182 いきがけの駄賃
冒険らしい冒険もできず冬が来てしまった。
「……もう十歳か……」
この世界に生まれて十年なのに、なんて濃い人生だったのだろう。小説にしたら三巻くらいになりそうだ。
「十歳か~。ボスと会わなければ生き残れなかっただろうな~」
焚き火に当たりながらホットココアを飲むイビスが小さく返した。
「そう? イビスなら意地汚くも生きてるでしょ」
「意地汚くって、わたしはボスみたいに神経図太くないわ」
図太くはないけど、無神経ではあるからね。失礼だよ、君。
「銃だけで生き残れるほど甘くはない。ボスの言葉が身に染みるよ」
それが理解できただけイビスは強くなったよ。まだ男嫌いは克服してないけど。
「銃だけでは生き残れないけど、生き抜くには銃があるのは心強いよ」
この世界で銃は有効だ。それは女騎士を撃退したことで証明している。なにより、自由貿易都市群に銃を広めることもできた。
銃の有用性を示すように魔物の被害は激減し、自由貿易都市群の流通はよくなっている。
邪神の使徒の動きも見て取れず、冬になるまで漫遊記みたいな感じだった。
「この平和が怖いよ」
邪神の使徒は、なにかを計画している。なんなのかわからないけど、その気配がビンビンと感じるのだ。
「それ、死亡フラグだぜ」
「死亡フラグって、世界標準なの?」
「部隊に日本人がいて、そう言ってたよ」
なんなの君は? 外人部隊にでもいたの? 段々君の過去に触れるの怖くなって来たよ!
「まあ、ボスならそう簡単には死なんだろう。用心深いし、どうなろうと対応してるんだからな」
「一番嫌なのは勝とうとしない戦いをされたときだよ」
「勝とうとしない? どう言うことだ?」
「簡単に言えば混乱させるのが目的で、世界が不幸になればいいってことだよ」
災害竜を計画した者は用心深く、計画を重視するタイプだ。一見、そいつが黒幕に見えるが、女騎士の存在がそれを否定している。
オレの主観だから正解とは言えないが、あれは誰かに仕えている感じがする。女騎士と称したのも戦い方に誰かの命令で動いている感じがしたからだ。
絶対の忠義。私利私欲じゃない、誰かのための戦い。そのイメージがオレの頭から離れてくれないのだ。
「厄介なのが一番上にいる。その下に幹部クラス。末端構成。情報収集。他にもなんかいそうな気がするけど、一番上は災害竜を倒したときに消えた気配がする。今は幹部クラスが仕切ってる感じかな?」
別にニューなタイプじゃないけど、ずっと感じていたプレッシャーが災害竜退治から消えたのだ。
「それを感じ取れるボスが頼もしいよ」
感じ取れてもなんも嬉しくないよ。余計に胃を痛めるだけだ。
「でも、そうなるとこの旅に意味はあるのかい?」
「あると言えばあるし、ないと言えばないかな~」
旅をしていれば邪神の使徒側の牽制になるが、地下に潜られたら意味はない。なんともかんともな状況なのだ。
「魔物の数も減ったしね~」
自由貿易都市群を全部回ったわけじゃないけど、魔物と遭遇する頻度が日々下がっている。最近では四日に一回なくらいの遭遇になってるよ。
「なら、旧ザイフルグ王国にいってはどうだ?」
旧ザイフルグ王国? って、確かガイオーグの故郷か。
あ、ガイオーグとはカイヘンベルクで雇った元戦奴の獣人だよ。今は聖都グランディールにいるよ。たまに戦奴解放のために出かけてるようだけど。
「それもいいかもね」
あちらのほうに逃げたティラウスもいたし、一年以上過ぎてるからいい感じに育ってるかもしれないしな。
「道順は知ってるの?」
「いや、さすがにわからないから、ガイオーグを誘いたい。どうだろうか?」
「じゃあ、誘いましょう」
地の利を知った者がいたほうが都合がいいだろう。獣人を相手するとき同胞がいたほうが話が早いだろうしな。
「そうなると聖都グランディールに向かわなくちゃならないか」
いや、冬の間は聖都グランディールにいるのもいいかもしれんな。まだまだ開発途中だし、物資を運んでいってやろう。
オレより能力が高いとは言え、あの規模の都市を開発する魔力はない。物資はあればあっただけハピネスの負担が軽くなるだろう。
「ついでに移住者も連れていくかな?」
聖都の外には人が集まっているが、聖都内はまだ千人もいない。あぶれている職人とかいたら誘ってみるか。
「なら、いいところがある。ここから少し歩くが、戦奴町がある」
「戦奴町? まだあったの?」
じーちゃんから潰したと報告があったよ。
「モグリの戦奴町だ」
つまり違法の町ってことね。それは都合がいい。
「なら、ケダモノ討伐といきますか」
いきがけの駄賃じゃー!




