57 契約書
温かいシチューを作り、ばーちゃんとねーちゃんに食べさせる。
「……美味しいねぇ……」
しみじみと呟くばーちゃん。冬にこんなシチューを食うなんぞ贅沢でしかないからな。
「ばーちゃんとミューリーだけ?」
六畳もないところに二人で暮らすのも大変だが。
「ええ。娘息子は魔物に殺されてね。今はミューリーと二人だけだよ」
まあ、そんなところか。
しかし、オレは牧場の子と友達になったのかと思ってたが、まさか下層の子と友達になってるとは思わなかったぜ。
「ナナリちゃんが来てくれて本当に楽になったよ。ありがとうね」
「もうお礼なんていらないって言ったじゃない」
照れ臭そうにそっぽを向くねーちゃん。もしかして、ねーちゃんが人らしくなったのはばーちゃんのお陰か?
そんなことを考えていると、ドアがノックされた。
「リン様。集落の代表者が来ました」
「ねー。二人をどうするか決めておいて」
「決めるってなによ?」
「リンはねーが大切だけど、遠くのものまで守れない。二人を残せばここのヤツらに利用されるか妬まれる。連れていくなら守れる。考えて決めて」
弱者を利用するのもいい。使い捨てにするのもいい。それが強者だ。それがイヤなら這い上がれ。覆せ。負け犬の遠吠えなど誰も聞かないわ。
だが、愚者はダメだ。害悪でしかない。近づいて来たら全力で殴る存在だ。
ここのヤツらも「助けてください! お金は払います!」とか言うんならまだよかった。だが、最初から利用しようとする気満々だ。こちらをナメてかかっている。
それは生きるために強者を利用する。騙す。弱者の知恵だ。それに文句は言わんさ。しかし、それを臭わせたらダメだ。愚かしすぎる。弱者としても失格だ。
弱者ならば弱者らしく、弱者の誇りを持て。強者が弱者を守りたくなるようにな。
「二人を連れていく!」
本当に即決即断できるねーちゃんがステキです。
ニッコリ笑い、外へと出る。
そこにいたのは三十代くらいの男たち。身形からして集落の上層にいる者たちだろう。
「こちらがグランディール傭兵団代表のリン様だ」
あ、オレが代表。団長はジェスね。ハリュシュは隊長です。
「……こ、子どもが……?」
ハイ。子ども社長です。笑っていいよ。オレは笑ったから。なんの冗談だよ。ぶっひゃっひゃっひゃっ! ってな。
「そう。子ども。なにか用?」
いいか諸君。七歳児に傭兵団の代表をやらせるような世界はクソだと知れ。神よ。あんたに言ってんだからな!
「……た、助けて欲しい。子どもや年寄りがケガをしてるんだ」
「前金で金貨三枚。一日金貨一枚。かかった費用はそちら持ち。それで引き受ける」
グランディール傭兵団の初仕事。サービスするよ。
「子どもや年寄りが困ってるんだぞ! 金を取る気か!」
と、若い男がプンプン怒る。
「こちらにも子どもや年寄りがいる。飢えさせろと言うの?」
力もないヤツが助けるとはそう言うことだ。うちは営利目的の傭兵団。慈善事業の傭兵団ではありません。
「そ、そんな大金、我々には出せない。負からないだろうか?」
この集団の代表者らしき男が口を開いた。
「こちらも安い金で傭兵団がやっていけない。もっと出して欲しい」
そちらにはそちらの事情があるように、こちらにもこちらの事情があるのだよ。
「時間は貴重。決断は早めに。命があるうちに」
命より大切なものはないと言うなら金を惜しむな。金より大切なものはないと言うなら命を惜しむな。どちらも大切と言うなら知恵を見せろ。お互い、納得がいく答えを出せ、だ。
「……どうか、助けて欲しい……」
代表者らしき男が頭を下げる。とうとう考えることを放棄したか。楽な人生で羨ましいぜ。真似はしたくないけど。
「なら、提案。報酬を現物で払うのはどう?」
「……現物……?」
「ここは牧場。卵ある。チーズある。肉がある。それらで払う。もちろん、分割で。どう?」
食料の定期的投入とか崖の上でサンバをするくらい嬉しいことだ。
「決断は早めに。子どもや年寄りを大切にと思うなら」
そちらが先に子どもや年寄りを盾にしたのだ、こちらも盾にしても構わんよな?
「……わかった……」
手のひらの創造魔法で契約書を創り出す。
「読んで納得したら名を書いて」
報酬を肉、乳、チーズなどで分割して払うことを了承する。払われない場合は私財で没収。支払い滞る場合はグランディール傭兵団と相談。一方的な破棄した場合、署名者の命で支払うものとする。
要約するとそんな感じ。
「……い、命で……」
信じられないって顔をする代表者らしき男。
「リンたち、町の法の下にいない。契約を破られても知らないと言われたら終わり。だから、命の契約が必要」
どうせ約束を破るつもりだったのだろう。子どもやエルフとの約束なんかな。
「そちらもして欲しい仕事の内容を書いて。無理難題でなければグランディール傭兵団は誠心誠意、応える」
親切丁寧、あなたの望みを叶えるグランディール傭兵団をよろしくです。




