58 回復魔法
ご契約、ありがとうございま~す。
グランディール傭兵団は真心をもって当たらせていただきます。
まずはゲガ人の治療ですね。ってか、皆さん凍傷かよ。腕や脚を切断しなくちゃならんレベル。
しかも、働き手の男がほとんど。氷漬けにされたのも混ぜれば集落の滅亡待ったなしやん。どうすんのこれ?
さらに年寄りや子どもも凍死寸前とか、止め刺したほうが優しさだと思うわ。
……これ、助けたら一生どころか三世代先まで払い続けなくちゃならんぞ……。
「村長代理」
ここ、集落じゃなく村でした。コハオ地区ラオ村。代表者の男は村長の息子で死にそうな村長の代理だそうです。名前はハルバとおっしゃいます。
「なんだろうか?」
「助ける手段はある。けど、物凄く時間とお金がかかる。安くても一人金貨四十枚は必要。払える?」
「…………」
まず無理って顔してるね。気持ちはわかる。オレも同じ立場だったら心を折ってるよ。
「提案」
「提案?」
「リンの配下になれば費用はグランディール傭兵団から出せる」
食料供給地。なんていい響きなんだろう。ぜひとも欲しいです。
「は、配下にと言われても、ここはロウル議員が治める地なんだが……」
まあ、無法地帯じゃないんだから統治してるヤツはいるわな。
「なら、ロウル議員に助けてもらえば」
できるんなら、な。
「役に立たない統治者など害悪。害悪に従う民は有害。世界に淘汰されろ」
悪は滅びろ。オレの人生にかかわるな、だ。
金貨が入った袋を村長に渡し、契約書を破る。
「違約金。それで自らを助けよ」
かかわるだけ損──なんて言える立場でもなければ状況でもない。食料供給地は絶対に欲しい。このチャンスを失いたくはない。
「そ、そんな、助けてください! お願いします!」
「リンは、その対価を示せと言ってる」
助かりたいのなら神にでも祈れ。もし神に会ったらファーなクーのユーしちゃっておいて。
「考えることもしない。決断もできない。ただ頼るばかり。家畜以下。ううん。魔物エサ。魔物を肥えさせる存在なら死んでくれたほうが世のため」
「…………」
そこで怒りもすれば気概があると見れるのに、ただただ、俯くばかり。よくそれで生きて来れたよな。その運、オレにくれよ。
なんて、追い詰めるのはこんなものか。
「もう一つ、提案」
「……て、提案……?」
「この村は今まで通り、ロウル議員の統治を続ける。ただ、内緒でグランディール傭兵団に食料を供給してくれればいい。それでお互いが幸せになろう」
獣人に食料を渡していると、嫌がらせを受けるのは避けたい。秘密裏に。獣人とは関係ないスタンスを取ってもらいたいのだ。
「これで最後。もう提案はない」
さあ、村長代理よ。決断の時だ。どうする?
「……わ、わかった……」
手のひらの創造魔法で契約書を二部、創る。
村がグランディール傭兵団に食料を供給する限り、村人の安全はグランディール傭兵団が保護する。
「署名して」
「あ、あの、これにはどんな魔法が……」
「なにも仕掛けてない。グランディール傭兵団が約束を破ったらロウル議員に出せばいい。無理矢理縛られていたって」
なんで今かはそっちで考えて。そこまでは面倒みれんわ。
懐疑的な眼差しでオレを見る村長代理。うん。あなたの懐疑は正しい。なんも仕掛けないワケないだろう。ロウル議員に出したら悲しい出来事が起こるさ。
「すぐに答えがでないなら明日でもいい」
命を粗末にするのは悲しいけど、信頼あっての取引だもん。
「──わ、わかった! 署名する!」
ハイ。ありがとうございま~す。
サラサラサラ~と二部に署名し合う。お互いの幸せのため、大事に保管しててね。
「誓約はここに結ばれた。お互いの幸せが長く続きますように」
ねぇ、村長代理さん。と、愛らしく笑ってみせた。
「……はい……」
ヤダ。バケモノを見たような顔されたらリンちゃん泣いちゃう。
「ハリュシュ。半分をハーケンハイローの残党排除に。残りは氷漬けの人を集めて」
「応援を呼んだほうがいいんじゃないかしら?」
「わかった。呼んで」
そちらはハリュシュに任せ、オレはケガ人の治療といきますか。
フフ。やっと回復魔法を試すときが来た。
こんな医療が遅れている時代なのに使う必要のなかった回復魔法。それでも必要とするときが来ると信じ、かーちゃんをマッサージする振りして回復魔法の訓練をしたり、イメージトレーニングをして来た。
最初のじっ──じゃなくて患者さんは、右腕が肘からなくなっており、肩まで氷で覆われていた。
リリー。オレのやることをコピーしてくれよ。回復魔法を伝授するんだからよ。
「はいはい」
まずは氷を溶かし、壊死した腕を魔法で分解しながら回復魔法をかける。
「うっ!」
分解と回復が合わさったところで患者さんが痛みに呻いた。
……やはり麻酔魔法を創ったほうがよかったかな……?
素人医療だが、魔法による補正? でなんとか腕を回復させた。もちろん、欠損したままだが、治すには魔力が足りない。まずは命を繋ぐのが優先だ。
さあ、ドクターリンのオペはまだまだ続くよ!




