127 布陣
「ジェス。脚の速い者を五名選んで災害竜に接近。百メートルまで近づいて。それ以上はダメ。なにも反応がなければ一周してから帰って来て」
ついでに爆雷弾を仕掛けて来てと、ジェスだけに伝える。
「カイドはグスタフの用意」
イビスちゃんの頑張りで無反動砲を出せるようになり、二百個? 発? 門? なんだっけ? ってまあ、わからんから個でいいや。面倒臭い。
「戦車砲どころかバンカーバスターでも持って来ないと無理じゃね?」
「あるなら出して」
バンカーバスターって確か、地中貫通弾だっけ? あるなら欲しいよ。
「無茶言わんでくれ。ミサイルなんて出せんわ」
つまり、身近なものか持てるものしか出せんと言うことか。畜生が。
「ガイオーグの機動隊はバウヘン峠に移動。そちらに陣取って。以下の指揮は任せる。撃つべきときに撃ち、下がるべきときに下がって」
カイヘンベルクでお誘いした元戦奴で隊を創り、銃で武装させた。災害竜と直接戦闘はさせないが、邪神の揺り籠対策として配置するのだ。
本当はイビスに任せたかったが、男恐怖症なのでなんともし難い。ワンマンアーミーは本当に扱い難いぜ。
「ねーとミューリーはアルガ峠に陣取って。退路は絶対に塞がせないで」
自分たちも災害竜と戦いたいと駄々をこねたが、あれは個人でどうこうできる相手ではない。組織で相手する存在だ。
災害竜に苦戦して、背後から魔物が押し寄せるとか考えただけでもゲロを吐くわ。
「イビスはサポート。任せる」
万が一、オレが負傷して動けない場合、担いで逃げてもらいます。絶対、救ってよね!
「ジェスとハリュシュの隊は下まで移動」
本隊を下に配置。各都市の傭兵団が動くまで待機を命じる。
それで陽は暮れ、その日はそれで終了した。
「ボスが緊張とからしくないな」
音もなくイビスの声が横から発せられた。
「相手は狡猾。一瞬も気が抜けない」
「そこまでの敵なのか? 姿も現さないのに」
だから狡猾なのだ。
「見える敵は怖くはない。怖いのは見えない敵」
カイヘンベルクに来たのは雑魚中の雑魚。ゴブリンよりチョロい存在だ。まあ、美味しい敵ではあったけどな。
「敵はいる。なのに見せるのは悪意だけ。影さえ現さない」
作戦から相手の性格を見抜くことはできても本質は見抜けない。目的はわかっても手段がわからない。
ただ、感じからしてそれほど大きい存在(組織でもいい)ではないだろう。
「ボスみたいのがいるんだな」
「リンは裏でコソコソするなんて面倒臭いことはしない」
裏でコソコソとか表で動くより何倍も苦労する。表でもこんなに苦労してるって言うのによ!
「裏でコソコソ動くヤツは狡猾で慎重。何重にも対策して、負けたときを考えてる。姿を現すのは最後の最後。チェックメイトのとき」
そう言うタイプは勝つ気がないか負ける気がないかのどちらかだ。
同じだろう。と思うのは素直な証拠。そのまま素直に生きてくださいな。オレは性格がネジ曲がってるから同じにはできません。
「ふふ。敵が狡猾で慎重ならボスは悪辣で大胆だろうな」
失敬な。オレは優しくて計画的な女の子ですぅ!
「あ、容赦もないな。ボスだけは敵にしたくないよ」
オレとしては誰も敵になって欲しくないがな……。
「ありがとう」
なんだかんだ言って、イビスはいいヤツである。
「どうした、突然!? 敵の精神攻撃か?!」
本当に失敬だよ、君。オレをひとでなしの悪魔と思ってんの?
「似たようなもんじゃない」
守護天使は黙って見守ってろや。
「どうなるかわからない。休めるときに休んでおいて」
災害竜との戦いがどうなるかわからない以上、体調は万全にしておくべき。オレもリリーも魔力を温存してなにも創ってはいない。もちろん、イビスもだ。
「了解、ボス。わたしの命、ボスに賭けるよ」
一か八かなんてオレの主義ではないし、賭けも嫌いだ。やるからには勝つ。そのための用意はした。緊張はしてても不安はない。
「勝つのはリン」
そして、幸せになるのもオレである。




