198 観察
神に選ばれし九十九人の生贄たち。
つーか、九十九人ってハンパだよな。見せしめだったろうけど、一人追加して切りよくしろよな、メンドクセー。
まあ、それはともかくとしてだ。オレの中で一番から四十九番目と、五十一番目から九十九番目までの評価は違う。
前者は考えなしアホども。後者は慎重な者だ。
「極端よね。前者にも考えがあった者もいるんじゃないの?」
そうかもな。だが、いたとしても一人か二人だ。そんなヤツはすぐに死ぬか機会が来るまで隠れてるか。もしくはとても運がいいかだ。
「そもそも能力を一つしかくれないってのが鬼畜なんだよ」
環境を望んだ者も何人かいたが、人としてのスペックで邪神の使徒(組織)に勝てるわけもない。人の域を出た能力を持ってなければ早々に詰みだろうよ。
「この子が使徒なの?」
とは魔女イブリーヌ。
ここにいさせていいの? と、疑問に思う方々もいらっしゃるだろう。魔女イブリーヌは思いもしてないみたいだけど。
ウェルヴィーア教は組織としては小さく未熟だ。それを補うためには、大きくて成熟した組織を引き込むのが一番。どんどん巻き込ませろ、だ。
「使徒だとは思う」
「同じ使徒なのにわからないの?」
「使徒は個人経営みたいなもの。横の繋がりはないんだよね」
おそらく邪神側の使徒も横の繋がりはないだろう。だが、繋がってはいけない決まりはない。そこをついて組織化したあいつの厄介さが際立つのだ。
「でも、ウェルヴィーア教には使徒がもう一人いるわよね?」
イビスのことは使徒として広めているが、姿は広めてない。イビスちゃんは裏方だから。
「いるよ。ボクと一緒にいた子がそうだよ」
「あの子が? とてもそうは見えなかったけど……」
まあ、戦闘服着てるからね。シスターには見えんだろうけど。
「人もいろいろ。使徒もいろいろダヨ」
そう、いろいろだから用心しなくちゃならない。神の使徒だから神の言いなりになるとは限らないのだから。
モニターに映された少女は十一、二歳。この界隈(?)では珍しい紺色の髪をしていて、清楚そうな子である。
「あの髪って、ここらでは普通なの?」
「ここから少し離れた山の中に住んでたタラーヤ族の子だと思うわ」
「住んでた?」
過去形やね。
「八年前だったかしら? 魔物の群れに襲われて滅びたのよ。その生き残りが町に流れて来たの」
そんなことあった割には不幸オーラはなく、痩せてはいない。それどころか健康的で引き締まった体だ。
「謎ばっかりだ」
「なにが、謎なのよ?」
「使徒には一つの奇跡が与えられるんだよ」
「……それ、わたしが聞いて大丈夫なやつかしら……?」
「神々の遊戯盤にご招待はされるんじゃないかな?」
オレはいつでもウェルカム。縦横無尽に動かしてやるぜ。
「それは許してください。わたしは、一介の魔女なんだから……」
「駒はたくさんあるから勝負ができるんだよ」
ルール不明のデスゲーム。紙装甲の駒だって得られるなら喜んでいただくさ。
「ごめんなさい。ちょっと急用を思い出したわ──」
音速の回れ右をして部屋を出ていこうとする魔女イブリーヌ。だが、ここに入った時点で手遅れ。いや、オレの前に現れたときからこうなる運命だったのさ。諦めなさい。
「──いやぁー! 出してぇぇぇっ!!」
それは無理と言う話。落ち着くまで叫んでなさいな。
無駄な抵抗をする魔女イブリーヌは放っておくとして、今は使徒に集中だ。
「あの使徒の能力はおそらく変身だろうな」
一番から四十九番まで、変身を願ったものはいなかった。となれば、五十一番以上のものだろう。
オレの願いから考えたのならただの変身ではないはずだ。
邪神にかかわることは鑑定できないように神にかかわるものも鑑定できない。今ある情報から憶測するしかない。
「この姿も変身なんだろうな~」
明らかにこの少女は年上だ。
「おそらく、神は一斉に転生させた。多少の誤差はあろうけど、二年も先に転生させることはしないはずだ」
なら、この姿は本当の姿じゃない。変身した姿だ。
オレなら見たものに変身できる能力にするが、微々たる魔力で変身できるものだろうか? メッチャ魔力を消費しそうだ。手のひらの創造魔法でやろうとしたらイモ六千個はかかりそうだ。
邪神側に知られず魔力を上昇させるなんて無理だ。自由貿易都市群にはたくさんの目と耳があったはずだから。でなきゃオレを見つけるなんて不可能だわ。
二人はなにもしゃべらず、どこかへと向かっている。
「食料買い出しかな?」
と思ったらそうだった。パン屋で岩かと見違えるような黒パンを一つ買った。なんてパンやろ?
男の子のほうは喜んでいるが、少女のほうは特に変わりなし。無だった。
それから商店街へと向かい、イモや燻製肉と思わしきものを買って教会へと帰った。なんか昔を思い出すぜ。
「そう簡単に本性は表さないか」
伝道巡回が来るまで数日。慌てず騒がず使徒を観察しますかね。




