑を荒らす魔物が増えたら足りなくなるかもね。隣の町、ベルホンでは角猪がたくさん出て畑を荒らされてる話だよ」
角猪? つまり肉だな。
「傭兵団は出てるの?」
「角猪は臆病でね、すぐに逃げるんだよ。毛が硬いから矢もなかなか通さないのさ」
ほーほー。それはまたイビス向けな魔物ですこと。狩らせるか。
「ばーちゃんは、ベルホンに伝ある?」
「ん~。ないね。昔にいったことがあるだけだからね。ただまあ、組合長には貸しがあるからなんとかなるとは思うよ」
「じゃあ、なんとかして。明日クリーム持って来るから」
練習して報酬がもらえたからな、少しは還元せんと。
「わかったよ。それと、ブランデーを頼めるかい? あんたらが動きやすくするためにさ」
「いくつ?」
「あるだけ全部」
ニヤリと笑うばーちゃん。ったく。強突く張りめが。
アイテムボックスからベリーから作ったブランデーを二十個出す。
「一本はじーちゃんに渡して」
なにかと影が薄くばーちゃんに邪険にされているが、あのじーちゃん、かなりの影響力を持ってると見る。媚を売っておく相手だ。
「ううっ。いい子じゃ」
と、ドアの隙間から泣いているじーちゃんが見えた。
「ったく。チョロいジジイだよ。それでも娼館の主かい」
男には純情でいたいときがあるんだよ。ばーちゃんも女ならわかってあげなさいよ。
「町に買い物にいく」
「今からかい? 夕方だよ」
「夜の町も見ておきたい」
裏町は朝と夕方から開くのだからちょうどいいやろ。
「しょうがないね?。マーレをつけるから待ってな」
マーレねーさんが呼ばれ、護衛にバオをつけられて裏町へと出た。
「いい匂い」
裏町は食い物屋が多いようで、あちらこちらから食欲を誘う香りが漂って来た。
……飲み屋街を思い出すな~……。
年齢からか酒を飲みたいとは思わないが、前世のオレは酒好きで、よく飲み屋街に出向いたもんさ。
「子どもにはキツいと思うけどね?」
確かにこの体にはキツい臭いだ。だが、心情的にはいい匂いなのさ。昔を、前世を思い出されてな……。
「なんか食べてみる? あなたの口に合うかはわからないけど」
「食べる」
食ってみないことにはわからない。なに事もチャレンジだ。
「じゃあ、馴染みの店にいきましょうか」
ん? マーレねーさん、娼婦だよね? 仕事前に飲むのか?飲まなきゃやってられないって質か?
馴染みの店とやらは食堂っぽいところで、大きなおねーさんで占めていた。
……女性限定のところか……?
「おや、マーレ。今日は休みかい?」
休みに来るところか。まあ、月のものあるし、休みにしなくちゃならんか。
「ううん。仕事よ。この子のお守りなの」
「ああ。この子かい。ミレンの娘ってのは」
なにか無駄に色っぽいおばーーではなくおねーさんだこと。この店の主か?
「わたしは、ここの主でタオラってんだよ。よろしく」
無駄に色っぽいが、サバサバした性格のようだ。
「リン」
「アハハ。確かにふてぶてしい顔してるね」
失礼な。愛らしいと言ってちょうだい。
「ねーさん、適当にお願い。お酒はいらないわ」
「あいよ。ちょっと待ってな」
タオラねーさんが下がり、十五歳くらいの少女が茹でた豆を持って来た。
「お通しよ。帝国の文化らしいわ」
オレらの前の転生者、いろんなこと広めてんな。つーか、影響力がスゲーな。どんな生き方したらお通しなんてシステムを広められんだよ? 謎すぎて想像もつかんわ。
「なんでここ、女の人しかいないの? 決まり?」
まさか女性限定とかも広まっているワケじゃあるまい。
「ん~決まり、ではないわね。いつの間にか女の憩いの場になった、と聞いたわ」
特にきっかけはなしか。
お通しをいただきながらたわいもない話をしてると、料理が運ばれて来た。
なにかの肉のスープにソーセージ、茹でたイモ、豆とカブだかなんだかの煮たヤツと、なんとも質素であった。
「酒はなに?」
「エールだよ。ワインもあるけど、リンの作ったワインを飲んだら他のは飲めなくなったわ。エールは、まあ、大人の水ね」
飲兵衛の言い訳やね。
なにはともあれいただきます。モグモグ。うん。普通。
「これ、なんの肉?」
ウサギの肉より雑味があるな? 飼育された肉ではなく野生の肉だ。
「沼ネズミの肉よ。ドロ抜きで手間はかかるけど、安く仕入れられるのよ」
「沼? 沼とかあるの?」
ってか、池すら見たことねーな。
「あるらしいわよ。わたしは町の外に出ないからわからないけど、冒険者が捕まえて来るらしいわ」
そうだわな。町の外に出る用もないし、魔物もいる。ましてや娼婦では出る理由もないか。
「結構食べるのね」
「ほとんど魔力に持っていかれる」
まったく、燃費が悪くてしょうがないよ。
出たものをすべていただき、その日はそれで帰った。




