160 汝は人か?
政治資金パーティーってこんな感じなんだろうか?
市役所の中に舞踏会でもできそうなホールがあるってのも凄いが、議員やら有権者が百人以上集まっており、挨拶が飛び交ってある。
オレはと言うと、壇上にて置物になって、下界を眺めてるだけ。なんとも暇である。
「おじさん相手におしゃべりしたかったの?」
別におじさんとおしゃべりしたいワケじゃないわ。おもしろくない光景を見てるだけが辛いだけだ。
まあ、政治資金ならぬ宗教資金(いただくのは魔力だけど)活動。つまらんと去るワケにもいかない。ガマンの子である。
「と言うか、こんなことする必要あるの? 百人やそこらの魔力を集めるより民衆からもらったほうが多く集まるじゃない」
それはそうだが、都市で布教するには権力者を抱き込むことは必須だ。邪魔されて一番厄介なのが権力者だからな。
「イビスも連れて来るんだった」
暇潰しにはなっただろうしな。
「男が苦手のイビスが苦しむのを見て笑うつもりだったの?」
まあ、当たらずとも遠からずだな。あいつは男に囲まれると女の子になってしまう。それがなかなか可愛かったりするんだよな。
中身さえ気にしなければあわあわ言ってる姿ってのはなんかそそられるものがある。オレ、もしかしてSな感じ?
「たんなる八つ当たりでしょう」
あ、うん。そうだね。さっさと逃げ出したからな、あんにゃろうはよ。
「リン様。皆に挨拶を賜っていただけないでしょうか?」
権力者の間を渡り歩いていたじーちゃんがやって来た。
それ、歓迎会が始まるときにするもんじゃね? なぜここに来て一時間も過ぎてから言うのよ? それがここのやり方なのか?
「値踏みする時間は少なかったですか?」
悪戯っぽく笑いながら囁くじーちゃん。あなた、オレを理解しすぎだよ!
「ううん。充分」
狙うは市長と魔法使いなばーちゃん、あと、商人っぽい六十歳くらいのじーさまの三人だ。
他にもいるが、今回狙うのはその三人でいいだろう。
席から立ち、三十センチほどの演台に上がった。
「皆さん。リン様からの御言葉です」
じーちゃんの言葉に全員の目がオレに向けられる。
「まず、リンのために歓迎会を開いてくれたことに感謝を述べさせて欲しい。…ありがとう」
頭を下げて感謝を述べると、ホールがどよめいた。
神の使徒が頭を下げる。さあ、あんたらはこれをどう取る? 侮るかな? 謙虚と思うかな? 好意に感じるかな?
あんたらの顔や名前はじーちゃんにつけた万能偵察ポッドで収集して、今も全員の行動を見張っている。
お前たちがオレを見ているとき、オレもお前たちを見てるんだよ。
「中二病かよ」
オレが中二病なら肩に乗るお前は病原菌だよ。あと、守護天使さん、お口が悪いですわよ。
「この世界は邪神に狙われている」
まず、そう告げた。
「もちろん、邪神が直接ではなく、邪神の使徒がこの世界を闇に落とそうとしている。皆が知る魔物を使って」
ホールは静かになり、すべての耳がオレの言葉を聞いているのがわかった。
「リンは神により世界を救えと命じられた。けど、この世界は人の世界。人の手で築き、人の手で救わなければならない。神に祈ることは許されても神に頼ることは許されない」
そこで一旦言葉を切り、ホールにいる人々を見回した。
「汝らは人か?」
そう問う。
「人です」
真っ先にじーちゃんが答えた。
「わたしも人じゃ」
魔法使いなばーちゃんがそれに続き、空気を読める者がそれに続く。そうなったら続くのが人。よほどのひねくれ者でなければ拒否はできないだろう。ましてや生き馬の目を抜く権力者。我先に同調するだろうよ。
「リンも人。人として人を救う」
この言葉の意味をちゃんと理解できたのは何人いるだろうか? じーちゃんは別として、五人もいれば万々歳だろうな~。
「どうか世界を守るために力をお貸しください」
これはヒント。ちゃんと理解しろよ。
御清聴ありがとうございましたと頭を下げて席へと戻った。
その後、また御歓談が始まった。
さて。決断は速やかに。行動は迅速に。これは、今後の立場を決める場だぜ。




