141 人ならば立て
ぐぬぬぬぬ! 怒りで体が爆発しそうである。
だが、落ち着け。落ち着くんだオレ。短気は損気。癇癪持ちの事破り。怒ったところで状況は良くならない。怒りは損。さらに状況を悪くする。落ち着け落ち着け。落ち着くんだオレ!
神の降臨により、ジェスたちは地に伏している。この状況で怒ればオレの立場が悪くなる。それは悪手。ドン底人生まっしぐらだ。
ピンチはチャンス。災い転じて福となす。神の悪戯ではなく神の祝福。怒る前に頭を働かせろ、だ。
平伏しているジェスたち。イビスはオレを静かに見ている。ハピネスもオレを見ているが、こちらはどうするのかと思っているのだろう。記憶や思考はオレが基礎となっていても別個体。性格や感情まで同じにはならない。
ハピネスが反抗する可能性は低い。まあ、低いとは言え絶対ないと言い切れないから保険もかけてる。想定もしている。なんならオレに反抗しても問題はないとも言い切ってやってもいいわ。ハピネスの思考はオレの思考。どう動くかくらい想像できるわ。
だからと言って感情のままに走られても困るので、仲良くすることは忘れない。無下にすることもしない。その感情を大切にするさ。
「顔を上げて」
死にたくないのならやるしかない。生への執着が原動力。行動が明日を築くのだ。と、強く思い込む。
「リンたちがやることに変わりはない」
顔を上げたジェスたちに厳然たる態度で告げる。もちろん、ハピネスの横に立ってだ。
「この世界は邪神に狙われている」
はっきりと邪神に狙われているとは言ったことはないが、前に神の降臨により災害竜退治は聖戦だと理解し、オレが神の御子だと見ている。イビスもそうだと見てるはず。あ、リリーは知らん。
「神は言われた。この世界を救えと」
それを聞くかは別問題ですけど!
「ハピネスは神の娘。現世に慈愛と幸福を広めるために遣わされた」
思いつき万歳。この場を乗り切れや!
……フッ。自分を追い込んでいくスタイル、オレは大っ嫌いだぜ……。
「けど、神がこの地に手を出すことは禁止されている。この地はこの世界に住む者が決めなくちゃならないから」
頭に血が昇りすぎて鼻血が出そうだ。
「神が決めた不変の法は邪神によって破られた」
誰かそんな神と邪神に罰を与えたまえ。
「されど、神の力は強大。容易く世界を滅ぼしかねない。世界を壊さない力しか現世に現せられない。ハピネスも神の力は使えずこの世界を破るほどの力は使えない」
この加減が難しいわ。
「神に祈ることは許す。だが、神にすがることは許さない。ここは人の世界だから人の力で生きなければならないからだ」
オレは神に祈らない。すがりもしない。ただ、利用してやるだけだ。
「己を人だと思うなら立て」
命令口調で言う。人としての矜持を持たせ、狂信者にならないために。でも、なりそうでメッチャ怖いです。
まずジェスが立ち上がり、ハリュシュと続き全員が立ち上がった。
「ウェルヴィーアの平和と秩序を守る礎となる者だけハピネスに続け」
目でハピネスに歩けと指示を出した。
オレの思いが届いたようで、ハピネスが歩き出す。
その斜め後ろにオレが続き、イビス、ジェス、ハリュシュ、皆と続いて野営地に向かったら、グランディール傭兵団の面々が平伏していた。
……神の野郎、あのやり取りを見せてやがったな……!
孫たちには見せなかったのか、戸惑いの顔で立ち尽くしている。そこは見せておけよ! 説明すんの大変だろうがよ!
「人ならば人に平伏するな! 立て!」
神を容赦なく利用するが、神なんぞに頭を下げることは絶対に許さんわ!
一人立ち、また一人と立ち上がり、全員が立った。
ハピネスの右横に立ち、全員を見回す。
「人に敬意を伝えたいのなら頭を垂れろ。神に祈りたいのなら瞼を閉じて神を見よ。我らは人だ。人の矜持を持ち人の尊厳を忘れるな。できぬ者は去れ! ある者は手を胸に当て応えよ! その胸に矜持があるなら!」
胸に右の手のひらを当ててやってみせた。
すぐに全員が右の手のひらを胸に当てた。
左手でハピネスに触れ、シメの言葉を伝える。
ハピネスが両手のひらを上に両腕を広げた。
「ウェルヴィーアに光あれ」
ハピネスの宣言に全員が「ウェルヴィーアに光あれ」と応えた。
……はぁ~。宗教ってメンドクセーわ……。




