138 地下王国
孫の落ち込みを優しい魔法で回復。たくさん食べさせて眠らせると、次の日にはいつもの感じに戻っていた。
「……報告をどうするか……?」
いくのがイヤとかでなく、いかせる者がいないってことで悩んでいるのだ。
普通なら連絡員や監視員を配置するもんだが、連絡員はティラウスに殺され、監視員は蒸気で負傷したらしい。
生き残った傭兵たちも満身創痍。健康なのは孫の護衛の二人だけ。とても報告に出せる状況ではないのだ。
オレとしては好都合だ。まだ排水が終わってなく、卵の殻も回収途中だ。ほんと、どっちも多すぎなんだよ! クソが!
「どうにかならないだろうか?」
それをオレに問うんじゃないよ。それを考えるのはお前だよ。
「傷が癒えたら出させればいい」
それしかないやろ。
「君のところの兵員を貸してもらえないだろうか?」
「貸したところで話が通じるのはじーちゃんだけ。他の議員が信じるとは思えない」
亜人差別は根深い。法をいくら整備し、利を与えたところで感情は簡単には変えられない。うちの兵員がいったところで門前払いされるのがオチだわ。
「じーちゃんに伝わるようにはする。あとはそちらでやって」
万能偵察ポッド通信は確立させているので、マルレインおねーさんに伝えてじーちゃんに報告してもらうよ。
時間がと嘆く孫だが、そんなもん知らんわ。オレには好都合なので愚痴も聞きません。
報告は孫に任せてオレは排水装置を創ることに集中する。
災害竜のいた場所が湖と化し、一晩かけて排水してるのだが、水がなかなか減らなかった。
どんだけ溜まってんだよと万能偵察ポッドを潜らせたら二百メートル潜っても底に辿り着かなかった。
これはタダの穴ではないと排水装置を創ることにしたのだ。
四基の排水装置を使って丸一日排水すると、直径百メートルくらいの円形の穴が現れた。
大穴の周囲は人工的な造りで、煉瓦ともコンクリートとも違う石? でできていた。
「ボス。なんだいこれは?」
それはオレが聞きたいわ。
「そちらにいく」
イビス一人では荷が重いだろうからそちらに向かうことにする。
「ハリュシュ。ここは任せる。ジェスと何人かついて来て」
オレが動けば場が騒ぐ。それに気がついた孫もなんだとやって来た。君は自分の仕事に集中しなさいよ。
「なにかあったのだろう?」
「大きくて深い穴が見つかった」
下手に隠すのも問題があるので正直に話す。
「…………」
孫がまさか? と言う顔をする。
「なに?」
正直にゲロちゃいなよ。
「……あまり知られてないが、ハルオンの地下には迷宮があると噂されていたんだよ……」
ヤダ。なにか方向性が変わって来た予感がする!
「あくまでも伝説で、ハルオンの議員でも知っている者は少ないだろう。わたしもお祖父様の与太話として聞いたからね」
なんでも古代の人が造った地下王国だとかで、怪物が住んでたり金銀財宝が眠ってたりとか、空想どころか妄想話としか思えないものばかり。自分の目で確かめたほうが早いってことだけ理解できた。
災害竜がいたところは楕円形のクレーターみたくなっており、道もないので向かうのも一苦労である。シルバーが、だけど。
万能偵察ポッドが卵の殻や死体(肉塊も含む)を収納したのでなにもなく、殺風景ではあるが、クレーターの真ん中に大穴があると言うのは現実味のない光景であった。
大穴までの落差は五十メートルくらいだろうか? 災害竜がある前になにがあったかはわからない。が、都市の中心にあることからして重要施設があったと思う。
「お待たせ。状況に変化はあった?」
「なにもなしだな。ただ、穴の周りを回ったら地下に通じそうな入口がいくつかあったよ」
その一つを見ると、堆積物はあまりなく、そのまま水没した感じである。
>っと鑑定。いつの時代ですか~?
「……ハルワ歴361年か……」
わかんねーよ! いつだよ! 想像もつかんわ!
何年前かを調べると二千年も前だった。
二千年も前にこれだけのものを造る技術があるとか、ファンタジーの進化は意味わからんわ。
「どうする?」
さて、どうしたものか?
万能偵察ポッドを潜らせているが、三百メートル越えても底には到達してないし、生き物にも遭遇してない。いや、なにもいないことを願うけどさ。
「……放っておくのは危険かな……?」
邪神の揺り籠がないってだけで不安でしかたがないのに、この謎の大穴がさらなる不安を煽り立てる。まず間違いなく邪神側は意図的に災害竜をここに導いた。
それが想像もつかないから胃に穴が開きそうである。オレ、邪神に負けるより先に胃潰瘍で身を滅ぼしそうだわ……。
「ボス、なにが危険なんだ?」
「理由はわからないけど、邪神側はここを狙っている。そんな場所を放棄することは邪神側に与すると同じこと」
今回のことは何十年とかけた計画だろうし、それだけの価値があると言うこと。そんな場所を捨てるなど怖くてできねーよ。
「……ここをいただくか……」
いずれどこかの都市を拠点に、とは思ってたが、ここでもいいのかと思えて来た。
もちろん、デメリットもある。完全に邪神側に目をつけられるし、警備を厚くしなくちゃならない。他の都市を乗っ取ーーではなく、身を置くよりは苦労は多いだろう。
それでもここを奪われて苦しむよりは遥かにマシなはずだ。
「決めた。ここをグランディール傭兵団がいただくことにする」




