178 旅になっている
あの襲撃? から旅は順調だった。
「いや、冒険が旅になってるし!」
オレたち冒険者。危険を冒してナンボの職業なんだよ!
「どうした、ボス? 寝惚けてんのか?」
「寝惚けてない! しっかり起きて大地を踏み締めて歩いているよ!」
もう八日も君の前を元気に歩いてたでしょうが!
ったく。邪神側もなにサボってんだよ。短期決戦を仕掛けて来いや!
「平和は歓迎するけど、邪神側に握られた平和などいらないんだよ!」
与えられた平和に価値なし。自ら築いた平和にこそ価値があるのだ。
「まあ、ボスに勝とうとしたら念入りな準備が必要だからな。忙しいんだろう」
「邪神側はわかってない! ボクみたいな計画重視のタイプを倒そうとしたら考えなしの攻撃のほうがいいの!」
「なんの自己申告書だよ? 敵に知られたら不味いだろうが」
「スズは早く平和にして、のんびりゆったり生きたいの!」
ポテチ食べながらコーラを飲んで本を読みながら平和を堪能したいんだよ!
「ボスの場合、一生平和は来なさそうだけどな」
「不吉なこと言うな!」
「まっとうな予想だと思うが?」
「…………」
ぐうの音も出なかった。自分でも「そうかな~」なんて思ってたりもするから……。
「平和なときに平和を楽しめよ。ボスは切り替えのいい性格してるんだからよ」
なにやらオレよりオレを理解しているイビスちゃん。ヤダ。敵に回ったら厄介な存在になりそうです。
なにか言い返そうとしたら三メートル先を先歩くジェスが振り返った。
ちなみにオレたちは一列になって進んでます。イビスによるとこれが一番襲撃に対応できる陣形なんだってさ。戦争脳って、歩くだけで戦争になるのな……。
「隊商だな」
目のいいイビスが呟く。
オレには見えないので、左指で>を作り右目にかざして千里眼。うん。隊商っぽいな。
「今の時間に隊商とは珍しいこと」
今の時刻は二時半過ぎ。次の町まで二日。休憩地まで半日はかかる。
あ、大街道には一里塚みたいの石が等間隔に埋められていて番号が刻まれているんです。
三十六毎に休憩地があるらしく、さっき見た石塚には十二、だったはず。今からだと確実に暗くなってからの到着だろうよ。
オレらは場所に関係なくキャンプするので自由な旅をしております。いや、また旅って言っちゃったよ。
あちらは竜車なので一時間もしないで追いつかれるが、別に隊商に用もないので接触する気はない。隊商には傭兵団が護衛につくので、下手に接触して揉めるのはイヤだ。構わないのが一番よ。
通りすぎるときに不躾な視線を向けられるが、こちらも不躾に見てるので文句は言えない。
「……止めろよ、そのケンカを売るスタイル……」
別にケンカを売ってるワケじゃない。不躾な視線に不躾な視線を返しているだけだ。
特に教育のなってない傭兵には遠慮しない。上から下まで不躾に見てやる。まるでゴミのように、な。
「──それは敵対行動と判断するぞ」
と、ジェスがオレの目の前に現れて、横を通りすぎようとした傭兵の喉元にグランディールを突きつけた。
「……獣風情が……」
「ケダモノ風情が人の言葉をしゃべるな」
おーおージェスも言うようになったじゃないの。いい成長だ。
「なにをしている!」
と、厳つい髭もじゃオヤジがやって来た。
「こいつが仲間に唾をかけようとした。だから止めた」
「獣人? ──なっ!? グランディール傭兵団の魔物食いだと?!」
おや。ジェスったら魔物食いって呼ばれてんだ。あまりセンスのないあだ名だな。
「知っているなら早い。おれらと敵対したいのなら喜んで敵対してやるよ」
キャー! ジェスったらカッコイイ! 痺れる~!
「いや、すまない! こちらに敵対する意思はない! 悪かった!」
何人も殺してそうな髭もじゃオヤジが可哀相なくらい下手である。
「──バカ野郎が! 仕事サボってんじゃねぇっ!」
と、唾をかけようとした若いあんちゃんがぶん殴られた。あ、歯が何本か飛んでいく~。
「ジェス。いこう」
ケジメはつけてもらったし、敵対しないのなら用はない。まあ、暇潰しにならなかったのは残念だけど。
「どの口が平和だとほざくかね」
この可愛いお口ですけどなにか?
「グランディール傭兵団はウェルヴィーア教信者でもある。敵対したいのならいつでも相手してやる」
ジェスの決めゼリフを残し、旅を続けた。あ、また旅って言っちゃった!




