139 ハピネス
とまあ、決めたところですぐにとはいかないのが世の仕組み。これだけの都市なのだから生き残りはいるはず。災害竜が襲って来たからと言って議員が最後までここを死守するワケもない。真っ先に逃げてるはずだ。
勝手に占拠して復興したあとに先住権や治世権を持ち出して来るはず。それを突っぱねるのもいいが、避けられるべきことは避けておくべき。なにより世の仕組みは孫に尋ねるのが手っ取り早いだろうよ。
「ところでボス。あの黒いプリンみたいな物体はなんなんだ?」
少し離れたところにいる野望を指差すイビスちゃん。オレの相棒にプリンとか失礼ですよ。
「リンが小さい頃から育てた野望」
「あ、ああ、あれか。ただのゴミ処理じゃなかったんだな」
野望のことは誰にも隠してないし、憚ることなく野望と呼んでいる。穴を覗けば黒い姿が見えるはずだ。
「ボスのことだから壮大な仕掛けをしてるんだろう?」
「もちろん」
災害竜のお陰で計画は早まったが、オレが望む力を得たとは思う。
「今ならイビスの願いが叶うけど、どうする?」
この場にはジェスたちがいるので主語は外して問うた。
「……この場で訊くと言うボスに不信感しかないのだが……」
「イビスは成長したね」
優しい笑顔で喜んでやる。イビスって純なとこあるから騙されやすいのだ。
「ボスが優しい顔をしたときはろくでもないことを考えてるか、ろくでもないことをしているときだ」
ヤダ。見破られてる!
「なら、次からは普通に接する」
できるかどうかはわからないけど。クセみたいなもんだし。
「……表面ではなく内面を変えてくれると助かるんだがな……」
それは無理。神や邪神への恨みは海より深くダイヤモンドより硬くなっているんだからな。
「どうする? 今なら望みは叶えられるけど」
「ファイナルアンサー的な感じなのか?」
ファイナルアンサーは世界的に有名な言葉なのか?
「そうでもないけど、時間はかかる」
ただ性別を変えるだけならオレの魔力量でも可能だが、イビスが望む肉体となると魔力量は五日分にはなる。これからを考えたら五日なんて使えない。災害竜みたいのがまた出ないと無理だろうな。
「それならまだいいよ。この体も得になることもあるからな」
女湯に入れることが得と言う人生が羨ましいよ……。
「わかった。なら、リンの野望を叶える。おいで」
長年かけて野望にはオレの思考を覚えさせ、オレに反抗させないよう仕込んで来た。
野望のサイズはオレが埋もれるくらいのビーズクッションくらい。災害竜の下半身を食ってなんでこのサイズ? なんて疑問は当然だろう。だが、食ったものを体に使いたくないので溜め込むことにしたのだ。
近くに来た野望に両手を突っ込む。
攻めるも守るも一長一短。攻めるときに攻められ守るべきときに守れるのが理想。だから最初に中立を願った。どちらも取れるよう手のひらの創造魔法をな。
「さあ、野望よ。目覚めるときだ」
手のひらの創造魔法を発動させた。
野望がグニョグニョと蠢き、黒い体が人の形になっていく。
エフェクトもなにもない地味な光景ではあるが、やってることは高度な魔法だ。どうとは説明できないけど!
完全に人の形となり黒から白い肌色に。頭からは金髪の髪が。瞳は緑色へ。オレが理想とする姿へとなった。
「……ボス、なのか……?」
「リンが十八歳になったときの姿」
理想の他に妄想と願望が含まれるが、これに近い姿になると自信はある。本当だよ!
「なぜこの歳なんだ?」
「八歳の体は未熟。だからこの歳にした」
まあ、八歳の体でもいいのだが、見た目は重要だ。見た目で説得させられることもある。集団を纏めるためにも、な。
「あなたはハピネス。ハピネス・グランディール」
娘、ではないが、生みの親たるオレが名をつける。オレの幸福を込めてだ。
「あなたの誕生を祝福する」
共に成長し、幸福を求めようじゃないか。




