142 使徒
「どう言うことか説明して欲しい」
孫の言い分ごもっとも。察しろと言うほうが間違ってる。オレだったら超絶無限な優しい魔法でゲロさせるわ!
……オレ人生に休息はないのだろうか? せめて胃と脳を休める一時が欲しいです……。
ため息一つ吐き、説明するよと、野営地に築いたテントに場所を移した。
こう言うとき給仕する者が欲しいと、孫やハピネス、自分の分のお茶を用意する。茶菓子はビスケットを出す。
一口お茶を飲んでまたため息を吐く。さて。どう説明したらよいのやら。この状況を活かすためのことも考えなくちゃいかんしな~。もう脳がフル回転すぎて焼け切れそうだわ~。
「……自由貿易都市群でウェルヴィーアはどう言う位置?」
「ウェルヴィーア? 創造神のウェルヴィーアかい?」
これまで宗教のことは避けて来たので、この世界の宗教事情はよく知らんのよね。イビスからバリューサ教が主に信じられているとは聞いたけど。
「……どう言う位置と訊かれても、創造神としか知られてないが……」
ないの? 普通、神の頂点を信じるものじゃないのか?
「あなたは神の存在を疑ったりする?」
はぁ? って顔になる孫。
「……なにを言っているんだ? 神を疑うなど異端と思われて迫害されるぞ!」
ヤベー。神が根づいた世界でした!!
「疑ってはいない。神はいる。そして、神に仇なす邪神もいる。魔物が証拠」
邪神の揺り籠とは言ってないが、魔物を生み出す透明の玉があることは教えている。疑うことはあるまいて。
「……君は、いったいなにを……」
「この世界に神に選ばれし九十九人の使徒が遣わされた」
そう言うと、オレを見て、テントの入口を守るように立つイビスを見て、ハピネスを見た。
やはりイビスもオレと同じと見ていたか。まあ、よほどのバカでなければわかることだわな。
「リンとイビスは使徒。神によりウェルヴィーアを救えと命じられた者。ハピネスは神の娘。リンの血肉を使って降臨してもらった」
「…………」
頭が追いつかないって感じだな。
「リンは神よりウェルヴィーアを名乗る許しを得た。ハピネスを頂点に邪神と戦う。それに異を唱えることは神の敵と思ったほうがいい」
どんどん自分を追い込むようで吐きそうである。
「リンはここをウェルヴィーア教の本拠地とする」
理由づけとして弱いかもしれないが、神の名が免罪符。神が白と言えば黒だって白になるのだ。ビバ宗教!
「このことを知るのはあなただけ。それをどう活かすかは自由。ただ、決断は早くしたほうがいい。遅れれば遅れるほど立場は弱くなる」
宗教だけで人の生活が回るなら世は宗教国家だらけになっている。それがならないと言うことはそう言うことだ。反論があるなら言ってみろよ。宗教で人の営みが成り立つと断言してみろよ。愛も金も大切だと考えるオレを黙らせてみろや!
……宗教の有用性は認める。だが、オレは神も宗教は信じないわ……。
「神と邪神が直接戦うことはない。人が人と戦うことになる」
「……そ、それは……?」
「邪神も使徒をこの世に放っている。それはベルホンから報告を受けてるでしょう」
受けてなければ怠慢としてぶっ飛ばしてやるわ。特に傭兵会館の館長をな。
「災害竜も使徒の計画。使徒と思われる女とも戦った。生憎、退かせるのが精一杯だったけど」
あ、そう言えばグリフォンってどうした? 戦ってる最中見なかったけど?
「これから自由貿易都市群は変わる。ううん。リンが全力で変える。そのとき、あなたやじーちゃんはどこにいる?」
さあ、あんたも決めな。オレと歩むか違う道をいくか。もちろん、敵になるなら容赦はしないけどな。
「決断は今すぐ。行動は迅速に。あなたの価値はそれで決まる」
優柔不断で愚図なところがあるが、理解力は早い。
「すぐにお祖父様と話を詰める」
席を立ってテントを出ていった。
ハァ~。臨機応変は疲れるぜ。まあ、孫を焚きつけられたのは良かったけどよ。
「わざわざハピネスを立てなくてもボスが立てばいいじゃないか」
テーブルに突っ伏してると、イビスが尋ねて来た。
「リンは自由に動ける立場にいないとダメ。身動きが取れないと邪神側に遅れを取る」
閉じ籠って人生を平和に、健やかに暮らせるなら閉じ籠るさ。だが、それは袋小路に入ったも同然。窮鼠猫を噛むなんてオレの主義に反する。オレは殺られる前に殺れを主義としたい。
……すると言えないのが泣けて来るぜ……。
「ハピネス。ここを要塞都市とする」
少し瞼を閉じて考え、すぐに開いた。
「わかりました。住みやすくしますね」
さすがオレの血肉を分けた存在。よくわかってるぅ~。
「イビス。リンたちは一旦帰る」
「帰るのか? なぜ?」
「うちに帰るまでが依頼だから」
オレは仕事をきっちりするタイプなんです。




